第二話 「ぬくもり」
第2話は、
違和感が“認識される”回です。
まだ小さいですが、
確実に何かがおかしい。
朝の光は、やけに柔らかかった。
障子越しに差し込む光が、部屋の中を淡く照らしている。
蒼真は、ゆっくりと目を開けた。
見慣れた天井。
聞き慣れた空気。
そして——
「起きた?」
すぐそばから、声がした。
紬が座っていた。
湯気の立つ湯呑みを手に、こちらを見ている。
「……早いな」
「お兄ちゃんが遅いだけ」
少しだけ頬を膨らませる。
その仕草に、わずかに肩の力が抜ける。
蒼真は上体を起こした。
「ほら、お茶」
⸻差し出された湯呑みを受け取る。
温かい。
その熱が、指先からじんわりと広がっていく。
「……また、行くんでしょ」
ぽつりと、紬が言う。
蒼真は答えない。
だが、その沈黙で十分だった。
「昨日も、遅かった」
「……少しな」
「少し、じゃないよ」
視線を逸らす紬。
怒っているわけじゃない。
ただ——
少しだけ、寂しそうだった。
「危ないこと、してるんでしょ」
静かな声。
「してない」
短く答える。
「嘘」
即答だった。
紬は、蒼真をまっすぐ見ている。
「お兄ちゃん、嘘つくとき目が逸れる」
「……」
言葉に詰まる。
昔から、見抜かれていた。
「でも、いいよ」
紬は、ふっと笑う。
「お兄ちゃんは、そういう人だから」
その言葉は、優しかった。
だが同時に——
どこか、諦めにも似ていた。
「ただ」
少しだけ間を置く。
「ちゃんと、帰ってきてね」
その一言が、やけに重い。
蒼真は、ゆっくりと頷いた。
「ああ」
⸻
静かな時間が流れる。
外では風が鳴っている。
遠くで、人の声も聞こえる。
——普通の朝。
そのはずなのに。
ふと、違和感がよぎる。
「……紬」
「ん?」
⸻
「昨日、何してた」
何気ない問い。
紬は少しだけ首を傾げる。
「……昨日?」
一瞬。
本当に、一瞬だけ。
“間”があった。
「……家にいたよ」
笑う。
いつも通りの笑顔。
だが——
(今のは……)
何かが、引っかかる。
「そっか」
⸻
それ以上は聞かない。
聞いてはいけない気がした。
⸻紬は立ち上がる。
「ご飯、できてるよ」
背を向ける。
そのとき。
一瞬だけ見えた。
紬の手が、
わずかに、震えていた。
いや—
違う。
一瞬だけ、
別の手”が重なったように見えた。
「……」
瞬きをする。
もう、何もない。
「お兄ちゃん?」
振り返る紬。
「どうしたの?」
⸻
優しい声。
いつもの顔。
「……いや、なんでもない」
蒼真は立ち上がる。
その違和感に、
まだ名前はない。
だが確かに、
何かが、始まっていた。
第二話 終
▼続きはこちらから(次話)
ここから空気が少し変わります。
次話で、
はっきりと“異常”が現れます。




