第四十八話「帰る場所」
第四十八話は、
“帰る場所”の話です。
戻る場所があるから、
人は前へ進めます。
朝だった。
空は薄く晴れている。
風は穏やかだった。
村の入り口。
蒼真達は、旅支度を終えていた。
荷は少ない。
長くなる。
全員、分かっていた。
嵐が、肩を回す。
「……結局、朝飯食わされたな」
豪山が鼻を鳴らす。
「食わねぇで動く馬鹿があるか」
「はいはい」
その時だった。
奥から、ばたばたと足音が聞こえる。
「まってー!!」
子供達だった。
数人。
紙を抱えて走ってくる。
嵐が顔をしかめる。
「転ぶぞお前ら」
だが、子供達は止まらない。
「これ!!」
一人の子供が、紙を突き出す。
蒼真が受け取る。
絵だった。
ぐしゃぐしゃ。
線も歪んでいる。
だが――
ちゃんと、描かれていた。
蒼真。
嵐。
弦。
豪山。
そして、子供達。
後ろには、村の家。
煙。
火。
小さな空。
みんな、一緒に描かれている。
嵐が、絵を覗き込む。
「……なんで俺だけこんなデカいんだよ」
子供が笑う。
「らん、つよいから!」
「あとすぐおこる!」
「うるせぇ」
豪山が、少しだけ笑った。
弦は、静かに絵を見ている。
その目が、ほんの少し柔らかかった。
蒼真は、ゆっくり絵へ触れる。
紙は薄い。
不器用だ。
だが――
温かかった。
「……持ってけ」
豪山が言う。
嵐が顔を上げる。
「いいのかよ」
「帰ってくるんだろ」
一瞬。
誰も、何も言わなかった。
風が吹く。
村の匂いが流れる。
火の匂い。
朝の空気。
生きている場所の匂い。
豪山が、三人を見る。
「……泣かすなよ」
嵐が、小さく笑う。
「誰がだ」
だが、その声は少しだけ掠れていた。
蒼真が、頭を下げる。
「……戻る」
豪山は、頷くだけだった。
弦が、静かに空を見る。
風が流れている。
細い。
だが、
確かに続いている。
「……こっちだ」
小さく呟く。
蒼真の目にも、“糸”が見えた。
白い流れ。
遠く。
あちら側へ続いている。
嵐が歩き出す。
「行くぞ」
三人が、
前へ進む。
村から離れていく。
子供達が手を振る。
「いってらっしゃーい!!」
「もどってこいよー!!」
豪山は、その後ろで立っていた。
大きな背中。
動かない。
ただ、
見送っている。
蒼真は、一度だけ振り返る。
火。
村。
子供達。
豪山。
帰る場所が、そこにあった。
風が吹く。
白い糸が、遠くへ続いている。
三人は、前へ進む。
第四十八話 終
旅立ちは、
別れではありません。
また帰るための、
最初の一歩です。




