第四十九話「死に急ぐ顔」
第四十九話は、
“死に急ぐ顔”の話です。
人の壊れ方を、
見続けてきた者がいます。
旅は、静かに続いていた。
風はぬるい。
空は曇っている。
街道には、人の気配が増えていた。
宿場町が近い。
蒼真は、そう感じていた。
流れも、少し淀んでいる。
人が多い場所特有の、重さ。
その横で。
「…………」
嵐が、死んだ顔をしていた。
蒼真が見る。
「……顔色悪いぞ」
「うるせぇ……」
声に覇気がない。
弦が、静かに言う。
「だからやめておけと言った」
「誰が路地裏の屋台で、
あんな得体の知れねぇもん食うんだ」
嵐が、ゆっくり顔を上げる。
「……うまかったんだよ」
「知らねぇ肉だったけど」
「やめろ」
蒼真が即答した。
ぐうぅぅ……
嵐が腹を押さえる。
「っぐ……」
「ほら見ろ」
「黙れぇ……」
宿場町へ入る。
人は多い。
だが、妙に静かだった。
活気が薄い。
皆、どこか疲れている。
道端で、ぼんやり座り込む男。
眠そうな女。
泣いている子供。
蒼真の目が細くなる。
「……妙だな」
弦が頷く。
「流れが重い」
その時、嵐が壁に手をついた。
「……っ、やべ」
「限界か?」
「ちげぇ……
まだ死なん……」
通りがかった老婆が、呆れた顔をする。
「だったら綾乃んとこ行きな」
「綾乃?」
蒼真が聞き返す。
「医者だよ」
「口は悪いが腕は確かさ」
老婆は、少しだけ声を落とす。
「最近は、
変なのばっか診てるがねぇ……」
風が吹く。
蒼真と弦が、一瞬だけ視線を合わせた。
「行くぞ」
蒼真が言う。
「お前ら優しくしろよ……」
「腹壊した奴に言われたくない」
案内された先は、町外れだった。
古い診療所。
木の看板。
薬草が干されている。
扉を開ける。
薬の匂い。
酒。
乾いた空気。
そして。
「次ぃ……」
気だるそうな声。
奥。
机に突っ伏していた女が、ゆっくり顔を上げる。
綺麗な顔だった。
だが、どこかくたびれている。
長い髪は、適当に後ろで束ねられていた。
片手には、酒瓶。
嵐が、小さく呟く。
「……大丈夫かこの医者」
女の目が、細くなる。
「患者なら座れ」
「死体なら裏だ」
即答だった。
蒼真と弦が、無言になる。
嵐だけが、顔をしかめた。
「言い方……」
「で?」
女が酒を飲む。
「どいつが壊れた」
嵐が、ゆっくり手を上げる。
「……腹」
一瞬。
沈黙。
女は、深くため息を吐いた。
「はぁ〜〜〜……」
「このクソ忙しい時に食あたりぁ?」
嵐がムッとする。
「知らねぇ肉だったんだよ」
「食うな馬鹿」
即答。
女が立ち上がる。
背は高い。
細い。
妙に迫力がある。
「腹見せろ」
「嫌だ」
「医者に恥ずかしがってんじゃねぇ」
ぐいっ。
「うおっ!?」
綾乃が、容赦なく服をめくる。
蒼真が、少し視線を逸らした。
弦は、普通に茶を飲んでいた。
綾乃が、嵐の腹を押す。
「っっっ!!?」
「痛ぇっ!!」
「はい食あたり」
「世界救う前に腹救え」
嵐が、机へ突っ伏す。
「うるせぇ……」
綾乃は、薬を取り出しながら嵐の顔を見る。
その目が、少しだけ変わった。
人差し指で、くいっと顎を上げる。
顔が近い。
嵐が固まる。
「……は?」
綾乃は、じっとその目を見る。
「お前」
「死に急ぐ顔してんな」
空気が、少しだけ変わった。
「そういう目した奴、山ほど見てきた」
綾乃は、静かに酒を飲む。
「大体、長生きしねぇ」
嵐は、何も言えなかった。
外では、風が静かに吹いていた。
第四十九話 終
助ける側もまた、
多くの傷を抱えています。




