表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/106

第五十話「眠れない町」

第五十話は、

“眠れない町”の話です。


忘れられない想いは、

時に人を呼び続けます。



 診療所の中は、静かだった。

 火が揺れている。

 薬草の香りが、薄く漂っていた。


 らんは、机へ突っ伏している。

 目の前には、湯気の立つ薬。


「……まだ飲むのか」


 綾乃あやのが、酒を飲みながら答える。


「飲め」


「苦ぇんだよこれ……」


「効く薬ほどまずい」

 即答だった。


 らんが、嫌そうな顔で飲む。

「っっっっ……!!」


 綾乃あやのが、鼻で笑う。

「死ぬほどじゃねぇ」

「ただ今日は地獄だ」


「最悪だ……」


 その横で、蒼真そうまは診療所の窓から外を見ていた。


 町は暗い。

 妙に静かだった。


「……最近、何が起きている」


 綾乃あやのは、少し黙る。

 酒を一口。


「眠れねぇ奴が増えてる」

 短い声。

 だが、空気が少し変わる。


「夢を見るんだと」

「死んだ奴の夢だ」


 火が揺れる。


「最初は、ただの悪夢かと思ってた」

「だが違う」

 綾乃あやのの目が細くなる。


「起きても、まだ“いる”と思ってやがる」


 蒼真そうまが、静かに目を伏せる。

 げんは、茶を置いた。


「……流れに引かれているな」


 綾乃あやのの目が、初めてげんへ向く。


「お前、見えてんのか?」


「少しな」


 綾乃あやのは、じっとげんを見る。

 その空気は、医者同士の観察に近かった。


「……なるほど」

「だからお前ら、この町の空気に気づいたのか」


 らんが、薬を飲みながら顔をしかめる。

「夢見たくらいで、そんなになるのかよ」


 綾乃あやのは、静かに火を見る。


「死んだ奴は、夢にくらい出てくる」


「問題は、起きても隣にいると思い込む時だ」

 その声だけ、少し低かった。


 蒼真そうまは、小さく綾乃あやのを見る。


 綾乃あやのは、気づいていない。

 ただ酒を飲んでいる。


「放っとくと、現実と夢の境が消える」

「呼ばれるようになる」


「呼ばれる?」

 らんが聞き返す。


 綾乃あやのは、少しだけ嫌そうな顔をした。


「“こっちへ来い”ってな」


 風が揺れる。

 診療所の火が、わずかに揺らめいた。


「戻ってこれなくなった奴もいる」


 沈黙。

 重い。


 蒼真そうまの目に、薄く糸が見えた。

 黒い。

 細い。

 町の奥へ、流れている。


「……繋がっている」

 小さく呟く。


 その時だった。

 外から、叫び声が響く。


「起きろ!!」

「おい!!

 戻ってこい!!」


 全員の目が動く。


 綾乃あやのが、深く舌打ちした。


「……今夜もか」


 立ち上がる。

 その目は、さっきまでと違った。

 医者の目だった。



■第五十話 終




夢は、

休むためのものです。


ですが時に、

人を連れていこうとします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ