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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第百二話「帰る場所」

いつもお読みいただきありがとうございます。


旅の中で出会いがあり、

別れがあります。


それでも人は前へ進んでいきます。


第百二話

「帰る場所」


よろしくお願いいたします。

 轟音が響いていた。

 黒水晶宮は崩れ続けている。


 豪山ごうざんは最後の子供を抱え走っていた。

 らんも隣を駆ける。


「急げ!」


 天井が砕ける。

 壁が崩れる。

 出口は近い。

 あと少しだった。


 その時、

「ごほっ……!」

 豪山ごうざんの身体が揺れた。


 血が地面へ落ちる。

 足がふらつく。


「豪山!」

 らんが叫ぶ。


 豪山ごうざんは首を振る。


「平気だ」


 そう言いながらも息は荒い。

 顔色も悪い。

 だが足は止めなかった。

 まだ守るべきものがある。


 次の瞬間。

 地鳴りが響く。


 ゴゴゴゴゴゴ……!!


 巨大な黒水晶の柱が傾いた。


 出口を塞ぐように。

 子供達へ倒れ込むように。


「っ!」

 豪山ごうざんが飛び出す。


 ドォォォォン!!


 両腕で柱を受け止めた。

 地面が砕ける。

 腕が軋む。

 全身が悲鳴を上げる。

 

 柱は止まった。


「豪山!!」


 らんが目を見開く。


 豪山ごうざんの足元へ血が広がっていた。


 咳。

 吐血。

 止まらない。


 それでも豪山ごうざんは眉ひとつ動かさず、柱を支え続けていた。


「先に行け」


「何言ってんだ!」

 らんが叫ぶ。


 豪山ごうざんは笑った。

 いつものように。

 安心させるように。


「ここは俺が支える」


 らんの顔が歪む。

「おっさん置いて行けるわけねぇだろ!!」


「時間がねぇ」

 豪山ごうざんは腕の中の子供をらんへ押しやった。


 泣いている子供。

 震えている子供。

 助け出した命。


「頼んだぞ」


 らんが歯を食いしばる。

 涙が溢れる。

 

 受け取るしかなかった。

 豪山ごうざんが守り、託した命を。


「……くそっ」


 子供が泣く。

「おじちゃん……」


 豪山ごうざんは優しく笑った。

「大丈夫、もうすぐ外だ」


 子供へ。

 らんへ。

 背中を押すように。



「走れ!!」

 豪山ごうざんが叫ぶ。


 らんは目を閉じる。

 そして。

 子供達を抱え走り出した。


「豪山ーーー!!」


 叫びが遠ざかる。

 泣き声も遠ざかる。


 やがて…

 静かになった。


 豪山ごうざんは小さく息を吐く。


「よかった……」

 …それだけだった。


 柱を支える腕はもう感覚がない。

 身体も動かない。

 だが不思議と恐くなかった。


 その時…

「ちちうえー!」


 懐かしい声が聞こえた。

 豪山ごうざんが顔を上げる。


 そこには、

 小さな男の子がいた。


 満面の笑顔で。

 嬉しそうに手を振りながら。

 駆け寄って来る。


「ちちうえー!」


 豪山ごうざんの目が大きく見開かれる。

 そして…

 ゆっくり笑った。


「おう」


 息子は笑う。

 何も悲しまず。

 何も恐れず。

 ただ父に会えたことが嬉しそうに。


「はやくー!」


 その後ろには。

 優しく微笑む妻の姿。


 豪山ごうざんは少し照れ臭そうに頭を掻いた。


「なぁ……」

 声が震える。


「父ちゃん……」

 一度笑う。


「頑張っただろ?」


 妻は微笑んでいた。

 息子も笑っていた。

 それだけで十分だった。 


 豪山ごうざんは静かに目を閉じる。


 蒼真そうま

 らん

 げん

 かがり

 綾乃あやの

 

 旅の仲間達の顔が浮かぶ。


 楽しかった。

 本当にそう思えた。


「もう……」


「お前達に会いに行っても……」


「いいか?」


 息子が大きく頷いた。


「うん!」


 豪山ごうざんは笑った。


 黒水晶の柱が崩れる。

 轟音。

 光。


 そして…

 豪山ごうざんは歩き出した。

 帰る場所へ。


 黒水晶宮は完全に崩壊した。



第百二話 終


第百二話でした。


守るために戦い、

守るために生きた男でした。


豪山の歩いた道が、

皆様の記憶のどこかに残ってくれたなら幸いです。


ありがとうございました。


次回もよろしくお願いいたします。

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