表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/105

第四十五話「残るもの」

第四十五話は、

“残るもの”の話です。


断っても、

消えないものがあります。


 朝の風が、静かに村を抜けていく。

 夜の冷たさは、まだ少し残っていた。


 子供達の声が聞こえる。

 小さい。

 弱い。


 それでも、昨日よりは少しだけ前を向いていた。


 蒼真そうまは、一人で村の外れに立っていた。


 視線は、森の奥。


 昨夜、“あれ”が現れた場所。

 もう何もない。


 霧も、気配も、残っていない。


「……残ってる」

 小さく呟く。

 感情だけが、まだ流れていた。


「考え込む癖でもあるのか」

 げんだった。

 後ろへ立つ。

 風みたいに静かだった。


 蒼真そうまは振り返らない。


「……斬った」

 小さく言う。


「戻ってなかった」

「だから斬った」


 げんは、少しだけ目を細める。

「間違いじゃない」


 蒼真そうまは黙る。


「だが」

 げんが続ける。


「お前は、“消した”と思ってる」


 風が吹く。


 蒼真そうまの目が、わずかに動く。


「……違うのか」


 げんは、少しだけ空を見る。


「断ったんじゃない」

「還したんだ」


 その言葉。

 静かに落ちる。


 蒼真そうまは、何も言わない。


 だが、視線だけが揺れた。


「想いは残る」

 げんが言う。


「だが、形に縛り続ければ壊れる」


 風が流れる。


「……あちら側は、そこを止めようとしている」


 蒼真そうまが、小さく呟く。


「……終われないからだ」


 遠くで、子供達の笑い声が聞こえた。


 小さい。

 短い。

 それでも、

 確かに生きている音だった。


 その頃。


 らんは、薪を運ばされていた。


「……なんで俺が」


「若いからだ」

 豪山ごうざんが即答する。


「理不尽だろ……」


 だが、らんは運ぶ。

 文句を言いながら。


 子供達が、その後ろをついて歩く。


「らんー!」


「おい引っ張んな!」


 服を掴まれる。

 らんが顔をしかめる。


 だが、振り払わない。


「おっきいね!」

 小さな声。


 らんが、わずかに止まる。


「……あ?」


 子供は笑う。

豪山ごうざんみたい!」


 一瞬。


 らんの目が揺れた。


 豪山ごうざんが、少しだけ鼻で笑う。


「まだまだだ」


「何がだよ……」


 だが、らんは少しだけ肩の力を抜いた。


 その中に、昨日の子供もいた。

 少しだけ、笑っていた。


 らんの動きが、ほんの少し止まる。


 豪山ごうざんが、横を見る。


「……残ったな」


 らんは答えない。

 だが、否定もしなかった。


 昼。


 蒼真そうまは、一枚の紙を見ていた。

 子供が描いた絵。

 家族の絵だった。


 母親。

 父親。

 そして、

 小さな自分。

 みんな笑っている。


 母親の隣。

 小さく描かれた自分。

 手を繋いでいる。


 もう、戻らない。


 だが――

 確かに、そこにいた。


「……残る、か」

 小さく呟く。


 消えても。

 断っても。

 確かに残るものがある。


 その時だった。

 風が吹く。

 やわらかい。

 懐かしい。


 蒼真そうまの目が動く。


 “糸”。


 一瞬だけ。

 白く、細い流れが見えた。


「……つむぎ?」


 振り返る。


 だが、もう何もない。


 白い流れは、風の中へ静かにほどけて消えた。


 風だけが、静かに流れていた。



第四十五話 終



想いは、

必ずしも形として残るわけではありません。


それでも、

確かに繋がっているものがあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ