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AIに意識を移植されたのでちょっと異世界行ってきます  作者: 鉛風船
三章 貴族社会のあれやこれ
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晩餐会への招待状

 悪党たちは各々袋を持って帰っていった。残されたのは空になった酒瓶とうだるような湿度だけ。俺は立ち上がると早足で一階に上がった。一階は広々とした倉庫となっている。そこでは『黒死鳥』と『一角の悪魔』から借りてきた(奪ってきた)数人の男に命令して、改築をさせていた。

 巨大な炉と鋳型。金貨を成形するための機材。これらをこれから運び込むつもりだ。今は最終確認をしている段階なので、もう二三日もすれば機材を運び込めるだろう。

 …………。

 …………。

 …………。

 こんなものは当然お飾りである。俺は自己増殖が出来るので、このような真似をしなくても問題ない。必要なものは、造った金貨を保存するための貯蔵庫だけだ。このような遠回りをしているのもすべては計画のためである。

 黒の一族を解放する。

 それはエリシャの父さんの遺言である。それを単純な武力で解決するのは難しい。俺はこの世界の戦力を完全には把握し切れていないし、何より仲間が少なすぎる。

 だから、俺はこうして四方八方に手を伸ばし、少しでも達成できる確率を上げようとしているのだ。そして、悪党の支援は必須の事項なのだ。

 よく考えてみて欲しい。黒の一族に強い恨みを持っているロール人たちを一から説得し、黒の一族が市民権を得るには何年かかる? 市民権が黒人へ与えられるまでに何年かかった? 俺は流暢に何百年も待てるほど気は長くない。

 加えて、それまでの間に犠牲になる黒の一族はどうしたらいい? コラテラルダメージだから黙殺しろと? ふざけるな。俺たちは人道屋たちのお遊戯会を実演したい訳じゃあない。一秒でも早く救出できるのならそちらを選択するまでだ。

 俺は改築作業を見下ろした。

 本音を言えば、貧民窟の悪党たちを憲兵に突き出してやりたい。カエデのような黒の一族は一人でも減らさなければならない。だが、ここは貴族たちの息のかかった安息地なので、下手に手を出そうにもそうはいかない。ここを潰すには背後のパトロンを潰さねばならないのだ。

 まるで、対テロリズムである。テロリストを潰す最も手っ取り早い方法はパトロンを潰すこと。そのパトロン筆頭が第四盟主以下の貴族たちなので、俺は一番最初に第四盟主に近付いた。

 暴走馬車を助けたというのも俺の自作自演だ。大通りに馬の天敵であるコカトリスのフェロモンを撒いておき、馬を暴走させ颯爽と婦人を助ける。且つ第四盟主との昼食でカエデを見せ、俺がたたの旅行好きの貴族でないことも気付かせた。そろそろ、手紙か何かで第四盟主主催のパーティーの招待が届くだろう。それがきたら計画の第一歩目が佳境を迎える。

 時刻は夕方となった。俺は作業員たちを集めた。


「今日はここまでだ。いよいよ明日には機材が運び込めそうだな」


「はい、ですがなんの機材を運び込むんですかい? あっしらは馬鹿なんでよくわかりませんが、これほど大きいということは、頭領がやろうとしていることは大仕事だってことくらいはわかりやす。よかったら馬鹿なあっしらに教えてくれやせんか?」


「直にお前らのとこの団長から言われるだろうからその時に聞け。今は知らなくていい」


「わかりやした。出すぎた真似をしてすいやせん」


 俺は作業員たちを返すと帰路についた。貧民窟の空気には慣れたつもりだが、それでも東西を隔てる川沿いの空気には吐き気を催しそうになる。俺の視界に映るだけでも、川縁には三つの死体が浮かんでいた。

 貧民窟を出る直前に悪人モネの姿から適当な市民の姿に変わり、夕焼けの市場の人混みに紛れる。更に一等地に近付くと、モンテローネ伯爵の姿に戻り屋敷の門を潜った。

 着替えを済ませ談話室に行くと、そこにはカードゲームをしている三人の姿があった。テーブルを挟んでソファに座った三人はテーブルに並べられたカードを一心不乱に見つめている。俺が帰ってきたことも気がついていないようだ。

 不思議に思って近づいてみると、成る程得心、神経衰弱をしていた。


「……」


「……」


「……」


「ただいま」


「「「…………!」」」


 いや、そこまで驚くことかよ。見てみろ、キキョウなんて驚きのあまり取ったトランプを暖炉に放り込んでいる。幸い暖炉を使うのはまだもう少し先なので、カードが燃えることはなかったからよかった。


「ネモ様ぁ! 驚かさないでくださいよぅ!」


「僕も吃驚(びっくり)したじゃないか!」


「わ、私は驚いていないわよ!」


 エリシャさんや……。トランプを握りつぶして言っても説得力が皆無何ですが。


「そんなつもりはなかったんだけどね。驚かせてごめんな」


「それでもだよ!」


「だから私は驚いていないわよ!」


 暖炉を見ればキキョウが落ちたトランプを拾っている。俺はギャーギャー喚く二人を適当にあしらい、それを手伝うことにした。

 そういえば、暖炉は屋敷を買ったときから掃除をしていなかったな。キキョウくらいなら余裕で入る暖炉だから、使うときに掃除をしようとしていたんだっけ。手を煤だらけにして拾うキキョウの隣に行き、何枚か拾う。するとキキョウが困った顔をして俺の手を取った。


「ネ、ネモ様が拾わなくても大丈夫ですよ!?  私が取り落としたのがいけないんですから!」


「元は俺が急に声をかけたのが原因だからな。少しは手伝わせてくれ」


「で、でも、手が汚れますし……」


「俺の手は気にしなくていいよ。だって元がスライムだからね。汚れくらいすぐ落とせる」


「それでも……!」


「いいからいいから」


 俺はさっさとトランプを拾い、煤を払うとキキョウに手渡した。キキョウははにかみながらそれを受け取った。

 すると、ソファではそれを見ていたエリシャとカエデが、時折ジト目で俺を見ながらひそひそと密談をし始めた。俺はそれに聞き耳を立てる。


「カエデちゃん、見てよあれ。見せつけちゃってさ。キキョウちゃんは私の抱き枕なのに」


「僕も落とせばいいのかな?」


「私も落とすわ」


「……絶対に拾わないからな」


「地獄耳……!?」


「ご主人の意地悪!」


 えぇ……。確かに俺は耳はいいが……カエデよ、意地悪とは何だ。何故トランプを拾わないと意地悪になる? 俺はお前に何かしたのか?

 カエデは俺の手を引いてソファに座らせると、その膝の上に座り俺の両手を自身の腹の前に置いてシートベルトの要領にした。カエデはこれがお気に入りなようで、俺が暇をしているといつもやってきては膝に座る。まあ、暇をしているといっても考え事をしていたりするのだが……。


『私が推測するに、カエデ様はキキョウ様に嫉妬しているのだと思われます』


 ――随分と久しぶりだな。出し抜けに出てきて何を言い出すかと思ったら……嫉妬って言ってもカエデはまだ十歳だぞ?


『もう乙女です』


 ……言うようになりおってからに。


『最近、人間の感情の欠片を掴めたような気がします。ここのお三方を見ていると特にそんな気がします』


 ――はいはい、それで? 今日現れた本当の理由は?


『はい、本日はご主人の深層記憶の解析が七割完了したことお伝えに来ました』


 ――それは吉報だ。俺も早く元の姿に戻りたい。正直、何度も姿を変えるのは落ち着かないんだ。


 それに――自分を見失いそうになる。やはりこれは機巧核に深層記憶を走査させているせいなのか? そうだとすると、自分の姿を取り戻すために自身を失うことになり、本末転倒してはいまいか? 


『恐らく、後二ヶ月もしたら完全に解析が完了します』


 ――一つ聞いてもいいか?


『何なりと』


 ――時々、自分が自分でないような感覚に陥るんだが、何故だかわかるか?


『それは典型的な心身分離症候群の症例ですね。予め予想された症例です』


 ――予め予想された症例?


『はい、私を開発した研究者たちはこの事を予想していました。私と長く過ごすと意識と身体に乖離が見られるのです。まずは、自身が自身じゃないような感覚に教われ、症例が進行すると体が意識とは関係なく動くようになります』


 ――わかった。その話は後でじっくり聞くことにする。今は相応しくない。


『畏まりました』


 俺はカエデの頭をくしゃくしゃに撫でくり回した。うなうなとされるがままのカエデは見ていて面白い。キキョウにもやってやりたいが、彼女は恥ずかしがって膝に乗らないので、いつか隙を見て絶対に撫でくり回してやろう。

 ああ、今日の晩御飯は何だろうか。この時期は野菜の収穫期なので野菜が中心だろうか? 久しぶりに米を食べたい。味噌汁も飲みたい。

 …………。

 …………。

 …………。

 誰がどうみても現実逃避である。だが、俺はこれからどうしたらいいのだろうか? これからが本番だと言うのに、情けないことこの上ない。


「うなー、ご主人目が回るー」


「おお、ごめんごめん。やり過ぎた」


「まったく~、でもご主人疲れてるみたいだし、僕を撫でることで回復するならいつでも手伝うよ」


「……ありがとう」


 俺は疲れているのか? 機械の肉体は疲れないはず。そんなわけはない。今もこうして普通に考え事をしたり、カエデともじゃれたりしている。これは疲れというより、不安なのではないか? 何れにしてもこれではカエデの主人は失格だな。よし、これからは疲れを見せないようにしないと。

 その時、玄関の呼び鈴が鳴る。郵便屋だった。キキョウが一通の手紙を持って帰ってきた。


「ネモ様宛みたいです」


「ありがとう」


 差出人はカプト・スタートルビー大公爵だった。

 俺は手紙の封を切った。


《重ねて言わせてもらうが、妻の命を助けてくれてありがとう。これは心から思っている。それとこの間の昼食は伯爵をよく知ることの出来たいい機会だった。そこで、親睦の印として伯爵を今度の土曜日に開かれる晩餐会へ招待したい。共通の話題もあることだし、夜が更けるまで語り明かそう》

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