第百十九話「黒羽の祠」
いつもお読みいただきありがとうございます。
第百十九話「黒羽の祠」。
黒羽の祠へ向かった十蔵。
そこで思い返すのは、幼い頃の無月との記憶でした。
よろしくお願いいたします。
黒羽家の祠は、
山深く、静かに佇んでいた。
十蔵は、
一人、石段を登る。
後ろには、
長年、黒羽を支えてきた老人達。
誰も口を開かない
◇
祠の前へ立ち
十蔵はゆっくりと手を添えた。
その瞬間
微かな震えが、掌へ伝わる。
……
違う
今まで感じたことのない乱れ
流れが軋み、
大地そのものが苦しんでいる。
十蔵は静かに目を閉じた。
ふと
一人の子供の姿が浮かぶ。
月のない夜
誰にも望まれず生まれた子。
不吉と恐れられ、
親にも捨てられた。
泣きもせず
笑いもせず
怒ることもなかった
時折、きゅっと唇を引き結び
黙ってわしの袖を握って歩いていた。
あやつは、何も言わん子じゃった。
じゃが、
悔しいことがあったのか
寂しい思いをしたのか
袖を握る小さな手が、
少しだけ強くなる。
それだけで、
十分じゃった。
十蔵は静かに目を開く。
祠へもう一度手を添え、
小さく笑った。
「わしに付き合って、もう少しもってくれよ。」
第百十九話 終
第百十九話をお読みいただき、ありがとうございました。
強さは、戦うことだけではありません。
守り続けることも、託すことも、一つの強さだと思います。
次回はいよいよ、神代家へ。
十八年前の悲劇が、少しずつ動き始めます。
次回もよろしくお願いいたします。




