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AIに意識を移植されたのでちょっと異世界行ってきます  作者: 鉛風船
三章 貴族社会のあれやこれ
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悪人大会議!

 次の目標も決まり、そのためにはまとまった休暇のときにするのがいいという結論になった。今は連合国議会が始まったばかりなので、ダンジョンに出向くのは四半期後の冬ということになる。

 この国の冬は体感していないので何とも言えないが、機巧核の予測では特別寒くはならないのだそう。モンテローネ山と周りの山脈が西から吹く暖かい風を上空へ吹き上げ、冷たい湿った空気にして東側に吹き下ろすらしい。だから、雪はそれなりに降る。

 ところで現在、議会開始日から一日置いた曇りの日、俺は貧民窟で買った倉庫の地下室にいた。悪人に姿を変えている。じめじめとした地下室は何とも居心地が悪い。絶えず服がどこかに張り付いて、動く度に不快指数が上昇していく。

 俺はそこで四人の男と顔を付き合わせて、卓を囲んでいた。

 丸い机に泥まみれの岩みたいな顔の男たちが並ぶ姿は、ある種の珍品展覧会を想起させる。俺から時計回りに『黒死鳥』団長のゲス、『死霊の腸』団長ザイフ、『一角の悪魔』団長ドルネリ、『腐肉』団長のベンジ、というように並んでいた。こいつらは貧民窟を取り仕切る四つの団の団長だ。


「久しぶり諸君。あれから元気にしていたかい?」


 俺はにこやかに問いかけた。どぶ臭い空気にせめてもの花を添えようとしたのだ。


「そんなわけあるかバカ野郎! おめえんせいでこっちは本拠地が半壊した上に団員の半分が憲兵にしょっぴかれたんだぞ!」さ


 川の下流の石みたいな頭のゲスがゴマ粒みたいな目を吊り上げて怒鳴り散らした。そのどでかい図体と相まって中々の迫力である。


「こっちもお前のせいで常連貴族どもが逃げて商売上がったりだっつの!」


 次に怒鳴ったのは川の上流にありそうなごつごつした顔のドルネリだった。

 この二人はカエデの一件の後、俺に喧嘩を売ってきたのでぼこぼこにしたやつらの団長だ。残りの二人はそれを見て、降伏してきた連中である。貧民窟では力こそすべてなので、四団長を制覇した俺が貧民窟の頭領というわけになる。


「知るか。いっそのことすべて潰れてしまえ」


 であるからして、このような口を利いても何も問題はない。口答えしたと言ってこの二人を殴り殺しても、誰も文句は言わない。

 今も何処かの母親が、子供に貧民窟のこの悪人たちの話を聞かせて悪戯を戒めている――この国の母親は子供に悪戯を叱るとき、度々貧民窟の悪人が(さら)いにくるぞと言う――と思うと笑いが込み上げてくるし、そんな母親に、ああ、あの悪名高い悪党たちは自分の命欲しさに尻を並べたよ――これもこの国の慣用句だ。命乞いをするという意味――と言ってあげたい。

 兎も角、今日俺は新しい頭領として初めて全員を集めたのだった。


「それで? モネさん。あんたはどうして俺たちを集めたんですかい?」


「ああ、今日お前たちを集めたのは、やってもらいたいことがあるからだ」


 ベンジが、俺が卓に用意した何から作られたのかもよくわからないくそ不味い酒を一口呷った。

 俺は片手を振って酒瓶を退かすように合図し、卓の真ん中にどちゃりと人の首が入りそうなくらいの袋を四つ置いた。無論中身は首などではなく、俺が造った贋金だ。


「中を見ろ」


 各々が口を縛る紐をほどくと、中から金貨が溢れ出した。


「おおっ!」「金貨だ!」「こんなにも――!」「百枚は優に越えているぞ!」


「正解だ。この中には五百枚の金貨が入っている」


「どうしてこれを?」「どうやって集めたんだあ?」「とんでもねえ頭領だ……」「一生ついていくぞ!」


「うるさいぞお前たち。ところで、この中で一番の目利きは誰だ?」


 四人の川辺の石ころどもは互いに顔を見合わせ、我先に手を挙げた。空気が凍る。手を挙げた反対の手が懐へ伸び、獲物を握った。

 はあ、喧嘩っぱやいのはいいけれど、どうしてここで事を構えようとするかな。


「わかったわかった、手を下げろ! 全員でいい。この金貨を見ろ」


 俺はポケットから四枚の金貨を取り出し、それを四人へ投げて放った。


「頭領……まさかとは思いますが――」


「勘が鋭いなザイフ。その通りだ。この金貨と袋の金貨、違いを探せ」


 そうだ。今は渡した金貨は本物の金貨だ。俺の渡した金貨を片手に袋の金貨とのにらめっこが始まった。大悪党が四人集まって金貨の目利きをしている姿は、何とも言えないシュールさがある。暫くして全員が顔をあげた。


「頭領……これは本当に贋金なんですかい? 俺たちにはどう見ても本物の金貨にしか見えねえ」


 ゲスがソーセージみたいな指に贋金を挟んで矯めつ眇めつしている。


「俺にもそう見える。大体、これが贋金だとして、こんな精巧なものをどうやって造ったっていうんです?」


「信じられないか? じゃあ、証拠を見せよう――金貨よこちらへ!」


 俺が指をパチンと鳴らすと、ゲスの持っていた贋金の円周四ヶ所が割れ、足が現れた。驚いたゲスがそれを取り落とす。やがてくるくると回っていた贋金が落ち着くと、足の生えた贋金がゴキブリよろしく駆け出した。俺の手まで駆けてくると、それは二本足で立ち上がり、上部箇所が割れて頭が現れた。俺はそれを摘まむ。


「な? これが証拠だ。本物がこんな風になるわけがない」


「な、なんだよこれ……?」「生きているのか……?」「魔術……いや、魔法?」「まさかこれ全部……?」


「察しが早くて助かる。その袋に入った金貨はすべてこれと同じだ」


 手のひらの金貨ロボットがちょろちょろと動き回り、俺の手から飛び降りた。それはかちゃかちゃと足音を鳴らしながらゲスの元まで行き、ボンレスハムのような腕に乗っかると勝ち誇ったように二本足で立ち上がった。


「あんたは一体何者なんだ?」


「そんなこと今はどうでもいい。俺がこの贋金を渡した意味がわかるか?」


「いや……」「面目ねえ……」「わからねえ……」「さっぱりだ……」


「簡単な話だ。これを使ってお前らの団を強化しろ」


「強化……ですかい?」


「一々聞き返すな。お前はオウムか? ジジイか?」


「……すいやせん」


 四人は不思議そうな顔をしている。それもそうだ。特にゲスとドルネリは困惑顔も極まり、苔むしたようにしわくちゃになっていた。

 ん? どうして悪党を支援しているかって? 

 それは今にわかる。

 もう少し待っていてくれ。


「ゲス! 憲兵に賄賂を渡し手下を呼び寄せ、本拠地も建て直せ。ドルネリ! 娼館も立派なものにして、もっといい女を仕入れろ。貴族にもこの金貨を握らせろ。それと、ザイフ! これからはここで開かれる奴隷市のすべては俺が取り仕切る。お前の持っている黒の一族をすべて連れてこい。すべてだ。もし、ちょろまかそうならお前の尻を四つに割って肉を削ぎ落とし、お前の母親の墓前に並べるからな。ほかの奴らも同じだぞ。持っている黒の一族を全員俺の元に連れてこい。ベンジ! もう少ししたら東側の整理をするから、ありったけの金を注ぎ込んで薬を準備しろ」


 いいな? と念を押す。全員が頷いたのを確認すると、俺は指をパチンと鳴らした。すると、袋に入っていた贋金貨がすべて動きだし、四人の前に均等に五百枚ずつ積み重なった。

 因みに、金貨一枚あたりを日本円に換算すると、西暦二千五百年現在の時点で約百万円の価値になる。


「そうだ、最後に一つ。これからの取引はすべてこの金貨で行うように。金貨の必要ないくらい少額の場合なら使わなくていいが、でかい買い物の時は必ずこの金貨を使え」


「「「「はい!」」」」


「では解散!」

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