第五十三話「想いの溜まり場」
第五十三話は、
“想いの溜まり場”の話です。
人の願いは、
時に留まり続けます。
夜の風は、冷たかった。
町外れ。
森へ続く道を、蒼真達は進んでいた。
黒い糸は、まだ続いている。
細く。
だが確かに。
蒼真は、その流れを見ていた。
胸の奥が、少し重い。
嵐が、歩きながら顔をしかめる。
「……腹は治ってきた」
綾乃が即答する。
「まずそこから学べ」
「うるせぇな」
弦だけは、静かに風を見ていた。
「……近い」
空気が変わる。
森の奥。
霧が濃い。
綾乃が、腰の袋へ手を入れる。
火焔玉。
「下がってろ」
投げる。
ぱぁっ――
青白い火。
薬草の香り。
霧が、静かに散れていく。
嵐が、少しだけ息を吐く。
「……落ち着く匂いだな」
綾乃は、前を見たまま答える。
「現実へ戻す香りだ」
風が吹く。
散れた霧の向こう。
見えてきた。
古い祠だった。
半分崩れている。
石は黒ずみ。
周囲には、古い墓が並んでいた。
供え物。
花。
線香。
誰かが、ずっと手を合わせ続けた場所。
弦が、静かに呟く。
「……溜まっているな」
蒼真にも分かった。
感情。
祈り。
未練。
後悔。
全部が、この場所へ沈んでいる。
そして。
その中心。
“核”があった。
黒い。
脈打つ塊。
まるで、心臓のようだった。
嵐が、低く呟く。
「……気持ち悪ぃな」
その瞬間。
声が聞こえた。
「帰ってきて……」
女の声。
「一人にしないで……」
別の声。
優しい。
泣いている。
聞いていると、胸が沈む。
蒼真の目が揺れる。
紬の顔が、一瞬だけ浮かんだ。
嵐が、歯を食いしばる。
迅。
奏多。
思い出が、胸へ刺さる。
綾乃が、鋭く声を飛ばした。
「飲まれるな!!」
火焔玉。
ぱぁっ――
香りが広がる。
沈みかけた意識が、少し戻る。
綾乃の目は、核を見ていた。
「……厄介だな」
小さく呟く。
「悪意だけじゃねぇ」
風が止まる。
核が、脈打った。
どくん。
その瞬間。
周囲の霧が、一斉に人影へ変わる。
誰かを待つ影。
誰かへ手を伸ばす影。
泣いている。
嵐が、拳を握る。
蒼真は、剣を構える。
綾乃だけは、静かに核を見ていた。
「……まだ戻せる」
その声。
医者だった。
第五十三話 終
優しい想いほど、
長く消えずに残ることがあります。




