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AIに意識を移植されたのでちょっと異世界行ってきます  作者: 鉛風船
三章 貴族社会のあれやこれ
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ダンジョン攻略への下準備!

 晩餐会から帰ってきた俺は急いで自身の分身体を量産した。ダンジョン攻略から帰ってくるまでの間の代わりを務めてもらう。基本的に仕草や言動は俺のコピーだから心配はしていない。その辺の詳しい指示は機巧核さんにお任せしているから安心だ。

 二日後の午後、俺たちはローネリアにあるダンジョン攻略ギルドにやってきた。

 この世界でのギルドとは国の一機関であり、それは第一同盟が管理している。ダンジョンがもたらす恩恵が莫大なものであるため、それを独占するために元々民間組織であったギルドを買い上げたのだ。つまり、ギルド職員は公務員ということである。

 不満もあったらしいが現在は上手く運営しているらしい。ギルドマスターは騎士に格上げされ、政界への進出と領地が授与された。それに、国有化されたことにより、潤沢な予算が与えられ、皆精力的にダンジョン攻略に励んでいるそうだ。四百以上のダンジョンが既に攻略され、国内の研究所で解析されているらしい。

 更に、攻略するダンジョンの規模が大きいと第三同盟所属の軍隊も駆り出し、それこそ国力を総動員して攻略する。先代の第一、第三盟主は仲が良かったのでこの共同作戦も上手くいっていたが、現行の第一、第三盟主は仲が悪いので、これから対立が予想される。

 ここで、一つの問題が生じる。ギルドが国営ということは、当然機密情報もあるわけで……外国の貴族である設定の俺には行動するにも制限がかかる。国力の要でもあるダンジョン攻略に参加できるはずがなかった。これはエリシャやキキョウ、カエデにも言える。

 そこで、俺たちはナノマシンで容姿をいじくり、連合国人としてギルドに入団することにした。キキョウとカエデも何かあると面倒なので外見をごっそり変更し、肌や目、髪の色を真っ赤に染め上げた。勿論、ナノマシンは有機金属製なので拒絶反応も問題ない。

 一時的に俺たちはロール人となった。

 

 ギルドは街の一番外れにある。これは国有化される前の名残だ。外観も変わっていないので、一見すると多くの人は酒場と間違える。俺も現在進行形で半信半疑だった。


「本当にここよ」


「いやいや、エリシャが嘘をついてるって言っている訳じゃないよ……ただ――」


「ただ?」


「ただの酒場じゃん」


「ですが、ギルドと言えばこんなものじゃないでしょうか? 私の町にもギルドはありましたが、そことあまり変わりませんよ」


 そんなものか。まあ、この世界の住人でない俺がとやかく言っても仕方がないので納得することにした。


「うなー! ここがギルド……! 冒険……財宝……危険が一杯なのか……うなー!」


 カエデはギルドを初めて見るらしく、鼻息荒く息巻いている。時々出てくるギルドの職員――筋肉モリモリのマッチョマン――を羨望の眼差しで追っていた。

 いつ見ても、あの容姿で魔術師だというのだから驚きだ。以前見たときも驚いたが、彼らのガチムチ魔術師スタイルを見ていると、どうにもちぐはぐな気持ちにさせられる。いや、おかしいと言うわけではないが、俺の中で魔術師とは肉弾系とはほど遠いイメージなので、こればっかりは仕方がない。

 ああそうだ。ここでの俺の姿はフィロの姿を改良して深層記憶から持ち帰った俺の姿とミックスさせてある。心身分離症候群が進行した気がしなくもないのは気にしないでおこう。

 俺は立て付けの悪いドアを押して中に入った。生温い空気と強烈な酒の匂いに俺は思わずたたらを踏んだ。こんな場所はカエデの教育衛生上悪影響しか生まない。ギルドへの入団手続きが終わったらさっさと帰ろう。

 そんなことを考えていると、俺たちの前に大男が立ち塞がった。


「案内人か? 丁度いい。ギルドの――」


「ここは娼館じゃねえぞ、色男(ロメオ)。てめえの尻穴がもう一つ増える前にとっとと失せな」


 見れば、脇のガンホルダーに片手銃がぶら下がっている。ひゅーっ! かっくいぃ! まるで、裏社会の人間みたいだ!

 …………。

 お世辞に決まってんだろ。ちっとも格好良くないね! 大体、初対面でいきなり脅す奴があるか。確かに俺は三人の少女を連れているが、れっきとした入団希望者だぞ。もうちっと待遇を良くしてくれてもいいんじゃないですかねぇ。ほら、せめて色男呼びは止めるとかさ。

 それにお互い初対面なのにこうも第一印象が最悪だと色々と不都合を被るのは君らだぜ? ここは営業スマイルの一つや二つ見せた方がいいと思うがな。

 ほら見ろ。キキョウやカエデも吃驚(びっくり)して、俺の後ろに隠れたじゃないか。


「……用件だけ言って、ネモ。絶対に言い返しちゃあ駄目よ」


 エリシャも俺に耳打ちして、言い返すように説得している。俺としては穏便に事を済ませたいので、慎重に相手を逆撫でしないように言葉を選んだ。


「おい、デカブツ。お前には俺が色狂いの色欲魔王にでも見えてんのか?」


「…………」


 これが、誰の沈黙だったか何て野暮なことは言うまい。そこに呆れと怒りが内包されていることに、俺は気が付いていた。ただ、一言言わせてもらえば、何故かこのとき俺はこの言葉が自然と口をついて出てしまったのだ。わざとじゃないと言い訳はしないが、弁明はしてもいいだろうか?

 兎に角、生温い空気は一瞬で凍りついた。それは入り口からギルド内全体に伝播する。大男がひきつった笑みを顔に張り付かせ、そのスキンヘッドに青筋を浮き立てた。


「……ほう。言うじゃねえか。面貸せよ、若造」


「当たり前だ」


「ちょっと待って! 何言ってるのネモ……! ここへは入団手続きをしに来ただけよ!?」


「入団手続きだと? わっはっはぁ! おい! 聞いたかお前ら! こいつらギルドに入りたいらしいぜ!」


 大男が仲間に叫んだ。すると、割れんばかりの嘲笑が沸き上がった。木のジョッキをテーブルに叩きつける輩、大きな足で床を踏み鳴らす輩、笑い過ぎて涙目になっている輩までいる。


「おい嬢ちゃん。威勢がいいのは認めるが……悪いことは言わねえ、止めときな」


「どうしてよ」


 エリシャが聞き返すと大男は腕にグッと力を入れて力瘤を作った。


「ほら見てみろ。俺の腕の太さは嬢ちゃんの顔くらいある――」


「これくらいないと入団は認められないってこと?」


「そういうこった。だから諦めな」


「なんだ、力があればいいのか」


「何だとてめえ!」


 エリシャと俺で態度が違いすぎませんかねぇ。まあ、当たり前ですけど。

 そんなことよりも力があればいいとのことなので、力試しでこの大男を下してさっさと手続きをしてしまおう。


「ネモ! 勝手なことをしないで! ガドさんの(つて)があるんだからそれを使うの!」


 エリシャが俺の腕を引っ張って再度耳打ちをする。

 ああ、そういえばそうだったな。俺はガドとの勝負に勝って、ギルドへの口利きをしてもらう約束をしていたんだった。さっきから口が勝手に動いて訳がわからないことになっているのは間違いなく、心身分離症候群の一端だな。

 …………。

 不味いな。

 …………。

 俺は一歩下がるとエリシャにバトンタッチした。横ではキキョウとカエデが俺の事を不思議そうに眺めている。


「ガドさんを呼んでちょうだい。エイラとネモが来たと伝えればわかるはずよ」


 エリシャは力強く言い切った。始めはガドの名を出しても笑うだけの大男であったが、エリシャが空いている座席に座ると徐々に顔色が変わっていき、仕舞いにはギルドの奥へすっ飛んでいった。

 俺たちもエリシャの後に続いて席に座る。すると、カエデが俺の服の裾を引っ張った。


「ご主人たちは色んな人と知り合いなの?」


「ん? まあな。キキョウにも出会う前にちょっとあってな」


「そうなんだ。でも、僕ちょっと怖いな。ガドって人もこんな感じなの?」


「いや、違う。気のいいおっさんって感じだった」


「ふーん」


「ほら、噂をすればなんとやら――もうすぐ来るぞ」


 ややをして、ギルドの奥からガチムチで長髪のおっさんが悠々と歩いてきた。その後ろには先程の大男もいる。ただ、彼は頭に大きなたんこぶを一つこさえており、若干表情も固くなっていた。


「よう! 久し振りだな、ネモにエイラ。来るなら来るって言ってくれよ。そしたらこんなむさ苦しい奴じゃなくてもっとまともな奴に出迎えさせたんだがな。おおっ、後ろのちっこいのはお前らの娘か? もう一人は――愛人か!」


 そんな軽口を叩きながらガドは俺たち一人一人と握手をした。

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