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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
最終章

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第百十一話「守る者たち」後編

争いは、誰か一人の悪意から始まるとは限りません。

ほんの小さな行き違い。ほんの一瞬の出来事。

それだけで、人の悲しみは怒りへと変わってしまいます。

今回は、その始まりの物語です。


 鐘の音が村中へ響いた。


 見張りの叫びが静かな朝を切り裂く


「来たぞーー!!」


「武装した者達だ!」


 村人達が広場へ集まる


 土煙の向こうから、一団の兵がゆっくりと姿を現した。


 先頭には使者

 その後ろには槍を持った兵達が整然と並んでいる。


 村人達は息を呑んだ


 水無瀬清隆みなせ きよたかは静かに一歩前へ出る。


 れんがその隣へ並んだ。


 使者は深く一礼する。


「水無瀬家当主。」

「私は三河領の使者として参りました。」


「最後にお願いいたします」

「祠を開放していただきたい。」


 広場は静まり返る


 清隆は真っ直ぐ使者を見つめた


「……できません」

「命の流れを止める訳にはいきません」


 使者は静かに目を閉じる

「そうですか……」

 その声には怒りはなかった。


「私も争いたくはありません」

「ですが、このままでは各地から人が押し寄せます」

「我が領だけの問題ではなくなる」

「だからこそ管理が必要なのです」


 清隆は首を横に振った

「管理できるものではありません」

「だから閉じたのです」


 二人の間を風が吹き抜ける


 使者は小さく息を吐いた

「最後の警告です」

「道を開けてください」


 その時、

 一人の男が前へ出る。


 昨日、涙を流した村人。

「先生は下がってください」


 清隆が驚く

「何を言っているんです」


「先生」

「ありがとうございました」

「先生のおかげで……」

「家内を手放せます」


 静かに振り返る

「祠は開けません」

「俺達が守ります」


 その言葉に

 一人

 また一人と村人達が前へ出た。

 老人も

 若者も

 農夫も

 女達も

 皆、清隆の前へ立つ。


 清隆は叫ぶ

「皆さん!」

「駄目です!」

「戦ってはいけません!」


 使者も困ったように村人達を見る

「退いてください」

「私達は争いに来たのではありません」


 誰も動かない

 

 やがて使者は苦しそうに目を伏せた


「……排除しろ」


 兵達は顔を見合わせる

 命令に従い、一歩前へ出る。


 槍を構える

 穂先ではない

 柄で押し返そうとした


「退いてください!」


 村人も押し返す

「祠は守る!」


 押し合いになる

 その瞬間

 誰かが兵の腕を掴んだ。


「うわっ!」

 兵の体勢が崩れる。


 槍が滑る

 一瞬だった

 鈍い音

 広場が静まり返る

 男は自分の胸を見る

 槍が刺さっていた

 兵も青ざめる


「……え」

「ち、違う……」

「そんなつもりじゃ……」


 槍を握る手が震える

 使者も目を見開いた

「……何を」


 清隆は駆け出す

「蓮!」

「布を!」


 男を抱き起こす

「しっかりしてください!」


 傷口を押さえる

 血が滲む

 蓮も必死に薬と布を差し出す


 男は弱く笑った。

「先生……」

「家内……」

 息が苦しい

「還して……」

「やれたかな……?」


 清隆は男の手を強く握った

「ええ」

「きっと、還れました。」


 男は涙を流す

 遠くを見るように空を見上げた。


「……あいつ」

 小さく笑う。


「……笑ってるかな…」

 そのまま静かに息を引き取った。


 誰も動けなかった

 兵も

 使者も

 村人も


 ただ風だけが吹いている。


 一人の村人が震える拳を握る

「……祠を守れ」

 小さな声だった。


 だが、その声は広場へ広がる。


「祠を守れ!!」

「祠を守れ!!」

 怒号が響く。


 村人達が一斉に駆け出した。


 兵達も恐怖に武器を構える。


 使者が叫ぶ

「待て!」

「違う!」

「落ち着け!!」


 もう誰にも届かなかった。


 清隆も叫ぶ

「やめなさい!!」

「戦ってはいけない!!」


 その声もまた、

 怒りの中へ消えていく。


 一つの事故が

 一人の死が

 人の悲しみを怒りへ変えた。

 そして、その怒りは九つの祠へと広がっていく。

 後に結晶厄災と呼ばれる出来事は――

 この日、静かに幕を開けた。


第百十一話 終

誰も争いを望んではいませんでした。

それでも、一つの事故は多くの人の心を揺さぶり、止められない連鎖を生み出していきます。

この出来事は、水無瀬家だけの問題では終わりません。

九つの祠を巡る物語は、ここからさらに大きく動き始めます。

次回もお付き合いいただけたら嬉しいです。

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