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AIに意識を移植されたのでちょっと異世界行ってきます  作者: 鉛風船
三章 貴族社会のあれやこれ
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華々しく華やかで華のある華麗な晩餐会当日

 晩餐会当日、俺、エリシャ、キキョウ、カエデの四人は俺の部屋で作戦のお復習(さらい)をしていた。


「晩餐会での最優先達成事項を確認しようか」


「第一優先事項は、第四盟主を抱き込むことね」


「第二優先事項は、エリシャ様を差別主義者たちと合流させることですね」


「第三優先事項は、晩餐会にくる貴族たちが何人の黒の一族を所有しているのか数えることだね!」


 後は適当に貴族たちと友好関係結べればそれでいい。恐らく俺は第四盟主の相手をしなければならないので、それはエリシャの役割になる。元来上級貴族の令嬢だったのだからお手のものだろう。特に心配はしていない。

 心配なのはカエデの役割であった。彼女は差別主義者たちを炙り出すためにある演技をしなければならない。たった十歳の少女にそれが出来るかどうかが俺は大変心配であった。それだけではない。カエデは第四盟主を抱き込むためのキーパーツになるので、万が一のことも考えなくてはならなかった。

 それらを懸念して、いつもは俺とカエデ、エリシャとキキョウのコンビが入れ替えることにした。もしものことも考えて、三人の髪飾りと懐には俺特製のナノロボットたちを仕込ませてある。余程のことがない限り大丈夫であろう。


「エリシャ、役を忘れるなよ?」


「わかってるわ、パ(・)パ(・)」


 エリシャはわざとらしくウインクをした。

 俺を父、エリシャをその娘という配役にしたのには理由がある。貴族は世襲の風潮が強く、エリシャの年では一人前の貴族としてはみられない場合がある。貴族として一人前であると認められるには二十歳以上でなければならない。

 そして、そのような風習から貴族は大人たちの社交界と子供たちの社交界の二つに分かれているのだった。エリシャがキキョウと行ったサロンは後者である。大人のサロンが学術やの議論や音楽鑑賞をする場であるのに対し、子供のサロンは専ら流行りの劇や小説の感想を言い合ったり、誰かの色恋沙汰を噂したりする場所であった。

 このように二つのサロンでは話題がかけ離れているため、大人のサロンを俺が担当し、子供のサロンをエリシャが担当するようにした。加えて、俺は妻を亡くしたという設定にすることで、夫人たちからも声をかけやすくし、行動の幅を広げることに成功した。

 その後、幾つかの事項を確認し、俺たちはいざパーティーに向かった。




 第四盟主の屋敷は馬車に揺られて三十分の首都郊外の閑静なところにあった。この屋敷は貴族にしては珍しく一等地に建っていない。しかし、一等地の雑多な空気を考えればこちらの方が風情も趣もあった。

 御者のカエデに運転は任せ、俺は馬車の中でのんびりと景色を楽しんでいた。ぱから、ぱから、とゆっくりと刻まれる馬脚は、真っ赤な夕焼けとそれに照らされた石畳を踏みしめ、ぽつぽつと魔術灯の点き始めたローネリアに溶け込んでいく。

 通り過ぎた大通りの市場は半分が店仕舞いを始め、時々、駆ける子供が物珍しげに指を咥える。その子供はきっと、今日はいやに貴族の馬車が多い、と思っていることだろう。俺はその子供に銀貨を一枚ずつ投げてやった。

 夕日が建物に隠れたことで、俺は車窓の反対側に浮かんでいるエリシャとキキョウに初めて気がついた。二人は静かに一点を眺めている。俺が見ていることに気がついていない。二人も窓の向こうに浮かび上がった俺のことを見ていた。

 いつも二人とも俺と目が合うと赤い顔を慌てて逸らすくせに、今は逸らされることはなかった。

 ただ、何となくこの顔を忘れてはいけないような気がした。俺を見る二人の顔を忘れてはいけないような気がした。

 いよいよ、魔術灯が等間隔に点き始めた。点火師が梯子を持って歩き回る。魔術灯の明かりは、ぼうっとガラスの中に浮かび上がり、夕日に似た橙色の光が俺の顔を照らした。

 窓の向こうのエリシャとキキョウの姿もフッと消えていなくなった。

 俺は窓を開けた。


「カエデ、肌寒くないかい? このブランケットを使うといい」


「ありがとうご主人!」


「もうすぐ向こうに着くんだろ? だったらその口調は変えないとな。バレちゃうぜ?」


「あっ! わかりましたご主人様」


「大事な体だからな。特に女の子は冷やしたらいけない」


 俺は窓を閉めた。

 やがて、馬車は目的地に着いた。

 輝く窓辺を横切る多くの貴族たちが見えた。

 馬車の管理を第四盟主の馬の飼育係に任せて、俺は持ってきた手紙を門番に渡す。

 屋敷の中は豪勢の一言に尽きた。俺たち四人が肩車をしても届きそうにないくらい大きな絵画、金箔を満遍なく張り付けた黄金の椅子、国内各地から取り寄せた数々の特産品――中でもガラス瓶に入れられたウィルオーウィスプのシャンデリアは、目を見張らずにはいられなかった。

 思わず零れた溜め息を圧し殺し、俺は咳払いをする。すると、同じく目を丸くしていたキキョウとカエデも、俺の真似をして咳払いをした。

 エリシャは手慣れたもので、動じることなく優雅にドレスを揺らしながら堂々と歩き出した。俺たちはその後を追う。

 俺はここに一度来ているが、それでも驚くものには驚く。何度富士山を見ても溜め息が出るのと同じことだ。とはいえ、いつまでもこれではいけない。

 晩餐会の会場になっている広間の扉が開けられた。

 さあ、今夜は晩餐会。華々しく華麗で綺麗な晩餐会だ。

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