第七十話「止まれなかった者」
いつも読んでくださりありがとうございます。
戦いが終わった後も、
流れは止まりません。
今回は、
篝が語る“止まれなかった者達”の話です。
静かな夜の中で、
少しずつ過去と真実へ踏み込んでいきます。
よろしくお願いします。
夜は、深かった。
子供達は、
綾乃の薬で眠っている。
泣き疲れた寝息だけが、
静かに揺れていた。
焚き火の音。
風。
そして、小さな尺八の音色。
篝は、少し離れた場所で静かに奏でる。
豪山は、木へ背を預けたまま目を閉じていた。
黒嵐は横。
その呼吸は、まだ少し重い。
綾乃が、小さく息を吐いた。
「……無茶しすぎだ」
豪山が鼻で笑う。
「今更だろ」
「笑い事じゃない」
綾乃の声が響く。
「黒い流れが、まだ残ってる」
豪山は答えない。
尺八の音色だけが流れている。
やがて。
篝が、静かに音を止めた。
「……抱え込みすぎる」
豪山が目を開く。
「守るってのは、そういうもんだろ」
篝は、焚き火を見る。
「お前は昔から変わらん」
豪山が小さく笑う。
「お前もな」
嵐が、その空気を見ていた。
「……知り合いだったのか?」
篝は答えない。
代わりに、豪山が口を開いた。
「戦場で何度か会った」
蒼真が目を細める。
「戦場?」
風が吹く。
火が揺れる。
篝の目が、静かに細くなる。
「……死が多すぎた時代だ」
沈んだ声。
「流れが、溢れていた」
弦が、小さく顔を上げる。
「……結晶か」
篝が頷く。
「恐怖。憎しみ。後悔」
「流れは濁り、留まり続けた」
綾乃が、静かに呟く。
「だから……
結晶を集めてる奴がいる」
篝は、しばらく黙っていた。
やがて。
「……止めようとした者がいた」
空気が変わる。
豪山の目が、わずかに伏せられる。
蒼真が、篝を見る。
「誰だ」
尺八が、小さく鳴った。
「流れに、
終わりを与えようとした者だ」
弦の顔色が変わる。
「まさか……」
篝が、静かに頷く。
「守り人だった」
沈黙。
風。
火。
誰も、すぐには言葉を出せない。
嵐が低く言う。
「……敵じゃねぇのかよ」
篝の目が、静かに揺れた。
「違う」
「違ってしまった」
その言葉。
豪山が、ゆっくり目を閉じる。
蒼真が、低く問う。
「そいつは今、何をしようとしてる」
篝は、夜の奥を見る。
「止まった流れを、無理やり終わらせようとしている」
弦が息を呑む。
「……全部、結晶化する気か」
篝は答えない。
その沈黙が、答えだった。
焚き火が揺れる。
遠く。
風の奥で。
何かが、静かに軋んでいた。
第七十話 終
第七十話「止まれなかった者」でした。
ここから物語は、
“戦い”だけではなく、
“何故こうなったのか”へ入っていきます。
篝、
豪山、
綾乃。
それぞれが見てきたもの。
そして、
止められなかったもの。
この辺りから、
『紡ぎの剣』の核心へ近づいていきます。
次回もよろしくお願いします。




