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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第五十七話「守る理由」

第五十七話は、

“守る理由”の話です。


理解できない感情も、

時に人を止めます。

 道は、静かだった。


 綾乃あやのの町を出て、

 数日。


 蒼真そうま達は、次の土地へ向かっていた。


 森の奥。

 風は弱い。


 げんだけが、静かに足を止めた。


「……いるな」


 らんが、眉を寄せる。


絡人らくとか?」


 げんは、ゆっくり頷いた。

「数が多い」


 その瞬間だった。


「いやぁぁぁぁ!!」

 女の悲鳴。


 蒼真そうま達が、一気に駆ける。


 開けた場所。

 そこには、絡人らくとに囲まれた、一組の親子がいた。


 母親は、子供を抱きしめている。

 肩が震えていた。


 だが、まだ引かれていない。


「この子だけは!!」

 必死な声。


「この子だけは、助けて!!」


 子供が泣いている。

「かぁちゃん……!!」

「こわいよぉ……!!」


 その恐怖へ、絡人らくと達が寄っていく。


 空気が重い。

 感情が、引き寄せられている。


 綾乃あやのが、舌打ちした。

「ちっ……!!」


 火焔玉。


 ぱぁっ――


 青白い火。

 薬草の香り。

 霧が散れる。


 らんが飛び込む。

「下がってろ!!」


 拳。

 絡人らくとが吹き飛ぶ。


 げんの矢が走る。

 正確。

 迷いがない。


 蒼真そうまは、黒い糸を見る。

 流れ。

 恐怖へ絡みつくもの。


 剣が走る。


 一閃。

 糸が断ち切られる。


 絡人達が、静かに崩れた。


 母親が、子供を強く抱きしめる。


「よかった……」

「よかった……!!」

 泣いていた。


 子供も、母親へしがみついている。


 その光景を。

 一人、見ている者がいた。


 木々の奥。

 影。


 無月むつきだった。


 感情のない目。

 静かな呼吸。


 視線だけが、母親へ向いている。


「……」


 理解できなかった。

 なぜ?

 自分より、子供を優先する。


 死ぬ可能性が高まる。

 合理的ではない。

 なのに。

 母親は、迷わなかった。


 無月むつきが、わずかに首を傾ける。


「……なぜだ」

 誰にも聞こえない声。


 蒼真そうま達は、気づかない。


 無月むつきは、しばらくその光景を見ていた。


 子供を抱く母親。

 安心した顔。

 泣き声。

 知らないものだった。


 やがて。

 無月むつきは、静かに踵を返す。


 音はない。

 ただ。

 去り際。

 もう一度だけ、振り返った。


 その目にあるものは、まだ誰にも分からない。



第五十七話 終








人は時に、

自分より大切なもののために動きます。

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