第百十二話「守り人たち」
一つの村で起きた出来事は、やがて世界中へと広がっていきます。
誰かを守ろうとする想いは、人から人へ受け継がれ、静かに動き始めます。
今回は、九家の守り人たちが立ち上がる始まりの物語です。
血の匂いが村を包んでいた。
広場には倒れた者達
泣き叫ぶ声
怒号
それでも水無瀬清隆は手を止めない。
「蓮!」
「次の患者を!」
「先生!」
「こちらも!」
敵も味方も関係なかった
目の前に傷ついた命がある
ただそれだけ
清隆は傷口を押さえ続ける
だが、新たな叫び声がまた村へ響く。
もう誰にも戦いは止められなかった。
◇
数刻後
馬は山道を駆けていた。
泥を跳ね上げ、
ただ前だけを見る。
斎堂家
「当主!」
門を駆け抜けた伝令が息を切らして膝をつく。
「水無瀬家が……!」
「兵と衝突しました!」
玄真は静かに目を閉じた。
短く息を吐く
「……始まったか。」
部屋の空気が変わる。
「当主!」
「では岩代家へ兵を?」
玄真は答えない。
静かに立ち上がる
そして一言
「黒羽へ伝令」
「黒羽が動けば、全家へ知らせが届く!」
「急げ!!」
「はっ!」
伝令は再び馬へ飛び乗った。
◇
黒羽家
一羽の烏が庭へ降り立つ。
その直後
伝令が門を駆け抜けた。
「当主!」
文が差し出される。
黒羽家当主は静かに読み終え、
ゆっくり顔を上げた。
「全員、集まれ。」
黒装束の者達が音もなく集まる。
若き無月も、その中にいた。
当主は静かに告げる。
「九家へ走れ」
「伝えろ」
「水無瀬家が襲われた」
一斉に頭が下がる。
「はっ!」
当主は無月を見る
二人は何も言わない
ただ、小さく頷いた。
その瞬間
庭木に止まっていた烏たちが、
一斉に羽ばたく。
カァ――ッ
黒い翼が空を覆う。
無月は一瞬だけ空を見上げた。
言葉はない
烏たちは知っていた
どこへ飛ぶべきかを。
◇
馬が走る
山を越え
谷を越え
街道を駆け抜ける
知らせは、
風より速く広がっていく。
岩代家へ
深山家へ
神代家へ
灯宮家へ
土御門家へ
そして――
守り人達が、
静かに立ち上がる。
◇
夕焼け
黒い烏たちが、
空高く舞い上がる。
その翼は、
まるで未来へ続く道を描くようだった。
世界は、
もう動き始めていた。
第百十二話 終
一羽の烏が飛び立ち、一通の知らせが届く。
その小さな出来事が、九つの家を繋ぎ、守り人たちを動かしていきます。
ここから物語は、水無瀬家だけではなく、九家それぞれの想いが交わる大きな流れへと進んでいきます。
次回もお付き合いいただけたら嬉しいです。




