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AIに意識を移植されたのでちょっと異世界行ってきます  作者: 鉛風船
三章 貴族社会のあれやこれ
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サロンにて

 俺が会議を傍聴している間、エリシャとキキョウが何をしていたのかを語ろうと思う。ん? 本人でないのだから、詳しく語ることは無理だって? 確かに一理ある。だが、俺は体がナノロボットで造られていることを忘れないで欲しい。

 俺は彼女らの髪飾りにロボットたちを擬態させて側に付けているのだ。だから、言動は勿論のこと、エリシャに限って言えば、その心の声まで聞き取ることが出来る。いかがわしいことをしているようで、背徳心をくすぐられないでもないが、そこは鉄の心で押さえ込む。

 では、髪飾りが記録したものを見てみよう。

 ――――――――。

 ――――――。

 ――――。


「ごきげんよう、モンテローネ嬢。どうだい、ここは?」


 私が二階のテラスで広大な庭を眺めていると、後ろから甘ったるい声が聞こえてきたの。


「ええ、とても気持ちのいいところだと思いますわ。連合の首都は都会だと聞いておりましたのに、このような素敵な場所があったのですね」


 振り返るとそこには、肩まで届く燃えるように赤い髪の毛を後ろで無造作に縛った青年が、ワインを入れたグラスを二つ手に取って立っていたわ。彼は私の隣まで来ると、どうぞと言ってグラスを私に手渡したの。


「僕の自慢の庭だからね」


 彼は良く日焼けをした顔で莞爾(かんじ)と笑ったわ。私はそれを鬱陶しく思って目を逸らしたのだけれど、それがいけなかったみたい。彼は私が恥ずかしがり屋だと思い込んじゃって、中々私の側を離れないのよ。

 無論、彼は人柄だけ見ればいい人よ。身分だって()()第三盟主、コクーラン伯爵配下のナンバーツーの息子だもの。私以外の女の子ならば有頂天になったでしょうね。けれど、私はそのコクーランに父さんを殺されたのよ。肯定的な目で見れるわけないじゃない。

 だから、今もこうしてあまり会話もしていないのだけれど、彼は自分に(なび)かない女の子が好きなようね。私の行動のすべてが裏目に出ているのよ。

 そもそも、私がこんなことをしなくてはいけないのは、全部ネモのせいだわ。ネモが情報が欲しいとか言って、私を貴族の子息たちの集まるお茶会に放り込んだのよ。隣の彼、エルトン・バリー・ジョウダン子爵も子息の一人で、貴族の子息社会ではとても有名な人よ。私も、父さんが生きていたときに何度か会ったことがあるのだけれど、どうしてこんないい加減な人が人気なのか理解できなかったわ。

 今は変装のために顔を若干弄っているからエリシャ本人だとは気が付いていないみたい。私としては早く部屋の中で談笑している女の子たちの中に紛れたいのに。退屈だわ。


「――何故だろう」


「どうしたのですか?」


「君を見ていると、アルクドルク嬢を思い出すんだ」


「……」


 本当に心臓が止まるかと思ったわ。実際、頭の奥に幻聴が聞こえたくらいだもの。でも、私は頑張ったわ。()()()()()()()()で何とか乗り切って、ワインを飲むことで誤魔化したの。


「昔の女性ですか?」


「いや、そういう訳じゃないよ。ほら、僕は……何て言うか、昔から女性とお近づきになる機会が多かったんだけど、とても印象に残る女性がいたんだ。その女性とモンテローネ嬢の雰囲気がとても良く似ていてね。名前も一緒だし声をかけたんだ」


「ジョウダン様はその女性のことを愛していらしたのですか?」


「……どうなんだろう。良くわからない。ただ、彼女のことは片時も忘れたことはなかったよ……だから、あんなことになってしまうなんて……」


 またまた吃驚(びっくり)したわ。まさか、この色事大好きな色エロジョウダンが私のことを好きだったなんて。でも、今の私には関係ないわ。今の私にはこの国すべての貴族が敵だもの。今に吠え面かかせてやるわ。覚悟しておきなさい。


「あんなこととは?」


「あまり言いたくないんだけど、彼女は数ヵ月前にダンジョン攻略で仲間殺しをしてね、処刑されたんだ」


「まあ……」


 そのエリシャが目の前にいるとわかったらどんな顔をするでしょうね。少し見てみたいわ――彼にだけわかるように正体を明かしてみようかしら? 彼なら何も咎めないだろうし――何て冗談よ。そんなことするわけないじゃない。私は黒の一族解放のための情報集めのためにここにいるんだから。それがバレちゃったら元も子もないわ。


「そうだ、良かったら――」


「――私とアルクドルク嬢を重ねても何にもなりませんよ。私は私ですもの。誰かと誰かが似ているのはよくある話ですわ。世の中同じ顔の人間が三人はいるとダンジョンの本にも書かれていますの」


「――そうだね。君は君だ。アルクドルク嬢じゃあない……ああ、本当はこんなしんみりする話をしにきたわけじゃあないんだ。君はこの国へは来たことは?」


「ありませんわ」


「丁度いい。今度の土曜日は空いているかい?」


「午前の詩歌の勉強の後は空いていますわ」


「じゃあ、その時首都を案内してあげるよ」


 よりにもよってこの男なのは気に入らないけれど、仕方ないわね。無下に断れないし、ここは情報収集のために彼で我慢するわ。


「わかりました。では、当日はどうしたら?」


「僕が迎えに行くから君は家で待っているといいよ。君の父上にも宜しく伝えておいてくれ」


「ええ、わかりましたわ」


「僕はもう入るけれど君は?」


「私も入ります」


 私たちがサロンに戻ると、男女問わず色のついた視線を投げ掛けてきたわ。私が言うのも何だけれど、本当に貴族は色ボケの集まりなんだから。ほら見なさい。噂好きの女の子たちが何人も集まってきて、私の手を取って離してくれないの。これくらい馴れているとはいえ、いちいち相手をするのは気が滅入るわ。

 中でも、一番噂好きのエマなんて、絶対ムッツリスケベよ。耳年増なだけで、絶対に男の人と手も繋いだことないに違いないわ。皆、ジョウダンの方を確認しただけで妄想を爆発させちゃって。もう心が通じ合っているんだわ、とかこの辺で逢瀬をするならモンテローネ山の麓の沢がいいわ、とか好き勝手に言っているけれど、そんなことあるわけないんだから。


「落ち着いて。私はジョウダン様に首都を案内してもらうだけよ。皆が想像していることは起きっこないわ」


「本当、羨ましい。北国だからと言って侮れないわね!」


「誰が信じるものですか。絶対……あ、あんなことや、こんな……こんなこともするに違いないわ!」


「追跡隊を結成して不埒なことがないよう監視すべきよ!」


 はああ、面倒なことになったわ。ネモに何て言ったらいいのかしら? まあ、ネモのことだから言わなくても見抜いていそうね。大体、私はネモさえいればいいの。魔族だから魔法も使えるし、ワイバーンよりも強いし、その辺の貴族なんかに靡くわけないじゃない。

 ジョウダンも皆に揉まれているのかと思い、そちらを見遣れば、案の定質問攻めにあっていたわ。男女とも変わらないのねと溜め息を漏らすと、ジョウダン様を想っているのねと勘違いされる始末。面倒になった私がそうよ、というと一段と色のついた矯声が耳を殴打し、更に盛り上がっていったわ。

 それから、暫く私のことでわいわい騒いでいたのだけれど、それも飽きたのか誰かが私にこんなことを聞いてきたわ。


「ところで、エリシャはとっても立派な黒の一族を連れているけれど、何処で買ったの?」


 この話を待っていたわ。私の家では黒の一族を買なんてことは絶対になかったから、貴族たちの黒の一族の入手経路は知らないの。それに、貴族の子息で黒の一族を使用人に連れているのは私だけみたいだから、早くこの話題にならないかとうずうずしていたところにナイスタイミングよ。

 私はずっと後ろに控えていたキキョウに目で合図を送ると、彼女の質問に答えるべく口を開いたの。

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