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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第三章 繋がる根

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第二十三話「届かない距離」

第二十三話は、

“初めて負ける回”です。


届かないものに対して、

どうするのか。


ここで一度、

立ち止まります。



 静かだ。


 だが——

 違う。


 さっきまでと同じ“静寂”ではない。


 何かが、

 こちらを見ている。


 見えない。


「……来るぞ」

 蒼真《そうま》が低く言う。


 嵐《らん》が舌打ちする。


「見えねぇ相手とか最悪だな」


 その瞬間。

 空気が、裂ける。


「——っ!」


 蒼真《そうま》が動く。


 わずかに。

 遅れる。


 頬を掠める。

 血が飛ぶ。


 だが——

 止まらない。


 次が来る。


 方向が読めない。

 間が取れない。


 ただ——


 “来る”。


「チッ……!」

 嵐《らん》が踏み込む。


 勘で殴る。

 空を切る。


 何もいない。


 だが——

 次の瞬間。


「ぐっ……!」

 嵐《らん》の身体が、

 横に弾かれる。


 何もないはずの場所から、

 叩きつけられる。


「……見えねぇのに当たるのかよ!」


 地面を滑る。


 蒼真《そうま》が間に入る。

 視線を動かさない。


 “流れ”を追う。


 違う。


 無月《むつき》とは違う。


 繋がりが、

 深すぎる。


「……間に合わない」

 小さく、呟く。


 その瞬間。

 空気が歪む。


 来る。


 わかる。


 しかし、

 場所が特定できない。


 蒼真《そうま》が刀を振る。


 “流れ”に合わせて。

 触れる。


 一瞬だけ。


 浅い。


 止まらない。


 そのまま、

 衝撃が来る。


「っ……!」


 身体が、持っていかれる。

 後ろへ。


 踏みとどまる。


 重い。


「……通らねぇ」


 嵐《らん》が立ち上がる。

 息が荒い。


「さっきのとは別物だろこれ」


「ああ」


 蒼真《そうま》が答える。


「段階が違う」


「届いてない」


 空気が、また裂ける。


 今度は——

 地面。


 一直線に、

 抉れる。


 避ける。


 間に合う。


 余裕はない。


「くそっ……!」

 嵐《らん》が距離を取る。


「どうすんだよこれ!」


 蒼真《そうま》は、答えない。


 視線は、

 上。


 そこにもいない。

 どこにもいない。


 なのに——

 確実に“いる”。


「……違う」

 小さく、呟く。


「距離じゃない」


「認識の外にいる」


 嵐《らん》が顔をしかめる。


「は?」


「見えないんじゃない」


「……捉えられてない」


 次の瞬間。

 来る。


 蒼真《そうま》が動く。

 ギリギリで避ける。


 だが——

 肩を掠める。

 血が走る。


「チッ……!」


 これ以上は、

 危ない。


 理解する。


 このまま続ければ——

 削られる。


 確実に。

 じわじわと。


「……下がる」


 蒼真《そうま》が言う。


 嵐《らん》が睨む。


「は?」


「一旦、引く」


「逃げるってのかよ」


「違う」


「届かない」


 その言葉が、

 静かに落ちる。


 嵐《らん》が歯を食いしばる。


 反論できない。

 事実だからだ。


「……チッ」


 舌打ち。


「わかったよ」


「死ぬよりマシだ」


 蒼真《そうま》が頷く。


 その瞬間。

 また来る。


 今度は避ける。


 完全に。

 反撃しない。


 読むだけ。

 避けるだけ。


 距離を取る。

 森の奥へ。


 逆ではない。


 “外”へ。


 気配が、追う。


 深くは来ない。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 離れる。


 その瞬間。

 止まる。


 気配が、

 消える。

 完全に。


 沈黙。


 森が戻る。


 空気は、違う。


 嵐《らん》が膝に手をつく。


「……なんだよ、あれ」


 息を吐く。


「無理だろ」


 蒼真《そうま》は、答えない。


 ただ——


 視線は、戻らない。


 あの方向。


 “奥”。


「……あれが」


「根だ」


 嵐《らん》が顔を上げる。

「勝てんのかよ」


 蒼真《そうま》は、少しだけ間を置く。


 そして——


「今は無理だ」

 はっきりと、言う。


 沈黙。


 風が吹く。

 軽い。


 さっきとは違う。


 確実に、


 “知ってしまった”。


 届かないものがあることを。


 そして——


 それに、


 手を伸ばしてしまったことを。


 蒼真《そうま》が、刀を握る。


「……方法を変える」

 小さく、呟く。


 それが、

 次に繋がる。


⸻


第二十三話 終

相手は見えないのではなく、

“認識できていない”。


ここから、

戦い方そのものを変えていきます。

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