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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第四十六話「繋がる痛み」

第四十六話は、

“繋がる痛み”の話です。


想いだけではありません。


痛みもまた、

人を繋いでしまいます。


 風は、静かだった。

 空は薄く曇っている。


 村の朝。


 子供達の声が、少しずつ戻っていた。


 薪を割る音が響く。

 重い音。

 一定の間隔。


 豪山《ごうざん》だった。


 黙々と斧を振るう。


 その後ろで、子供達が走り回っている。


「危ねぇから近づくな」

 低い声。


 だが、誰も怖がらない。


 嵐《らん》が、少し離れた場所でそれを見ていた。

 腕を組む。


「……慣れてんな」


 豪山《ごうざん》は振り返らない。


「慣れる」

 

「嫌でもな」



 嵐《らん》は、小さく舌打ちする。


 だが、昨日ほど重くはなかった。


 その時、小さな悲鳴が響く。


「……っ!」


 振り向く。


 一人の子供が、

 地面に座り込んでいた。

 転んだらしい。

 膝から血が滲んでいる。


 周囲の子供達が、

 一瞬だけ固まる。

 空気が止まる。


 その子供が、震えた声で呟くのは。


「……やだ」


「……いたい……」


 その瞬間だった。

 空気が、歪む。


 蒼真《そうま》の目が動く。


「……っ」

 見えた。


 子供の傷口から、“流れ”が漏れている。


 黒い。

 濁った糸。


 弦《げん》が、目を細める。


「……早いな」


 子供の周囲に、霧が滲み始める。


 小さい。

 だが確かに。


 別の子供が泣く。


「やだ……」


「こわい……」


 不安。

 恐怖。

 悲しみ。

 感情が、空気へ溶ける。


 そして。


 “集まる”。


「……下がれ!!」

 嵐《らん》が叫ぶ。


 子供達を引き寄せる。


 その瞬間。

 霧の中から、

 手が伸びた。


 細い。

 人の手。


 輪郭が崩れている。


 子供達が悲鳴を上げる。


 嵐《らん》が踏み込む。


 拳。


 一撃。


 霧が散る。


 消えない。


「……またかよ……!」

 嵐《らん》が歯を食いしばる。


 霧は、子供達の感情へ反応していた。


 恐怖が、“繋いでいる”。


 蒼真《そうま》が言う。

「……違う」

「これは、

 誰かの残響じゃない」


 風が揺れる。

 黒い糸。

 子供達から漏れる感情。


 傷。

 不安。

 孤独。


 全部が、繋がっていた。


「……感情そのものか」

 弦《げん》が呟く。


 その瞬間。

 子供の一人が泣き叫ぶ。


「おかあさん!!」


 霧が膨れ上がる。


 嵐《らん》の目が見開かれる。

 止まる。

 ほんの一瞬。


 豪山《ごうざん》が前へ出る。

 大きな背中。

 子供達の前へ立つ。


「見るな」

 低い声だった。

 だが、強かった。


「怯えるな」

「飲まれるぞ」


 豪山《ごうざん》が、一歩踏み込む。

 地面が揺れる。


 霧が、わずかに押し返される。


 蒼真《そうま》の目が動く。

 見えた。


 豪山《ごうざん》の周囲。

 流れが、“安定している”。


 揺れていない。


「……支えてるのか」

 小さく呟く。


 豪山《ごうざん》は、

 振り返らない。

「残った奴は、立たせる」


 その言葉。

 空気が変わる。


 嵐《らん》が、ゆっくり前へ出る。

 拳を握る。

 今度は、迷わない。


「……泣いてんじゃねぇ」

 子供達へ言う。

 乱暴だった。


「俺達がいる」


 霧が揺れる。

 流れが、わずかに崩れた。


 蒼真《そうま》が踏み込む。


 剣。


 一閃。


 断つ。


 黒い糸が、静かにほどけていく。

 霧が消える。

 風が戻る。


 子供達が、震えながら立っていた。


 豪山《ごうざん》が、小さく息を吐く。


 蒼真《そうま》は、消えていく流れを見ていた。


 感情。

 痛み。

 恐怖。

 それすら、

 “繋がる”。


 小さく呟く。

「……だから、

 終われないのか」


 風だけが、

 静かに流れていた。




第四十六話 終



弱さは、

時に人を壊します。


ですが、

誰かが支えることで、

立ち上がれることもあります。

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