第百九話「閉ざされた祠」
願いは、人から人へ伝わります。
そして噂もまた、人の口を通して広がっていきます。
一つの村で起きた出来事は、やがて国をも動かす出来事へ――。
今回は、静かに始まる戦いの前触れです。
そして、祠は閉ざされた。
村人達は戸惑った
「どうしてだ?」
「先生は何を考えているんだ」
「会えなくなるじゃないか」
診療所へ詰め寄る者もいた。
だが水無瀬は答えを変えなかった。
「祠は閉じます」
「皆さんを守るためです」
その言葉だけを繰り返した。
納得しない者もいる。
怒る者もいた
泣き崩れる者もいた
それでも祠は閉じられた。
数日後、
村へ見慣れない旅人が増え始めた。
「ここが噂の村か。」
「死人に会える祠があると聞いた。」
誰もが祠を探している。
しかし祠は固く閉ざされていた。
「入れません。」
綾乃は父の横で頭を下げる。
「申し訳ありません。」
「現在、祠は立ち入りを禁じています。」
旅人達は不満そうに帰っていく。
しかし――
噂だけは止まらなかった。
旅人は町へ戻り
商人は市場で語る。
「本当らしい」
「だから隠している」
その話は村を越え
町を越え
やがて領主達の耳へ届いた。
「……ほう。」
一人の領主が静かに笑う。
「死人に会える石だと?」
「それほどのものなら、なおさら我らが管理せねばならん。」
家臣が続ける
「しかも、水無瀬家が独占しているとのこと。」
領主は机を指で叩く。
「独占か。」
「それとも隠しているのか」
別の家臣が口を開く
「もし噂が本当なら……」
「莫大な価値になります」
「他国へ渡れば危険です」
「我が領で管理すべきかと」
領主は静かに立ち上がる。
「まずは話を聞こう」
「従わぬなら……」
それ以上は言わなかったが
誰もがその意味を理解していた。
診療所、
蓮が報告書を持って走ってくる。
「先生」
「嫌な噂があります。」
水無瀬は顔を上げた。
「他の町の領主達が動き始めたようです。」
水無瀬は静かに窓の外を見る。
祠のある森
その向こうに広がる空。
「……やはり来たか。」
蓮《れん、》は先生を見る。
「どうされますか?」
水無瀬は短く答えた。
「断る。」
「流れを止める訳にはいかない。」
蓮は静かに頷いた。
「はい。」
迷いはなかった。
その頃、
城では一通の文が読み上げられていた。
『祠の開放はできません。』
『結晶を渡すこともできません。』
『命の流れを守るためです。』
領主は文を机へ置く
表情は変わらない。
「……そうか。」
短く息を吐き
そして家臣へ命じた。
「兵を集めよ」
「話し合いは終わりだ。」
部屋の空気が凍りつく。
誰も異を唱えられなかった。
あの日…
誰もが正しいと思っていた。
守ろうとする者も…
手に入れようとする者も…
皆、それぞれの理由がある。
だからこそ止められなかった。
戦は――
静かに始まる。
第百九話 終
祠閉ざしたことで、問題が終わることはありませんでした。
むしろ、その存在を隠したことで「本物なのだ」という噂が広がり、新たな欲望を呼び寄せてしまいます。
ここから水無瀬家編は、村の問題から国を巻き込む物語へと大きく動き始めます。
次回もお付き合いいただけたら嬉しいです。




