第百話「待ってろ」
いつもお読みいただきありがとうございます。
守るために戦う者達。
それぞれの想いを胸に、
彼らは前へ進みます。
第百話
「待ってろ」
よろしくお願いいたします。
轟音が響いていた。
黒水晶宮は崩壊を始めている。
天井が軋む。
壁が砕ける。
巨大な亀裂が空洞を走っていた。
「急げ!」
嵐が叫ぶ。
子供達を抱えながら走る。
豪山もまた、小さな身体を抱き上げていた。
「大丈夫だ!」
泣きじゃくる子供へ声を掛ける。
「もう大丈夫だ!」
子供は震えていた。
豪山の服を強く握る。
豪山は笑った。
安心させるように。
まるで父親のように。
崩落が激しくなる。
黒水晶が次々と砕け落ちる。
出口は近い。
あと少し。
その時…
「ごほっ――」
豪山の身体が揺れた。
足が止まる。
赤い雫が地面へ落ちる。
ぽたり…
ぽたり…と。
血だった。
嵐が目を見開く。
「……豪山?」
豪山は口元を拭う。
「何でもねぇ」
「何でもあるだろ!」
嵐が叫ぶ。
豪山は答えない。
再び歩き出す。
子供を抱いたまま。
重い足取りで。
出口が見えた。
光が差し込んでいる。
あと少し…
本当にあと少しだった。
その時、聞こえた。
「……たすけて……」
か細い声。
崩落音に掻き消されそうなほど小さい。
確かに聞こえた。
豪山が立ち止まる。
嵐も気付いた。
顔色が変わる。
「まさか……」
豪山は振り返る。
崩れていく黒水晶の奥。
闇の向こう。
まだ誰かがいる。
「豪山」
嵐が呼びかける。
豪山は答えない。
答えなくても分かる。
その顔を見れば。
その目を見れば。
嵐には分かった。
行く気だ。
「やめろ…」
嵐が言う。
豪山は黙ったまま。
「やめろ!」
今度は叫んだ。
「お前もう限界だろ!」
血を吐いている。
足もふらついている。
それでも、
豪山は静かだった。
「まだいる」
短い言葉。
それだけだった。
嵐が歯を食いしばる。
「だからって――!」
「嵐」
豪山が初めて振り返った。
その顔は不思議なほど穏やかだった。
「頼む」
嵐の呼吸が止まる。
その言葉だけは。
聞きたくなかった。
迅もそうだった。
最後に頼むと言った。
そして消えた。
だから嫌だった。
豪山の口から聞きたくなかった。
「やめろ……」
嵐の声が震える。
「やめろよ……」
豪山は抱いていた子供を嵐へ預けた。
優しく…
落とさないように。
「子供達を頼む」
嵐は受け取る。
拒めない。
目の前の子供達を。
見捨てられないから。
豪山は笑った。
「待ってろ」
誰へ向けた言葉だったのか。
子供か。
嵐か。
それとも…
助けを求める最後の一人か。
豪山は走り出した。
崩れ続ける黒水晶の奥へ。
「豪山ーーー!!」
嵐の叫びが響く。
轟音。
黒水晶宮は崩れ続けていた。
第百話 終
第百話でした。
百話という節目ですが、
旅はまだ続きます。
守りたいものがあるから進む。
助けたい誰かがいるから手を伸ばす。
それは決して特別なことではなく、
きっと誰かを想う気持ちなのだと思います。
次回もよろしくお願いいたします。




