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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第七十一話「流れの始まり」

いつも読んでくださりありがとうございます。


 今回から、

 少しずつ“過去”の話へ入っていきます。


 流れとは何か。

 守り人とは何だったのか。


 そして、

 この世界が壊れ始めた理由。


 静かな焚き火の夜と共に、

 読んで頂けたら嬉しいです。

 焚き火の火が、小さく揺れていた。


 子供達は眠っている。

 綾乃《あやの》の薬が効いたのだろう。


 泣き疲れた寝息だけが、静かに夜へ溶けていた。


 豪山《ごうざん》は、木へ背を預けて座っている。

 黒嵐を横へ置いたまま、黙って火を見ていた。


 篝《かがり》の尺八だけが、静かに流れている。


 風。


 音。


 揺れる火。


 嵐《らん》が、耐えきれなくなったように口を開いた。


「……結局、何なんだよ」


 火が揺れる。


「結晶だの、流れだの」


「守り人ってのも、何を守ってんだ」


 篝《かがり》は、しばらく答えなかった。


 やがて。

 静かに尺八を下ろす。


「……話は長くなるが」


 風が吹く。


 弦《げん》が、小さく顔を上げる。


 篝《かがり》は、火を見つめたまま続けた。


「この国には、昔から“流れ”があった」


「命の流れ。

 感情の流れ。

 記憶の流れ」


 蒼真《そうま》が、静かに聞いている。


「人は死ぬ」

「だが、想いは残る」


 綾乃《あやの》が、小さく目を伏せた。


 篝《かがり》の声だけが、静かに流れていく。


「喜び。

 悲しみ。

 後悔。

 憎しみ」


「強い感情は、結晶となって残る」


 嵐《らん》が眉を寄せる。


「……それが、あの石か」


 篝《かがり》は頷く。

「本来、結晶は還される」

「土へ。

 風へ。

 水へ」


「流れは巡り、次の命へ繋がる」


 弦《げん》が、小さく呟いた。

「……だから、止めちゃいけない」


 篝《かがり》の目が、わずかに細くなる。


「そうだ」


 火が揺れる。


「その流れを守っていたのが、守り人だ」


 蒼真《そうま》が、ゆっくり顔を上げる。


「守り人は、人を守るんじゃないのか」


 篝《かがり》は、静かに首を振った。


「人だけを守れば、流れは歪む」

「流れだけを守れば、人が壊れる」


「だから守り人は、両方を見続ける」


 豪山《ごうざん》が、小さく息を吐いた。

「……簡単じゃねぇ」


「だから壊れる」

 篝《かがり》の声には、わずかに苦さが混じっていた。


 風が吹く。

 火が揺れる。


「各地には、祠が置かれた」

「流れが集まる場所だ」

「土地の感情。

 記憶。

 結晶」


「全て、祠へ流れる」


 弦《げん》の顔色が変わる。

「……結節点か」


「そうだ」

 篝《かがり》は頷く。


「だから、各地に守り人がいた」


「深山は風を視る」


「水無瀬は流れを癒す」


「灯宮は迷った流れを導く」


「土御門は記し、忘れぬよう残す」


 蒼真《そうま》が、静かに拳を握る。


「……神代は」

 篝《かがり》が、ゆっくり蒼真《そうま》を見る。


 火が揺れた。


「神代は、流れの中心だった」


 空気が変わる。


「紡ぐ者と、断つ者」

「流れを巡らせる為の家系だ」


 蒼真《そうま》の目が、わずかに揺れる。


 篝《かがり》は続ける。


「だが――」


 風が止まる。

「戦が起きた」


「最初は小さな争いだった」


「だが人は、結晶の力を知ってしまった」


 綾乃《あやの》が、苦い顔をする。


「感情は、力になる」


 豪山《ごうざん》が、静かに呟く。


「人は、苦しみすら利用する」


 焚き火が、小さく爆ぜた。

 篝《かがり》の目が、静かに伏せられる。


「そして、流れは濁った」


 夜風だけが、静かに吹いていた。


⸻


第七十一話 終

第七十一話「流れの始まり」でした。


 ここから、

 『紡ぎの剣』の“根”にある話が始まります。


 流れ。

 結晶。

 祠。

 守り人。


 今まで断片的だったものが、

 少しずつ繋がっていきます。


 そして今回、

 蒼真《そうま》達は初めて、

 “戦いの理由”そのものへ触れ始めました。


 静かな回ですが、

 物語の土台になる大事な一話です。


 次回もよろしくお願いします。

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