第六十三話「残された灯」
いつも読んでくださりありがとうございます。
今回は、戦いの前の“静かな痛み”の回です。
残された灯。
残された痕跡。
そして、残された想い。
豪山が何を見て、
何を背負っているのか。
少しでも感じて頂けたら嬉しいです。
夜の村は、静かだった。
その静けさは、いつものものではない。
“抜け落ちている”。
そんな静けさだった。
風が吹く。
崩れた柵が軋む。
蒼真達は、豪山の後を歩いていた。
足が止まる。
一軒の家。
小さい。
手入れはされていた。
庭には、木彫りの玩具が転がっている。
嵐が、わずかに目を伏せた。
「……ここか」
豪山は答えない。
家の奥を見る。
灯が残っていた。
小さな火。
消えかけている。
豪山が、静かに中へ入る。
蒼真達も続いた。
部屋は荒れていた。
争った跡。
床に残る爪痕。
割れた器。
そして、小さな足跡。
引きずられている。
綾乃が、息を呑んだ。
「……子供だけじゃない」
弦が、床へ視線を落とす。
黒い糸。
細い。
濃い。
「……恐怖だ」
嵐が、壁を殴りそうになる。
「クソが……!!」
豪山だけが、動かなかった。
部屋の奥。
そこに、一枚の布が落ちている。
小さい。
子供用の布。
豪山が、ゆっくり拾う。
風が吹く。
「……泣いてたか」
小さな声だった。
誰へ向けたものか、分からない。
「怖かったろうな」
その声に、嵐が何も言えなくなる。
豪山は、静かに布を握った。
その手だけが、わずかに震えていた。
「……行くぞ」
蒼真が、豪山を見る。
怒っている。
焦っている。
それ以上に。
“間に合わせようとしている”。
そんな目だった。
弦が、ゆっくり目を閉じる。
風。
流れ。
山の奥。
複数。
泣き声。
黒い感情。
そして――
「……結晶化が始まってる」
空気が凍る。
綾乃の目が変わった。
「早い……!」
嵐が振り向く。
「どういう事だ」
綾乃が、低く言う。
「感情を極限まで追い込むと、
流れが固まる」
「子供ほど純度が高い」
蒼真が、刀へ手をかける。
嫌な想像だけは、はっきり浮かんでいた。
豪山が、黒嵐へ手をかける。
「助ける」
自分へ言い聞かせるような声だった。
「……今度は間に合わせる」
風が吹く。
灯が揺れる。
その瞬間。
外から、静かな音が流れた。
尺八。
小さい。
遠い。
確かに聞こえる。
豪山が、わずかに目を細めた。
蒼真が振り向く。
夜の奥。
暗闇の中。
小さな灯だけが、
静かに揺れていた。
第六十三話 終
第六十三話「残された灯」でした。
今回は、
豪山の“守れなかった側”を書きたかった回でした。
強い人ほど、
助けられなかった記憶を抱え続ける。
だからこそ、
彼は子供達を見捨てられません。
そして少しずつ、
“結晶化”という異常も見え始めました。
静かな回ですが、
次へ繋がる大事な一話になっています。
次回もよろしくお願いします。




