第百十三話「鬼神」
守る者が立ち上がれば、安心が生まれます。
けれど、本当の脅威は目の前にいる相手とは限りません。
今回は、頼もしき守り人の登場と、静かに動き始める異変を描きます。
⸻ 朝
水無瀬の村は、重苦しい空気に包まれていた。
祠を囲む村人達
それを取り囲む兵達
誰も一歩も譲らない。
◇
馬の蹄が土を蹴る
二頭の馬が村へ入った。
岩代豪山
そして斎堂玄真。
「豪山様だ!」
「斎堂様も……!」
村人達がざわめく。
清隆は小さく息を吐いた
「……来てくれたか。」
豪山は小さく頷いた。
「水無瀬殿。」
「遅くなった。」
玄真は答えず、
村全体を静かに見渡した。
何かがおかしい──
まだその正体は見えない。
綾乃は傷ついた者達へ薬を塗っていた。
母も村人達の手当てを続けている。
豪山は綾乃を見る。
「大丈夫か?」
「はい。」
その返事に、
豪山は小さく頷いた。
玄真は祠の前へ歩く
清隆も並ぶ。
二人はしばらく黙って祠を見つめた。
……
玄真が口を開く
「清隆」
清隆は目を閉じる
「ああ」
「今までとは違う。」
その時⸻
「道を開けろ!!」
兵が前へ出る。
村人達も鍬や棒を握り締めた。
「祠は渡さん!」
「命令だ!」
怒号
押し合い
子供の泣き声
誰かが投げた石が
一人の兵の額をかすめる。
「貴様!」
刀が半ばまで抜かれる。
その瞬間
豪山が一歩前へ出た。
ただ、それだけで
兵達の顔色が変わる。
「……。」
「まさか……。」
一人が思わず呟く
「鬼神……。」
別の兵が息を呑む
「岩代豪山だ……。」
空気が止まる
豪山は何も言わない
腕も組まない
刀にも触れない
そこに立っているだけ。
それだけで誰も前へ出られなかった。
隊長が叫ぶ
「何をしている!」
「怯むな!」
兵達は動けない
鬼神
負け知らず
戦神
その名は、
誰もが知っていた。
隊長は歯を食いしばる
「……埒が明かん。」
後ろへ手で指示を出す。
「爆薬を持て。」
木箱が運ばれる。
玄真の視線が止った
清隆の表情が変わる
豪山も兵を見る
何かが違う
ここまでして祠を壊す理由が分からない。
玄真は再び祠を見る
風が止む
祠の奥
黒い結晶が、
微かに脈打った。
ピシ……。
小さな音
玄真の目が見開かれる。
「……。」
言葉にならない。
誰も、
まだ知らない。
この小さな音が、
世界を変えることを。
第百十三話 終
豪山という存在が現れたことで、その場の争いは一度止まりました。
しかし、守り人たちが違和感を覚えた時には、すでに異変は静かに進み始めていました。
力で止められるものと、止められないもの。
その違いが、この先少しずつ明らかになっていきます。
次回もお付き合いいただけたら嬉しいです。




