第七十二話「最初の結晶」
いつも読んでくださりありがとうございます。
今回は、
“全ての始まり”に触れる回です。
小さな願い。
失いたくない想い。
それが、
どうして世界を歪めていったのか。
静かな昔話のような回ですが、
物語の大きな根へ繋がっています。
よろしくお願いします。
焚き火が、小さく揺れていた。
篝の声だけが、
静かに夜へ流れている。
「それは、小さなきっかけに過ぎなかった」
風が吹く。
嵐が、黙って火を見つめている。
篝は、遠い昔を見るように続けた。
「ある村に、一人の少女がいた」
静かな声だった。
「大好きな祖母と、母と3人で暮らしていた」
綾乃が、小さく目を伏せる。
「祖母は病だった」
「長くは生きられんと、誰もが知っていた」
火が爆ぜる。
「少女は毎日、祠へ通った」
「助けてくれと、何度も願った」
蒼真が、静かに聞いている。
「だが、流れは止まらない」
「祖母は死んだ」
風が吹く。
誰も口を挟まない。
「少女は、何日も泣き続けた」
「祠の前で」
篝の声は、どこまでも静かだった。
「そして、残った」
火が揺れる。
「……結晶か」
弦が、小さく呟く。
篝は頷いた。
「強い感情だった」
「悲しみ。
後悔。
愛情」
「それが、一つの結晶となった」
嵐が眉を寄せる。
「ただの石じゃねぇのか」
篝は、静かに首を振る。
「少女は、その石を抱いて眠った」
風が揺れる。
「すると、祖母の夢を見た」
「声を聞いた」
「温もりを感じた」
綾乃が、小さく息を吐く。
「……残ってたのか」
「流れが、留まっていた」
篝は、焚き火を見つめる。
「少女は、母へ石の事を話した」
「不思議な石の話は、
少しずつ村へ広がっていった」
「最初は、誰も悪だとは思わなかった」
「失いたくない」
「忘れたくない」
「もう一度、会いたい」
静かな声。
「人なら、当然の願いだ」
豪山が、重く息を吐く。
その目は、火ではなく、もっと遠くを見ていた。
「……やがて、広まった」
篝の声が、少しだけ低くなる。
「感情の強い結晶は、力を持つ」
「身体を強くする者もいた」
「流れを視る者もいた」
「死にかけた者を、引き留めた者までいた」
弦の顔色が変わる。
「……そこまで」
「人は、奇跡を求める」
篝の目が、
静かに伏せられる。
「そして、欲を覚える」
風が吹いた。
焚き火が、
大きく揺れる。
「国が動いた」
「結晶を集め始めた」
「奪い合いが始まった」
嵐が、小さく舌打ちする。
「……クソみてぇな話だな」
篝は否定しない。
「最初は、本当に小さな願いだった」
静かな声。
「ただ、残したかっただけだ」
蒼真が、静かに刀を見る。
断つ。
流す。
繋ぐ。
残したいという願いも、確かにそこにあった。
火が揺れる。
篝が、ゆっくり目を閉じた。
「そして、戦が始まった」
夜風だけが、静かに流れていた。
第七十二話 終
第七十二話「最初の結晶」でした。
今回は、
“悪意から始まったわけではない”
という部分を大切に描きたかった回でした。
誰かを忘れたくない。
もう一度会いたい。
その気持ち自体は、
きっと間違いではない。
ですが、
強い想いは力になり、
やがて欲へ変わっていく。
ここから、
世界の流れは少しずつ濁り始めます。
そして次回、
争いはさらに大きくなっていきます。
次回もよろしくお願いします。




