第六十二話「泣いている流れ」
いつも読んでくださりありがとうございます。
静かだった夜が、少しずつ不穏な流れへ変わっていきます。
そして今回は、
豪山との再会回でもあります。
“泣いている流れ”の先で、
蒼真達が何を見るのか。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
夜の山道を、駆ける。
風が強い。
枝が揺れる。
地面は濡れていた。
嵐が先頭を走る。
「どこだ!!」
焦りを隠さない声。
弦が目を閉じる。
風。
流れ。
感情。
遠く。
確かにある。
嫌な揺れ。
「……右だ」
蒼真が方向を変える。
全員が走る。
綾乃だけが、少し遅れて空を見る。
嫌な空気だった。
静かすぎる。
その時。
――声。
小さい。
泣き声。
嵐が止まる。
「……っ!」
その先。
木々の隙間。
灯が見えた。
静かすぎる。
子供の声がない。
蒼真が、ゆっくり歩みを落とす。
地面。
争った跡。
崩れた柵。
血。
そして、黒い糸。
残っている。
弦が、低く呟く。
「……遅かったか」
その瞬間。
「遅くねぇ!!」
怒声。
全員が振り向く。
一人の男が立っていた。
大きい。
傷だらけの体。
片手には、巨大な刀。
黒い刀身。
男の目だけが、異様に鋭かった。
「まだだ」
「まだ、終わってねぇ」
嵐が振り返る。
「豪山!」
村の奥を見る拳が、わずかに震えていた。
「……連れて行かれた」
声が落ちる。
「ガキ共を」
蒼真が目を細める。
「何があった」
豪山は、ゆっくり振り向く。
その目には、怒りと、焦りと、恐怖が混ざっていた。
「黒い連中だ」
「人じゃねぇ」
風が吹く。
黒い糸が揺れる。
弦の顔が険しくなる。
「……絡人じゃない」
「意志がある」
嵐が舌打ちする。
「チッ……無月か」
男の目が動いた。
「知ってんのか」
蒼真が答える。
「ああ」
短い返事。
村の奥から、小さな泣き声が聞こえる。
隠れていた子供だった。
震えている。
綾乃が、静かに近づく。
「大丈夫」
子供が涙を浮かべる。
「……みんな、連れてかれた……」
男の顔が歪む。
拳が軋むほど握られていた。
「……まただ」
小さな声。
誰にも聞かせるつもりのない声。
蒼真には聞こえた。
守れなかった声。
豪山が、ゆっくり黒い刀を担ぐ。
「俺は行く」
その一言に、迷いはなかった。
「死ぬ気か」
綾乃が低く言う。
豪山は笑わない。
「守れなかったままの方が、死んでる」
風が止まる。
蒼真が、静かに刀へ手をかけた。
「……案内しろ」
男が目を細める。
「お前ら」
嵐が前へ出る。
「ガキ助けるんだろ」
短い沈黙。
男は、小さく息を吐いた。
その目が、初めて少しだけ緩む。
風が吹く。
遠く。
夜の奥で。
何かが、泣いていた。
第六十二話 終
第六十二話「泣いている流れ」でした。
豪山、本格合流です。
強い人なのですが、
今回は“怒り”よりも、
“守れなかった焦り”を強く描きたかった回でした。
そして少しずつ、
敵側の異質さも見え始めています。
ここから物語の空気が、
さらに重く、深くなっていきます。
次回もよろしくお願いします。




