↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第三章 繋がる根

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/129

第三十七話「残されたもの」

第三十七話は、

“残されたもの”の話です。


消えたあとにも、

人の想いは静かに残り続けます。


それは時に、

誰かを縛るものにもなります。


 ――風が、戻る。


 森の空気。

 

 重い。

 さっきまでとは違う。


 嵐《らん》が、動かない。

 拳が、わずかに震えている。

 視線は、落ちたまま。


「……嵐」

 蒼真《そうま》が呼ぶ。


 返事は、ない。


 嵐が、ゆっくり息を吐く。

 浅い。

 まだ、戻っていない。


「……なんでもねぇ」

 短く言う。


 その声は、わずかに掠れていた。


⸻


「……来る」

 蒼真の声。


 空気が、歪む。

 絡人《らくと》。

 数体。


 動きが鈍い。

 揃っていない。

 ばらけている。


「……さっきと同じか」

 嵐が前に出る。

 踏み込む。

 拳。

 叩く。

 崩れる。

 軽い。


「チッ……」

 もう一体。

 同じ。

 手応えがない。


「……あった」

 嵐の視線が落ちる。

 足元。

 核。

 淡く、揺れている。


 違う。

 明らかに。


「……触るな!!」

 嵐が叫ぶ。


 反射的に。

 蒼真の手が止まる。


 一瞬。

 沈黙。

 空気が張る。


 だが。

 わずかに、触れる。

 蒼真の指先が。

 ほんの、かすかに。


 瞬間。

 音が、ズレる。

 視界が歪む。

 流れが引っかかる。


「……かな……」


 声。

 小さい。

 途切れる。

 すぐ消える。


 嵐の呼吸が止まる。

 目が見開かれる。


「……やめろ」

 低く言う。

 震えている。


「それ……触るな……」


 その時。

 空気が、静かに動く。


 “上”。

 何かが降りてくる。

 音はない。


 そこにいる。


「……やっと見つけた」

 声。

 静か。

 感情が、ない。


 確信だけがある。


 そこに立っていたのは。

 迅《じん》だった。


 沈黙。

 嵐が、顔を上げる。

 視線がぶつかる。


 時間が止まる。


「……お前……」

 かすれた声。


 名前は言わない。

 言えない。


 迅は、見ていない。

 嵐を。

 蒼真を。


 ただ――

 核を見ている。


「……それを、どうする」

 蒼真が言う。


 静かに。

 迅は答える。

 迷いなく。


「取り戻すだけだ」


 その一言。

 空気が、変わる。


 嵐が動く。

 一歩。

 前へ。


「……やめろ」

 低い。

 抑えている。


「それはもう……違う」


 迅の視線が、わずかに上がる。

 嵐を見る。


 ほんの一瞬だけ。


「違わない」


 即答。

 揺らがない。


「……あいつは」

「まだ繋がってる」


 嵐の顔が歪む。

 拳が、震える。


「……見てただろ!!」

 叫ぶ。

 抑えきれない。


「最後を!!」


 風が止まる。


 迅が言う。

 静かに。

「……だからだ」


「終わらせない」

「まだ、繋がってる」

 その言葉。

 それだけで。

 全部が、分かれる。


 嵐が踏み込む。

 止まらない。

 拳。

 一直線。


 迅は、動かない。

 核に手を伸ばす。

 触れる。


 その瞬間。

 流れが、揃う。

 歪む。

 重なる。


 迅の目が、わずかに揺れる。


「……かな……」


 小さく。

 確かに。


 嵐の拳が、止まる。

 一瞬。

 本当に一瞬。

 迷いが、生まれる。


 その隙で。

 迅の姿が、消える。


 気配だけが、残る。


 風が戻る。

 嵐が、立っている。

 拳が、止まったまま。


「……チッ……!」

 歯を食いしばる。

 振り下ろす場所は、もうない。


 蒼真が言う。

 小さく。

「……今のは」


 嵐が答える。

 低く。

「……残ってる」


「……あいつの、欠片だ」


 風が通る。


 もう、同じではない。




第三十七話 終

残されたものは、

悲しみだけではありません。


誰かを想っていた時間もまた、

確かにそこへ残っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。