表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
61/108

第六十一話「導く音」

いつも読んでくださりありがとうございます。


 今回から、新たな流れが動き始めます。


 “断つ”でもなく、

 “祓う”でもない。


 静かに流れを導く者。


 夜の音と共に現れる、新たな出会いを楽しんで頂けたら嬉しいです。

 夜は、静かだった。


 火の音だけが、小さく揺れている。


 綾乃あやのは、少し離れた場所で酒を飲んでいた。

 らんは、木にもたれて座っている。


 げんだけが、風の流れを見ていた。


 蒼真そうまは、崩れた町を振り返る。


 静かだ。

 しかし、どこか“残っている”。


 笑い声。

 泣き声。

 怒声。


 人が生きていた気配だけが、薄く漂っていた。


 その時、……音。

 小さい。

 確かに聞こえた。


 静かな音色。


 細く

 長く

 夜を流れていく。


 らんが顔を上げる。

「……なんだ?」


 綾乃あやのの手が止まる。


 げんだけが、わずかに目を細めた。

「……尺八」


 風が揺れる。

 音は、不思議だった。


 怖くない。

 胸の奥へ静かに沈んでくる。


 蒼真そうまが立ち上がる。

「近いな」


 げんが、ゆっくり周囲を見る。

「……流れが変わった」


「何?」

 らんが眉を寄せる。


「さっきまで残ってた感情が、静かになってる」


 綾乃あやのが、小さく息を吐いた。

「……弔いの音色…?」


 音は続く。

 静かに。

 まるで、泣いているものを眠らせるように。


「行くぞ」

 蒼真そうまが立ち上がる。


 崩れた町の奥。

 そこに、一つだけ灯がある。


 小さな篝火かがりび

 その前に、一人の男が座っている。


 編笠。

 黒い旅装束。

 膝には、尺八。

 周囲には、小さな結晶が並べられていた。


 淡く光っている。


 男は、静かに尺八を吹いていた。


 風が流れる。


 黒く濁っていた感情の残滓が、

 音と共に、ゆっくりほどけていく。


 蒼真そうまは、その光景を見ていた。


 初めてだった。

 断つでもない。

 祓うでもない。

 ただ、静かに流している。


 やがて。

 音が止まる。


 静寂。


 男が、ゆっくり目を開く。

 その目は、妙に静かだった。


「……眠れぬ者が、多い」


 らんが警戒する。

「誰だ、おっさん」


 男は答えない。


 ただ、結晶へ小さく灯を置く。

「残った想いは、流さねばならない」


 げんが、その男を見ていた。


 見える。

 この男の周囲だけ、流れが乱れていない。

 澄んでいる。


「……導いてるのか」

 小さな呟き。


 男が、そこで初めてげんを見る。


 一瞬。

 風が止まったような感覚。


「……深山みやまか」


 げんの目が、わずかに揺れる。

「……知っているのか」


「風は覚えている」

 意味の分からない言葉。


 だが、げんは何も返せなかった。


 男は立ち上がる。

 背は高い。

 年齢は分からない。

 長く旅をしてきた空気だけは分かった。


 綾乃あやのが、静かに口を開く。

「……あんた、何者だ」


 火が揺れる。


 男は、静かに空を見上げた。

「幼い流れが、泣いている」


 一瞬、げんの顔色が変わる。

「……っ」


 風。

 糸。

 遠く。

 確かに、嫌な揺れがある。


 綾乃あやのが眉を寄せる。

「……子供?」


 男は、静かに頷く。

「山を越えた先だ」


 蒼真そうまが、刀へ手をかける。


 空気が変わる。


 らんが立ち上がった。

「……行くぞ」


 風が吹く。

 男は、再び尺八を手に取る。


 静かな音色が、再び夜へ流れていった。



第六十一話 終

第六十一話「導く音」でした。


 かがり、登場回です。


 ここから物語は、

 “戦い”だけではなく、

 “流れ”そのものへ踏み込んでいきます。


 そして豪山ごうざん編の始まりでもあります。


 静かな夜と、尺八の音。

 少しでも空気を感じて頂けたら嬉しいです。


 次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ