第二十三話「届かない距離」
第二十三話は、
“初めて負ける回”です。
届かないものに対して、
どうするのか。
ここで一度、
立ち止まります。
静かだ。
だが——
違う。
さっきまでと同じ“静寂”ではない。
何かが、
こちらを見ている。
見えない。
「……来るぞ」
蒼真が低く言う。
嵐が舌打ちする。
「見えねぇ相手とか最悪だな」
その瞬間。
空気が、裂ける。
「——っ!」
蒼真が動く。
わずかに。
遅れる。
頬を掠める。
血が飛ぶ。
だが——
止まらない。
次が来る。
方向が読めない。
間が取れない。
ただ——
“来る”。
「チッ……!」
嵐が踏み込む。
勘で殴る。
空を切る。
何もいない。
だが——
次の瞬間。
「ぐっ……!」
嵐の身体が、
横に弾かれる。
何もないはずの場所から、
叩きつけられる。
「……見えねぇのに当たるのかよ!」
地面を滑る。
蒼真が間に入る。
視線を動かさない。
“流れ”を追う。
違う。
無月とは違う。
繋がりが、
深すぎる。
「……間に合わない」
小さく、呟く。
その瞬間。
空気が歪む。
来る。
わかる。
しかし、
場所が特定できない。
蒼真が刀を振る。
“流れ”に合わせて。
触れる。
一瞬だけ。
浅い。
止まらない。
そのまま、
衝撃が来る。
「っ……!」
身体が、持っていかれる。
後ろへ。
踏みとどまる。
重い。
「……通らねぇ」
嵐が立ち上がる。
息が荒い。
「さっきのとは別物だろこれ」
「ああ」
蒼真が答える。
「段階が違う」
「届いてない」
空気が、また裂ける。
今度は——
地面。
一直線に、
抉れる。
避ける。
間に合う。
余裕はない。
「くそっ……!」
嵐が距離を取る。
「どうすんだよこれ!」
蒼真は、答えない。
視線は、
上。
そこにもいない。
どこにもいない。
なのに——
確実に“いる”。
「……違う」
小さく、呟く。
「距離じゃない」
「認識の外にいる」
嵐が顔をしかめる。
「は?」
「見えないんじゃない」
「……捉えられてない」
次の瞬間。
来る。
蒼真が動く。
ギリギリで避ける。
だが——
肩を掠める。
血が走る。
「チッ……!」
これ以上は、
危ない。
理解する。
このまま続ければ——
削られる。
確実に。
じわじわと。
「……下がる」
蒼真が言う。
嵐が睨む。
「は?」
「一旦、引く」
「逃げるってのかよ」
「違う」
「届かない」
その言葉が、
静かに落ちる。
嵐が歯を食いしばる。
反論できない。
事実だからだ。
「……チッ」
舌打ち。
「わかったよ」
「死ぬよりマシだ」
蒼真が頷く。
その瞬間。
また来る。
今度は避ける。
完全に。
反撃しない。
読むだけ。
避けるだけ。
距離を取る。
森の奥へ。
逆ではない。
“外”へ。
気配が、追う。
深くは来ない。
一歩。
二歩。
三歩。
離れる。
その瞬間。
止まる。
気配が、
消える。
完全に。
沈黙。
森が戻る。
空気は、違う。
嵐が膝に手をつく。
「……なんだよ、あれ」
息を吐く。
「無理だろ」
蒼真は、答えない。
ただ——
視線は、戻らない。
あの方向。
“奥”。
「……あれが」
「根だ」
嵐が顔を上げる。
「勝てんのかよ」
蒼真は、少しだけ間を置く。
そして——
「今は無理だ」
はっきりと、言う。
沈黙。
風が吹く。
軽い。
さっきとは違う。
確実に、
“知ってしまった”。
届かないものがあることを。
そして——
それに、
手を伸ばしてしまったことを。
蒼真が、刀を握る。
「……方法を変える」
小さく、呟く。
それが、
次に繋がる。
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第二十三話 終
相手は見えないのではなく、
“認識できていない”。
ここから、
戦い方そのものを変えていきます。




