第一二話 「触れぬ理」
第12話は戦闘回です。
ただし、これまでの感覚では通用しない戦いになります。
“違和感”が、はっきりと牙を剥きます。
空は、まだ重い。
昨日とは、違う。
張りつくような気配が、
少しだけ薄れている。
「……減ってるな」
嵐が呟く。
「完全ではないがな」
蒼真は周囲を見る。
糸。
まだある。
だが——
確かに、密度が違う。
「昨日のあいつか」
その言葉に、
風が、わずかに揺れる。
「そうだな」
声。
背後。
振り向くより早く、
そこに“いた”。
白装束の男。
白玖。
「……いつからいやがった」
嵐が舌打ちする。
「最初からだ」
感情のない声。
「気配消すのうまいとかそういうレベルじゃねぇぞそれ……」
白玖は答えない。
ただ——
蒼真を見る。
「……断ったか」
短い言葉。
蒼真の目が、わずかに揺れる。
「……何をだ」
白玖は、ほんの一瞬だけ考える。
「まだ、そこまで至っていないか」
それ以上は言わない。
「なんなんだよお前は」
嵐が苛立つ。
白玖は、視線を外す。
「白玖だ」
それだけ。
「……は?」
「名だ」
それ以上の説明はない。
沈黙。
「……はく、ねぇ」
嵐が小さく呟く。
「で、その白玖さんは」
「何してんだこんなとこで」
白玖は、少しだけ空を見る。
「整えている」
「は?」
「流れが乱れている」
「だから——」
言葉を切る。
「戻しているだけだ」
蒼真の視線が、鋭くなる。
「……あれを、戻すと言うのか」
「断つよりはな」
白玖の目が、細くなる。
「失われるものが少ない」
沈黙。
嵐が、舌打ちする。
「じゃあ最初からそうしろよ」
「出来るならな」
即答だった。
「全てには届かない」
「だから、お前たちがいる」
その言葉。
蒼真が、わずかに反応する。
「……利用する気か」
「違う」
白玖は、首をわずかに振る。
「役割だ」
静かな声。
「お前は断つ」
蒼真を見る。
「こいつは壊す」
嵐を見る。
「私は、整える」
風が、吹く。
その三つが、
一瞬だけ、重なる。
「……気に食わねぇ言い方だな」
嵐が吐き捨てる。
「だが、間違ってはいない」
蒼真が、小さく言う。
白玖は、それを否定しない。
「この先に行くのだろう」
「……ああ」
「なら」
一歩、前に出る。
「覚悟しておけ」
その声は、
少しだけ低かった。
「“中心”は」
わずかに、
間。
「お前たちの理解の外にある」
沈黙。
空気が、重くなる。
嵐が、顔をしかめる。
「……はっきり言えよ」
白玖は、答えない。
ただ、
わずかに笑った。
それが、
初めて見せた表情だった。
「まだ早い」
その一言だけ残し、
歩き出す。
止める間もなく、
気配は消える。
沈黙。
「……なんなんだあいつ」
嵐が呟く。
蒼真は、答えない。
静かに、
刀に触れる。
昨日よりも強く、
“ざらつき”が残っていた。
それは、
消える気配がなかった。
むしろ、
深くなっているようだった。
第十二話 終
通じているはずなのに、噛み合わない。
そのズレが、決定的な差になります。
次話——その正体が、現れます。




