第三十九話「選ばない者」
第三十九話は、
“選ばない者”の話です。
進むこと。
留まること。
人は時に、
どちらも選べなくなることがあります。
風が、止まる。
さっきまでの揺れが、嘘みたいに消える。
静かだ。
軽くはない。
「……来る」
蒼真が言う。
低く。
その瞬間。
“いた”。
音はない。
気配も、ほとんどない。
最初からそこにいたように、白装束の男が立っている。
白玖。
嵐が舌打ちする。
「……またかよ」
白玖は答えない。
ただ――
嵐を見る。
その奥を見る。
「……揺れているな」
小さく言う。
嵐の眉が動く。
「は?」
「選びきれていない」
「断つか」
「繋ぐか」
風が止まる。
嵐が前に出る。
一歩。
「……うるせぇ」
低く言う。
「お前に関係ねぇ」
白玖は動かない。
ただ、見ている。
「関係はある」
「お前は、触れている」
その言葉。
空気が、わずかに歪む。
蒼真の目が細くなる。
「……何をだ」
白玖の視線が、落ちる。
地面。
さっきの“流れ”。
「繋がりだ」
「本来、触れるべきではないもの」
嵐の顔が歪む。
「……だったらどうした」
「壊れる」
即答。
「繋ぎ続ければ」
「いずれ、耐えきれずに」
嵐の拳が、わずかに震える。
「……それを」
「見ただろう」
その言葉。
刺さる。
深く。
「……チッ……!」
嵐が踏み込む。
拳。
一直線。
白玖は動かない。
触れる直前。
“ズレる”。
嵐の拳が、空を切る。
「……くそっ!」
白玖は、そのまま言う。
「それは“繋ぐ”ではない」
「ただの執着だ」
空気が、落ちる。
嵐が止まる。
完全に。
「……違う」
低く言う。
絞り出すように。
「……あいつは」
「まだ残ってる」
白玖の目が、わずかに動く。
「そうだな」
あっさりと肯定する。
嵐が顔を上げる。
「……は?」
「残っている」
「だが――」
その先。
「それを繋ぎ直すことは」
「同じものにはならない」
沈黙。
風が止まる。
嵐の呼吸が乱れる。
「……じゃあ」
声が震える。
「どうすりゃいい」
白玖は答えない。
ただ、見る。
「選べ」
それだけ。
嵐の顔が歪む。
「……またそれかよ」
低く吐き出す。
白玖は動かない。
「断つのか」
「繋ぐのか」
「あるいは――」
ほんのわずかに、視線が蒼真へ向く。
「別の道を探すのか」
沈黙。
その言葉が、
静かに残る。
風が戻る。
白玖の姿が、わずかに揺れる。
次の瞬間。
消える。
最初からいなかったように。
静寂。
嵐が立っている。
動かない。
拳が、わずかに震えている。
蒼真が言う。
小さく。
「……別の道」
「あるかもな」
風が通る。
だが――
答えは、まだない。
⸻
第三十九話 終
選ばないという選択もまた、
一つの在り方です。
ですが——
止まり続けた時間は、静かに人を蝕んでいきます。




