表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/111

第五十四話「帰すべきもの」

第五十四話は、

“帰すべきもの”の話です。


残り続ける想いは、

時に行き場を失います。


 核は、静かに脈打っていた。


 どくん。


 祠の奥。

 黒い塊が、生き物のように揺れる。

 その周囲を、霧の人影が漂っていた。


 泣いている。

 笑っている。

 誰かを待っている。


 らんが、拳を握る。

「……気味悪ぃ」


 蒼真そうまは、すぐには斬れなかった。

 

 見えてしまう。

 “想い”が。

 残された声。

 帰ってきてほしかった願い。

 一人にされた痛み。


 全部が、核へ沈んでいる。


 綾乃あやのが、静かに前へ出た。

「……まだ混ざってるな」


 蒼真そうまが見る。

「混ざってる?」


 綾乃あやのは、火焔玉を手にしたまま答える。


「生きてる側の感情だ」

「完全に沈みきってねぇ」

 その声は、医者のものだった。


「まだ戻せる」


 げんが、静かに核を見る。


「だが、深いな」


 風が止まる。

 その瞬間。

 核が、大きく脈打った。


 どくん――


 霧が、一斉に揺れる。


「帰ってきて……」


「一人にしないで……」


「置いていかないで……」


 声。


 声。


 声。


 らんが、歯を食いしばる。

 頭へ響く。


 じん


 奏多かなた


 一瞬だけ、笑っていた頃が浮かんだ。


「っ……!!」


 綾乃あやのが、らんの肩を掴む。


「飲まれるな!!」


 火焔玉。


 ぱぁっ――


 薬草の香り。

 温かい。


 らんの呼吸が、少し戻る。


「……ちっ」

 綾乃あやのが舌打ちする。


「数が多すぎる」


 蒼真そうまは、剣を握った。


 核を断てば、終わるかもしれない。


 だが、ここにはまだ“生きてる側”が残っている。


 その時。

 げんが、小さく呟いた。

「……帰せ」

 静かな声。


「留まりすぎた」

 風が吹く。

 霧の人影が、揺れる。


 蒼真そうまの目に、一瞬だけ見えた。

 泣きながら、誰かを待ち続けている影。


 もう、どこにも行けなくなっている。


 綾乃あやのが、静かに目を閉じた。

「……ああ」


「帰してやるか」

 その声は、優しかった。


 蒼真そうまが、ゆっくり剣を構える。


 らんが、拳を握る。


 げんは、風を見る。


 綾乃あやのは、最後の火焔玉へ火をつけた。


 青白い炎。

 薬草の香り。


 まるで。

 弔いの火だった。



第五十四話 終




優しさは、

留まり続けると痛みに変わることがあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ