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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第六十三話「残された灯」

いつも読んでくださりありがとうございます。


 今回は、戦いの前の“静かな痛み”の回です。


 残された灯。

 残された痕跡。

 そして、残された想い。


 豪山ごうざんが何を見て、

 何を背負っているのか。


 少しでも感じて頂けたら嬉しいです。

 夜の村は、静かだった。


 その静けさは、いつものものではない。


 “抜け落ちている”。

 そんな静けさだった。


 風が吹く。

 崩れた柵が軋む。


 蒼真そうま達は、豪山ごうざんの後を歩いていた。


 足が止まる。

 一軒の家。

 小さい。


 手入れはされていた。

 庭には、木彫りの玩具が転がっている。


 らんが、わずかに目を伏せた。


「……ここか」


 豪山ごうざんは答えない。

 家の奥を見る。


 灯が残っていた。

 小さな火。

 消えかけている。


 豪山ごうざんが、静かに中へ入る。

 蒼真そうま達も続いた。


 部屋は荒れていた。

 争った跡。

 床に残る爪痕。

 割れた器。


 そして、小さな足跡。

 引きずられている。


 綾乃あやのが、息を呑んだ。


「……子供だけじゃない」

 げんが、床へ視線を落とす。


 黒い糸。

 細い。

 濃い。


「……恐怖だ」


 らんが、壁を殴りそうになる。


「クソが……!!」


 豪山ごうざんだけが、動かなかった。


 部屋の奥。

 そこに、一枚の布が落ちている。

 小さい。

 子供用の布。

 豪山ごうざんが、ゆっくり拾う。


 風が吹く。


「……泣いてたか」

 小さな声だった。


 誰へ向けたものか、分からない。


「怖かったろうな」


 その声に、らんが何も言えなくなる。


 豪山ごうざんは、静かに布を握った。

 その手だけが、わずかに震えていた。


「……行くぞ」


 蒼真そうまが、豪山ごうざんを見る。

 怒っている。

 焦っている。


 それ以上に。


 “間に合わせようとしている”。


 そんな目だった。


 げんが、ゆっくり目を閉じる。


 風。

 流れ。

 山の奥。

 複数。

 泣き声。

 黒い感情。


 そして――


「……結晶化が始まってる」


 空気が凍る。


 綾乃あやのの目が変わった。


「早い……!」


 らんが振り向く。


「どういう事だ」


 綾乃あやのが、低く言う。


「感情を極限まで追い込むと、

 流れが固まる」


「子供ほど純度が高い」


 蒼真そうまが、刀へ手をかける。

 嫌な想像だけは、はっきり浮かんでいた。


 豪山ごうざんが、黒嵐へ手をかける。


「助ける」

 自分へ言い聞かせるような声だった。


「……今度は間に合わせる」


 風が吹く。

 灯が揺れる。


 その瞬間。


 外から、静かな音が流れた。


 尺八。

 小さい。

 遠い。


 確かに聞こえる。


 豪山ごうざんが、わずかに目を細めた。


 蒼真そうまが振り向く。


 夜の奥。

 暗闇の中。


 小さな灯だけが、

 静かに揺れていた。



第六十三話 終

第六十三話「残された灯」でした。


 今回は、

 豪山ごうざんの“守れなかった側”を書きたかった回でした。


 強い人ほど、

 助けられなかった記憶を抱え続ける。


 だからこそ、

 彼は子供達を見捨てられません。


 そして少しずつ、

 “結晶化”という異常も見え始めました。


 静かな回ですが、

 次へ繋がる大事な一話になっています。


 次回もよろしくお願いします。

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