第三十一話「残るもの」
第三十一話は、
“敵ではない何か”に触れる回です。
断ち切ったはずの先で、
蒼真は“残されたもの”を見る。
静かだった。
風が、通る。
軽い。
さっきまでとは、違う。
嵐が、息を吐く。
「……終わった、か」
誰にともなく言う。
返事はない。
蒼真は、動かない。
視線は——
どこにも向いていない。
止まっている。
「……おい」
嵐が声をかける。
反応がない。
「蒼真」
もう一度。
その瞬間。
蒼真の肩が、わずかに揺れた。
「……触れた」
小さく、呟く。
嵐が眉を寄せる。
「は?」
蒼真は答えない。
視線は下。
地面。
見ているのは、そこじゃない。
“内側”。
その時。
音がした。
笑い声。
小さな。
遠い。
——違う。
ここには、ない。
それでも——
聞こえる。
「……遅いよ」
女の声。
柔らかい。
少し、拗ねたような。
振り向く。
誰もいない。
見える。
そこに、
“いたはずのもの”。
夕暮れ。
小さな家。
玄関先。
誰かを待っている。
ただ、それだけの光景。
それが——
“切れている”。
唐突に。
不自然に。
音が、止まる。
空気が、消える。
何もかもが、
途中で終わっている。
「……っ」
蒼真が、息を詰める。
嵐が近づく。
「おい、どうした」
蒼真は答えない。
見ている。
“その先”。
もっと、奥。
別の断片。
子供の声。
走る足音。
呼ぶ声。
それも——
途切れる。
何も残らない。
ただ、
“なかったこと”みたいに。
「……これが」
蒼真の声が、震える。
初めて。
「繋がり、か」
弦が静かに言う。
いつの間にか、
近くに立っている。
「見たか」
蒼真は、ゆっくりと頷く。
「……見えた」
「全部じゃない」
「だが、確かに」
拳が、わずかに震える。
嵐が舌打ちする。
「……なんだよそれ」
蒼真は答えない。
言葉にできない。
ただ——
わかる。
あれは、
敵じゃない。
現象でもない。
“人の残り”だ。
弦が言う。
「触れた以上、見ることになる」
「それが、お前の力だ」
蒼真が目を閉じる。
短く。
そして——
開く。
もう、揺れていない。
「……行く」
それだけ。
嵐が息を吐く。
「マジかよ」
しかし、
止めない。
止められない。
蒼真が歩き出す。
さっきと同じ。
だが——
違う。
今度は、
“知っている”。
この先に何があるか。
それでも。
進む。
それだけで、
十分だった。
⸻
第三十一話 終
それは敵ではなく、
残されたもの。
見てしまった以上、
進むしかありません。




