第十話「広がる糸」
ここまでの流れが、
一度“整理される”回です。
断片だったものが、
少しだけ繋がります。
空は、重かった。
雲が低く垂れ込めている。
風はない。
だが——
空気だけが、淀んでいた。
息が、わずかに重い。
「……妙だな」
嵐が呟く。
周囲を見渡す。
「気配が多すぎる」
蒼真も、足を止める。
目を細める。
見える。
糸。
細く、薄く。
だが確かに、
いくつも伸びている。
「……増えている」
昨日までとは、明らかに違う。
「何がだ」
「絡人だ」
嵐が、舌打ちする。
「またあれかよ……」
「違う」
蒼真が言う。
「数が、異常だ」
風が、止まる。
その瞬間。
気配が、動いた。
影。
一つではない。
二つでもない。
森の奥。
無数。
「……おい」
嵐の声が、低くなる。
「冗談だろ」
絡人が、現れる。
一体、二体。
いや——
十。
さらに、
その奥にも。
終わりが見えない。
「……来るぞ」
「見りゃ分かる!!」
嵐が叫ぶ。
次の瞬間。
動いた。
群れ。
一斉に。
蒼真は、糸を見る。
嵐は、前を見る。
だが——
今度は違う。
数が、多すぎる。
「チッ……!」
嵐が踏み込む。
拳を振るう。
一体を吹き飛ばす。
だが——
次が来る。
その次も。
蒼真が動く。
糸を断つ。
一体、倒れる。
だが——
減らない。
「キリがねぇぞ!!」
「分かっている」
蒼真の声は、変わらない。
その動きに、わずかな遅れ。
声。
「守れなかった」
頭の奥で、響く。
「……っ」
刃が、鈍る。
一瞬だけ、
“踏み込みをためらった”。
その一瞬。
絡人が、迫る。
「危ねぇ!!」
嵐が割り込む。
拳で弾く。
「今の何だよ!!」
「……問題ない」
「嘘つけ!!」
さらに、押し寄せる。
足場が崩れる。
囲まれる。
「……下がるぞ」
「はぁ!?」
「ここでは、捌ききれない」
「逃げんのかよ!」
「違う」
蒼真が言う。
「生き残る」
一瞬。
嵐が、言葉を失う。
その間にも、
絡人は迫る。
「……チッ!!」
嵐が舌打ちする。
「分かったよ!!」
二人、同時に動く。
走る。
振り切る。
糸が追う。
ようやく、
距離が開く。
やがて
気配が、遠のく。
止まる。
呼吸が荒い。
「……なんだよ今の」
嵐が吐き捨てる。
「増えている」
蒼真が言う。
「このままでは——」
言葉を切る。
「広がる」
沈黙。
風が、戻る。
だが、
空気は、重いままだった。
「……デカくなってきたな」
嵐が呟く。
「……ああ」
蒼真は、空を見る。
糸は、
まだ続いている。
どこかへ。
それは——
まだ見ぬ“中心”へ。
何かが、
すべてを束ねている。
第十話 終
▼続きはこちらから(次話)
そして——
ここから、
さらに大きな変化が入ります。
次話は、
空気が一変します。




