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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第五十三話「想いの溜まり場」

第五十三話は、

“想いの溜まり場”の話です。


人の願いは、

時に留まり続けます。


 夜の風は、冷たかった。

 町外れ。


 森へ続く道を、蒼真そうま達は進んでいた。


 黒い糸は、まだ続いている。

 細く。

 だが確かに。


 蒼真そうまは、その流れを見ていた。

 胸の奥が、少し重い。


 らんが、歩きながら顔をしかめる。

「……腹は治ってきた」


 綾乃あやのが即答する。

「まずそこから学べ」


「うるせぇな」


 げんだけは、静かに風を見ていた。


「……近い」

 空気が変わる。

 森の奥。

 霧が濃い。


 綾乃あやのが、腰の袋へ手を入れる。


 火焔玉。


「下がってろ」

 投げる。


 ぱぁっ――


 青白い火。

 薬草の香り。


 霧が、静かに散れていく。


 らんが、少しだけ息を吐く。

「……落ち着く匂いだな」


 綾乃あやのは、前を見たまま答える。

「現実へ戻す香りだ」


 風が吹く。

 散れた霧の向こう。

 見えてきた。


 古い祠だった。

 半分崩れている。

 石は黒ずみ。

 周囲には、古い墓が並んでいた。


 供え物。

 花。

 線香。


 誰かが、ずっと手を合わせ続けた場所。


 げんが、静かに呟く。

「……溜まっているな」


 蒼真そうまにも分かった。


 感情。

 祈り。

 未練。

 後悔。


 全部が、この場所へ沈んでいる。


 そして。

 その中心。

 “核”があった。


 黒い。

 脈打つ塊。

 まるで、心臓のようだった。


 らんが、低く呟く。

「……気持ち悪ぃな」


 その瞬間。

 声が聞こえた。

「帰ってきて……」

 女の声。

「一人にしないで……」

 別の声。

 優しい。

 泣いている。


 聞いていると、胸が沈む。


 蒼真そうまの目が揺れる。


 つむぎの顔が、一瞬だけ浮かんだ。


 らんが、歯を食いしばる。


 じん

 奏多かなた

 思い出が、胸へ刺さる。


 綾乃あやのが、鋭く声を飛ばした。


「飲まれるな!!」


 火焔玉。


 ぱぁっ――


 香りが広がる。

 沈みかけた意識が、少し戻る。


 綾乃あやのの目は、核を見ていた。

「……厄介だな」

 小さく呟く。


「悪意だけじゃねぇ」


 風が止まる。

 核が、脈打った。


 どくん。


 その瞬間。

 周囲の霧が、一斉に人影へ変わる。


 誰かを待つ影。

 誰かへ手を伸ばす影。


 泣いている。


 らんが、拳を握る。


 蒼真そうまは、剣を構える。


 綾乃あやのだけは、静かに核を見ていた。


「……まだ戻せる」

 その声。

 医者だった。



第五十三話 終




優しい想いほど、

長く消えずに残ることがあります。

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