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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第六十二話「泣いている流れ」

いつも読んでくださりありがとうございます。


 静かだった夜が、少しずつ不穏な流れへ変わっていきます。


 そして今回は、

 豪山ごうざんとの再会回でもあります。


 “泣いている流れ”の先で、

 蒼真そうま達が何を見るのか。


 楽しんで頂けたら嬉しいです。


 夜の山道を、駆ける。

 風が強い。

 枝が揺れる。

 地面は濡れていた。


 らんが先頭を走る。

「どこだ!!」

 焦りを隠さない声。


 げんが目を閉じる。


 風。

 流れ。

 感情。

 遠く。

 確かにある。

 嫌な揺れ。


「……右だ」


 蒼真そうまが方向を変える。

 全員が走る。


 綾乃あやのだけが、少し遅れて空を見る。

 嫌な空気だった。

 静かすぎる。


 その時。

 ――声。

 小さい。

 泣き声。


 らんが止まる。

「……っ!」


 その先。

 木々の隙間。

 灯が見えた。


 静かすぎる。

 子供の声がない。


 蒼真そうまが、ゆっくり歩みを落とす。


 地面。

 争った跡。

 崩れた柵。

 血。

 そして、黒い糸。


 残っている。


 げんが、低く呟く。

「……遅かったか」


 その瞬間。


「遅くねぇ!!」

 怒声。


 全員が振り向く。

 一人の男が立っていた。


 大きい。

 傷だらけの体。

 片手には、巨大な刀。


 黒い刀身。


 男の目だけが、異様に鋭かった。


「まだだ」

「まだ、終わってねぇ」


 らんが振り返る。

豪山ごうざん!」


 村の奥を見る拳が、わずかに震えていた。


「……連れて行かれた」

 声が落ちる。


「ガキ共を」


 蒼真そうまが目を細める。

「何があった」


 豪山ごうざんは、ゆっくり振り向く。

 その目には、怒りと、焦りと、恐怖が混ざっていた。


「黒い連中だ」

「人じゃねぇ」


 風が吹く。

 黒い糸が揺れる。


 げんの顔が険しくなる。

「……絡人らくとじゃない」

「意志がある」


 らんが舌打ちする。

「チッ……無月むつきか」


 男の目が動いた。

「知ってんのか」


 蒼真そうまが答える。

「ああ」


 短い返事。


 村の奥から、小さな泣き声が聞こえる。

 隠れていた子供だった。

 震えている。


 綾乃あやのが、静かに近づく。

「大丈夫」


 子供が涙を浮かべる。

「……みんな、連れてかれた……」


 男の顔が歪む。

 拳が軋むほど握られていた。


「……まただ」

 小さな声。

 誰にも聞かせるつもりのない声。


 蒼真そうまには聞こえた。

 守れなかった声。


 豪山ごうざんが、ゆっくり黒い刀を担ぐ。


「俺は行く」

 その一言に、迷いはなかった。


「死ぬ気か」

 綾乃あやのが低く言う。


 豪山ごうざんは笑わない。


「守れなかったままの方が、死んでる」


 風が止まる。


 蒼真そうまが、静かに刀へ手をかけた。

「……案内しろ」


 男が目を細める。

「お前ら」


 らんが前へ出る。

「ガキ助けるんだろ」


 短い沈黙。


 男は、小さく息を吐いた。

 その目が、初めて少しだけ緩む。


 風が吹く。

 遠く。

 夜の奥で。


 何かが、泣いていた。



第六十二話 終

第六十二話「泣いている流れ」でした。


 豪山ごうざん、本格合流です。


 強い人なのですが、

 今回は“怒り”よりも、

 “守れなかった焦り”を強く描きたかった回でした。


 そして少しずつ、

 敵側の異質さも見え始めています。


 ここから物語の空気が、

 さらに重く、深くなっていきます。


 次回もよろしくお願いします。

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