第二十二話「根を辿る」
第二十二話は、
“上位存在”との初接触です。
見えない。
届かない。
それでも、
確かに存在しています。
地面が、わずかに軋む。
踏み込むたびに——
“下”へと流れている感覚がある。
蒼真は止まらない。
視線は、足元ではない。
その先。
見えない“流れ”の奥。
「……本当に下か?」
嵐が言う。
「地面に穴でもあんのかよ」
「違う」
蒼真は短く答える。
「場所じゃない」
「“繋がり方”だ」
嵐が顔をしかめる。
「ますますわかんねぇよ」
森は静かだ。
違う。
音が、吸われている。
風も、
足音も、
すべてが“流されている”。
「……濃いな」
嵐が低く言う。
蒼真が止まる。
その瞬間。
空気が——
歪む。
遅れて、
気配が落ちる。
無月。
「……違う」
蒼真が呟く。
嵐も気づく。
「なんか……軽いな」
目の前の無月は、
薄い。
存在が、曖昧だ。
「……枝か」
蒼真が言う。
「本体じゃない」
無月が動く。
遅い。
今までより明らかに。
蒼真が踏み込む。
迷いはない。
流れを見る。
交差。
振る。
触れる。
断つ。
——崩れる。
無月の身体が、
そのまま霧のように消える。
手応えは、ない。
“中身がない”。
「……なんだよ今の」
嵐が呟く。
「薄すぎるだろ」
「……増えてるな」
蒼真が言う。
「は?」
「本体は一つじゃない」
「枝が広がってる」
その瞬間。
空気が、揺れる。
今度は——
一つじゃない。
複数。
同時に。
気配が落ちる。
「……チッ、来やがったか!」
嵐が構える。
無月。
複数。
どれも“薄い”。
「一気に行くぞ」
蒼真が言う。
踏み込む。
連続。
流れを見る。
斬る。
断つ。
崩れる。
消える。
だが——
終わらない。
次が来る。
また来る。
「キリがねぇ……!」
嵐が叫ぶ。
蒼真は止まらない。
違和感。
“流れ”が。
さっきとは違う。
「……ずれてる」
「誘導されてる」
「は?」
その瞬間。
空気が——
変わる。
さっきまでの“薄さ”が消える。
重い。
深い。
濃い。
「……来るぞ」
蒼真の声が落ちる。
気配が——
“上”から落ちる。
違う。
今までと違う。
無月ではない。
形がない。
だが——
確かに“いる”。
視線。
圧。
存在。
「……なんだ、これ」
嵐の声が低くなる。
蒼真は動かない。
視線を上げる。
何もない空間。
“見られている”。
はっきりと。
認識されている。
次の瞬間。
空気が、裂ける。
“何か”が、
通った。
音はない。
蒼真の頬が、
わずかに切れる。
「……っ!」
一拍遅れて、
血が流れる。
嵐の目が見開かれる。
「おい、今の——!」
「……見えてない」
蒼真が低く言う。
視線は外さない。
次の瞬間。
地面が、
一直線に——
裂ける。
何もないはずの空間が、
“削られる”。
「避けろ!」
蒼真が叫ぶ。
嵐が跳ぶ。
直後。
いた場所が、
遅れて抉れる。
「なんだよそれ……!」
嵐の声が、低くなる。
蒼真は、理解する。
「……違う」
「“見えてない”んじゃない」
さらに一歩。
踏み込む。
血が頬を伝う。
「“認識できてない”」
空気が、震える。
また来る。
だが——
場所がわからない。
方向も。
距離も。
何もかもが、
“外れている”。
「……これは」
小さく、呟く。
「無月じゃない」
「その“上”だ」
沈黙。
森が、静まり返る。
終わっていない。
むしろ、
始まったばかりだ。
「……根か」
蒼真が呟く。
その瞬間。
気配が、
わずかに遠ざかる。
引いた。
試しただけだ。
そう言うように。
そして——
消える。
残るのは、
削られた地面と、
切り裂かれた空気。
嵐が、息を吐く。
「……笑えねぇな」
蒼真は、答えない。
ただ——
視線は、
その先へ。
見えない“奥”へ。
確かに、
そこにある。
“本体”。
触れてはいけない何か。
だが、
行くしかない。
第二十二話 終
無月ではない“何か”が、
初めて直接干渉してきました。
次話では、
この存在との距離を詰めていきます。




