表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/106

第四十八話「帰る場所」

第四十八話は、

“帰る場所”の話です。


戻る場所があるから、

人は前へ進めます。


 朝だった。

 空は薄く晴れている。

 風は穏やかだった。


 村の入り口。

 蒼真そうま達は、旅支度を終えていた。


 荷は少ない。

 長くなる。

 全員、分かっていた。


 らんが、肩を回す。


「……結局、朝飯食わされたな」


 豪山ごうざんが鼻を鳴らす。


「食わねぇで動く馬鹿があるか」


「はいはい」


 その時だった。

 奥から、ばたばたと足音が聞こえる。


「まってー!!」

 子供達だった。

 数人。

 紙を抱えて走ってくる。


 らんが顔をしかめる。

「転ぶぞお前ら」


 だが、子供達は止まらない。


「これ!!」

 一人の子供が、紙を突き出す。


 蒼真そうまが受け取る。


 絵だった。


 ぐしゃぐしゃ。

 線も歪んでいる。


 だが――

 ちゃんと、描かれていた。


 蒼真そうま


 らん


 げん


 豪山ごうざん


 そして、子供達。


 後ろには、村の家。


 煙。


 火。


 小さな空。


 みんな、一緒に描かれている。


 らんが、絵を覗き込む。


「……なんで俺だけこんなデカいんだよ」


 子供が笑う。


「らん、つよいから!」


「あとすぐおこる!」


「うるせぇ」


 豪山ごうざんが、少しだけ笑った。


 げんは、静かに絵を見ている。

 その目が、ほんの少し柔らかかった。


 蒼真そうまは、ゆっくり絵へ触れる。

 紙は薄い。

 不器用だ。

 だが――

 温かかった。


「……持ってけ」

 豪山ごうざんが言う。


 らんが顔を上げる。


「いいのかよ」


「帰ってくるんだろ」


 一瞬。

 誰も、何も言わなかった。


 風が吹く。

 村の匂いが流れる。

 火の匂い。

 朝の空気。

 生きている場所の匂い。


 豪山ごうざんが、三人を見る。


「……泣かすなよ」


 らんが、小さく笑う。


「誰がだ」


 だが、その声は少しだけ掠れていた。


 蒼真そうまが、頭を下げる。


「……戻る」


 豪山ごうざんは、頷くだけだった。


 げんが、静かに空を見る。

 風が流れている。

 細い。

 だが、

 確かに続いている。


「……こっちだ」

 小さく呟く。


 蒼真そうまの目にも、“糸”が見えた。


 白い流れ。

 遠く。

 あちら側へ続いている。


 らんが歩き出す。

「行くぞ」


 三人が、

 前へ進む。

 村から離れていく。


 子供達が手を振る。


「いってらっしゃーい!!」


「もどってこいよー!!」


 豪山ごうざんは、その後ろで立っていた。

 大きな背中。

 動かない。

 ただ、

 見送っている。


 蒼真そうまは、一度だけ振り返る。


 火。

 村。

 子供達。


 豪山ごうざん


 帰る場所が、そこにあった。


 風が吹く。

 白い糸が、遠くへ続いている。


 三人は、前へ進む。



第四十八話 終



旅立ちは、

別れではありません。


また帰るための、

最初の一歩です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ