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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第五十五話「流れへ返す」

第五十五話は、

“流れへ返す”話です。


留まり続けた想いにも、

帰る場所があるのかもしれません。


 霧が揺れていた。


 祠。

 墓。

 願い。


 留まり続けた想いが、夜の森を満たしている。


 核は、静かに脈打っていた。


 どくん。


 蒼真そうまは、剣を握る。

 胸が重かった。

 見えてしまう。

 全部。


 帰ってきてほしかった想い。

 一人にされた痛み。

 忘れたくなかった願い。

 悪意じゃない。

 だから苦しい。


 らんが、拳を握る。


「蒼真」

 短い声。


 蒼真そうまは、小さく息を吐いた。


「……ああ」


 綾乃あやのが、火焔玉を構える。


「道作る」

「迷うな」


 ぱぁっ――


 青白い火。

 薬草の香り。

 霧が散れる。


 まるで、夜の中へ一筋だけ道ができたようだった。


 げんが、静かに目を閉じる。


「……流れを戻せ」


 風が吹く。


 蒼真そうまは、一歩前へ出た。


 霧の人影が、揺れる。


 泣いている。

 待っている。


 その姿が、一瞬だけ“人”に見えた。


 蒼真そうまは、剣を下ろさない。


 ゆっくり。

 静かに。


「……もういい」

 その声は、優しかった。


「帰れ」


 核が脈打つ。


 どくん――


 霧が、一斉に蒼真そうまへ流れた。


 らんが前へ出る。


「蒼真!!」


 蒼真そうまは、動かなかった。

 見えていた。


 流れ。

 止まっていたもの。

 絡まっていたもの。


 本来なら、流れていくはずだった想い。


 剣が動く。


 一閃。


 黒い糸が断ち切られる。


 風。


 次の瞬間。

 核へ絡みついていた流れが、一気にほどけた。


 霧の人影達が、揺れる。

 泣いていた。


 少しだけ。

 穏やかだった。


 綾乃あやのが、静かに火焔玉を投げる。


 青白い火。

 薬草の香り。


 霧が、空へ溶けていく。

 弔いのようだった。


 蒼真そうまは、最後まで剣を下ろさない。


 そして。

 核が、静かに崩れた。


 どさり。


 音は、それだけだった。


 森に風が戻る。

 重かった空気が、少しだけ軽くなった。


 らんが、息を吐く。


「……終わったのか」


 げんが、静かに空を見る。


「流れたな」


 綾乃あやのは、酒を一口飲んだ。


「……帰れたなら、それでいい」


 蒼真そうまだけは、まだ祠を見ていた。

 胸の奥が、少しだけ痛かった。


 もし。

 つむぎだったら。

 自分は、断てるのか。


 風だけが、静かに吹いていた。




第五十五話 終




別れは、

消えることではありません。

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