第百十五話「託されたもの」
守れなかったものは、二度と戻りません。
それでも、人は立ち止まることなく前へ進まなければなりません。
今回は、豪山が託された想いと向き合う物語です。
遠くから馬の蹄が響く。
土煙を巻き上げ、一頭の馬が駆け込んできた。
馬から飛び降りた伝令は、肩で息をしながら叫ぶ。
「岩代が襲われています!!」
その場の空気が止まる。
豪山は、綾乃を見た。
返事はない
肩へ置いた手も、そのまま動かない。
……
一瞬だけ
豪山は静かに目を伏せた。
玄真が前へ出る。
「私はここに残る。」
「豪山、急げ。」
豪山はゆっくり頷いた。
「……頼む。」
馬へ飛び乗る
馬腹を蹴る
馬は勢いよく駆け出した
風が頬を打つ
木々が流れる
川を越え、
坂を駆け上がる。
馬の息は次第に荒くなる。
それでも豪山は速度を緩めない
さらに馬腹を蹴る
どれほど走っただろう
その時――
遠く
岩代の方角が、一瞬白く染まった。
豪山は反射的に目を閉じる。
……
ゆっくりと目を開く
その瞳が見開かれた
馬腹をさらに強く蹴る
馬は限界まで駆けた。
やがて岩代の村が見えてくる。
豪山は馬から飛び降りた。
走る
……
足が止まる
刀を握る手に力が入った。
白い粉塵だけが、
静かに舞っていた。
風が吹く
何も聞こえない。
豪山はハッと我に返る
「誰かいないか!!」
返事はない
村を走る
家々を巡る
広場
祠
誰もいない
何も残っていない。
それでも豪山は探し続けた。
……
かすかな物音。
豪山は足を止める。
物陰に
小さな影が身を寄せ合っている
子ども達だった。
誰も泣かずに
震えながら、
ただ身を寄せ合っている。
豪山はゆっくりと歩み寄り、
静かにしゃがみ込んだ。
子どもの一人が、
ゆっくりと顔を上げる。
震える手が、
ある方角を指した。
「……みんな。」
「……あっち。」
豪山は静かに振り向く。
刀を握る手に、
さらに力が入った。
第百十五話 終
何も残っていない――。
そう思えた場所にも、小さな命は確かに息づいていました。
失われたものの大きさと、残されたものの重さ。
豪山が受け取ることになる想いは、ここから物語をさらに大きく動かしていきます。
次回もお付き合いいただけたら嬉しいです。




