第百十八話「黒羽」
いつもお読みいただきありがとうございます。
第百十八話「黒羽」。
伝令は戻らず、烏も帰らない。
静かな黒羽で、十蔵は異変の正体に気付きます。
よろしくお願いいたします。
――少し前。
黒羽家には、
白い閃光は届いていなかった。
◇
庭は静かに
風だけが木々を揺らしている。
黒羽家当主、
十蔵は空を見上げた。
「……。」
伝令は戻らない
それだけなら、待つこともできた。
黒羽の烏が、
一羽も帰ってこない。
十蔵は静かに歩き出した
向かう先は──祠。
◇
祠の前
十蔵はゆっくりと手を添える。
いつもなら感じる流れ
今日は違う
流れが乱れている。
地の底から伝わる微かな震え
ピシ……。
祠の石畳へ、
細い亀裂が走った。
十蔵は目を閉じる
「……そうか」
長く黒羽を守ってきた
だから分かる。
これは、
今までの異変ではない。
黒羽の祠も、限界が近い
十蔵は静かに立ち上がる。
「者共を集めろ。」
◇
若い忍達が集まる
十蔵は一人一人を見渡した。
「よく聞け」
「急ぎ、黒羽を離れよ」
ざわめきが広がる
「長老!」
「我らも戦います!」
十蔵は首を横に振る
「違う」
「お前達には、
この先も生きてもらう。」
静かに続ける
「黒羽を残せ」
その一言で、
誰も反論できなかった。
若い忍達は拳を握り締める
涙を堪えながら、深く頭を下げた。
◇
残ったのは、年老いた忍達だけ。
一人が酒を差し出す
「長老」
「一杯どうじゃ」
十蔵は苦笑する
「こんな時に酒か?」
「こんな時だからじゃ!」
静かに盃を交わす
一人が笑う
「歳を取っても、
結局最後まで一緒じゃのう」
別の老人も笑う
「腐れ縁というやつじゃ」
十蔵も小さく笑った
「ああ」
短い時間
長い年月を共に歩んだ仲間達
誰も別れの言葉は口にしない。
十蔵は立ち上がる
一人が笑って言う
「さっさと片付けてこい。」
別の老人
「早う帰ってこいよ」
十蔵は振り返らない
「……おう。」
その一言だけ残し、
祠へ向かって歩き出した。
老人達も静かに後へ続く
黒羽の空には、
もう一羽の烏も飛んではいなかった。
第百十八話 終
第百十八話をお読みいただき、ありがとうございました。
黒羽の者達は最後まで慌てることなく、それぞれが自分の役目を選びました。
長年守り続けてきた者だからこそ分かる、祠の限界。
次回から、いよいよ十八年前の悲劇の中心へ。
蒼一郎と紡、それぞれの戦いが始まります。
次回もよろしくお願いいたします。




