第四十七話「行く理由」
第四十七話は、
“行く理由”の話です。
進む者と、
残る者。
どちらにも、
役割があります。
夜は、静かだった。
村の火は小さい。
ぱちり、と薪が鳴る。
子供達は、もう眠っていた。
静かな寝息だけが、家の奥から聞こえてくる。
蒼真達は、火を囲んでいた。
四人。
誰も、すぐには口を開かない。
風が吹く。
火が揺れる。
「……追うしかねぇだろ」
最初に言ったのは、嵐だった。
低い声。
だが、迷いはない。
「迅を放っとけねぇ」
蒼真は、火を見る。
赤い光が、静かに揺れていた。
「……止める必要はある」
小さく言う。
「だが」
「あいつらは、壊したいわけじゃない」
嵐が顔をしかめる。
「だから面倒なんだろ」
弦が、静かに目を閉じる。
「感情で動く奴は、止まらない」
火が揺れる。
「特にな」
「“失った側”は」
嵐が、小さく舌打ちする。
否定しない。
蒼真が言う。
「……紬の流れも、あちら側へ繋がっている」
その言葉で、空気が少し変わる。
豪山が、静かに顔を上げる。
「妹か」
蒼真は頷く。
「生きている」
「……そんな気がする」
火が鳴る。
誰も、軽々しく返事をしない。
豪山が、ゆっくり口を開く。
「勘か」
「……ああ」
蒼真は答える。
「だが、間違ってない」
豪山は、少しだけ笑った。
「なら行け」
短い。
だが、重い言葉だった。
「進まなきゃならねぇ時に、止まる奴は腐る」
火の向こう。
豪山の目は、静かだった。
「俺は、それを何度も見た」
嵐が、小さく息を吐く。
「……来ねぇのか」
豪山は、鼻で笑う。
「俺まで行ったら、誰が飯作る」
一瞬。
空気が少しだけ緩む。
嵐が顔をしかめる。
「それだけかよ」
「十分だ」
子供の寝返りが、奥から聞こえた。
豪山の目が、そちらを見る。
柔らかかった。
「残る奴もいる」
低い声。
「守る場所がなきゃ、人は戻れねぇ」
蒼真が、静かに目を伏せる。
嵐も、何も言わない。
弦だけが、火の向こうを見る。
どこか遠く。
もっと古い場所を見るように。
「……あちら側も、昔はそうだったのかもな」
小さく呟く。
風が吹く。
火が揺れる。
誰も、返事はしなかった。
しばらくして、豪山が静かに言う。
「戻ってこい」
その言葉。
静かだった。
だが、火よりも温かかった。
嵐が、顔を逸らす。
「……分かってる」
蒼真は、小さく頷く。
弦は、静かに目を閉じた。
夜は、静かに更けていく。
火だけが、揺れていた。
第四十七話 終
帰る場所があるから、
人は前へ進めるのかもしれません。




