表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第三章 繋がる根

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/107

第三十七話「残されたもの」

第三十七話は、

“残されたもの”の話です。


消えたあとにも、

人の想いは静かに残り続けます。


それは時に、

誰かを縛るものにもなります。


 ――風が、戻る。


 森の空気。

 

 重い。

 さっきまでとは違う。


 らんが、動かない。

 拳が、わずかに震えている。

 視線は、落ちたまま。


「……嵐」

 蒼真そうまが呼ぶ。


 返事は、ない。


 嵐が、ゆっくり息を吐く。

 浅い。

 まだ、戻っていない。


「……なんでもねぇ」

 短く言う。


 その声は、わずかに掠れていた。



「……来る」

 蒼真の声。


 空気が、歪む。

 絡人らくと

 数体。


 動きが鈍い。

 揃っていない。

 ばらけている。


「……さっきと同じか」

 嵐が前に出る。

 踏み込む。

 拳。

 叩く。

 崩れる。

 軽い。


「チッ……」

 もう一体。

 同じ。

 手応えがない。


「……あった」

 嵐の視線が落ちる。

 足元。

 核。

 淡く、揺れている。


 違う。

 明らかに。


「……触るな!!」

 嵐が叫ぶ。


 反射的に。

 蒼真の手が止まる。


 一瞬。

 沈黙。

 空気が張る。


 だが。

 わずかに、触れる。

 蒼真の指先が。

 ほんの、かすかに。


 瞬間。

 音が、ズレる。

 視界が歪む。

 流れが引っかかる。


「……かな……」


 声。

 小さい。

 途切れる。

 すぐ消える。


 嵐の呼吸が止まる。

 目が見開かれる。


「……やめろ」

 低く言う。

 震えている。


「それ……触るな……」


 その時。

 空気が、静かに動く。


 “上”。

 何かが降りてくる。

 音はない。


 そこにいる。


「……やっと見つけた」

 声。

 静か。

 感情が、ない。


 確信だけがある。


 そこに立っていたのは。

 じんだった。


 沈黙。

 嵐が、顔を上げる。

 視線がぶつかる。


 時間が止まる。


「……お前……」

 かすれた声。


 名前は言わない。

 言えない。


 迅は、見ていない。

 嵐を。

 蒼真を。


 ただ――

 核を見ている。


「……それを、どうする」

 蒼真が言う。


 静かに。

 迅は答える。

 迷いなく。


「取り戻すだけだ」


 その一言。

 空気が、変わる。


 嵐が動く。

 一歩。

 前へ。


「……やめろ」

 低い。

 抑えている。


「それはもう……違う」


 迅の視線が、わずかに上がる。

 嵐を見る。


 ほんの一瞬だけ。


「違わない」


 即答。

 揺らがない。


「……あいつは」

「まだ繋がってる」


 嵐の顔が歪む。

 拳が、震える。


「……見てただろ!!」

 叫ぶ。

 抑えきれない。


「最後を!!」


 風が止まる。


 迅が言う。

 静かに。

「……だからだ」


「終わらせない」

「まだ、繋がってる」

 その言葉。

 それだけで。

 全部が、分かれる。


 嵐が踏み込む。

 止まらない。

 拳。

 一直線。


 迅は、動かない。

 核に手を伸ばす。

 触れる。


 その瞬間。

 流れが、揃う。

 歪む。

 重なる。


 迅の目が、わずかに揺れる。


「……かな……」


 小さく。

 確かに。


 嵐の拳が、止まる。

 一瞬。

 本当に一瞬。

 迷いが、生まれる。


 その隙で。

 迅の姿が、消える。


 気配だけが、残る。


 風が戻る。

 嵐が、立っている。

 拳が、止まったまま。


「……チッ……!」

 歯を食いしばる。

 振り下ろす場所は、もうない。


 蒼真が言う。

 小さく。

「……今のは」


 嵐が答える。

 低く。

「……残ってる」


「……あいつの、欠片だ」


 風が通る。


 もう、同じではない。




第三十七話 終

残されたものは、

悲しみだけではありません。


誰かを想っていた時間もまた、

確かにそこへ残っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ