首都ローネリア
これからエリシャの父さんの遺言に従い――勿論エリシャ自身の願いもある――、奴隷に堕とされた黒の一族を救出しに行くわけだが、その前に話しておかなければならないことがある。
今現在、俺はロールスト連合国の首都、ローネリアに屋敷を構えている。それも高級住宅街の建ち並ぶ一等地だ。ご近所さんには多くの貴族がおり、議会の時期になるとここに住む。その資金について話さなければ、今後の物語に支障が出るだろうと踏んだわけだ。
とはいうものの、話は単純である。俺が貨幣を偽造したのだ。バレれば打ち首獄門であるが、生憎俺には首はない。饅頭頭一つの体なので既に晒し首状態の俺には関係ない。無論、エリシャやキキョウはそうもいかない。しかし、その辺りも考えてあるので問題ない。
屋敷に滞在しているこの一月の間に、俺はローネリアの貧民窟に足を運び、幾つか裏社会とのコネクションを作っておいた。簡単に崩れる脆いものであるが、あるとないとでは大違いなのである。
そもそも、どうして貧民窟に足を運んだのか――それはそこが犯罪の温床となっていたからである。木を隠すなら森の中、貨幣偽造を隠すなら貧民窟の中ということである。一つ問題があるとするならば、貧民窟に憲兵が押し入ってこないか、ということだが、貧民窟はその存在を黙認された、謂わば公認のブラックスポットなのでその心配はない。
売春、賭博、薬、人身売買と一部貴族も足を運んでいるくらいだ。俺が足を運んだときには貴族から売られた黒の一族が競りにかけられていた。黒の一族の救出を掲げている手前、見過ごせない俺は、それを持ち前の偽造貨幣で競り落とし、貧民窟に設けた小さな事務所へ預けている。様子を見てエリシャたちと合流させるつもりだ。
ん? 偽造貨幣はどうやって作っているのかって? まず、ナノマシンの純度十割の銀貨と本物の金貨を両替してもらい、そこから金貨の成分を分析する。次に、割り出した成分から似たような密度、少し軽めの重さの金貨を偽造し、本物の金貨を溶かしてその周りに厚めにコーティングすれば出来上がりである。
その場凌ぎのお座なりな手法だが、金貨さえ手に入れば済むので、深く考えなくていい。ちなみに、両替で渡した銀貨だが、暫くするとナノマシンが離散するので勝手になくなる。贋金を掴まされたと騒がれることもない――神隠しだと騒がれることになるが――。
話すことはもう一つある。
贋金作りも大事だが、それよりも更に大事な話がある。
俺たちは一等地に屋敷を買った。莫大な費用を要したが買うことができた。しかし、連合国の法律では二等地までなら奴隷以外の身分の人間は誰でも買うことができる、とある。言い換えると、一等地は貴族でないと買うことが出来ないのだ。だが、俺は貴族の生まれではない。エリシャは貴族だが、世間では極悪非道の犯罪者、かつ処刑されたことになっているので、その肩書きは機能しない。
本来ならば一等地など買えるはずもないわけだ。色々な手を使って無理矢理買うことも出来るが、それをしてしまうと後々の皺寄せが恐いのも事実。この話は、贋金作りの前に話しておけばよかったと思わなくもないが、過ぎたことは仕方がない。このまま続けるしかないか……。
兎に角、俺がどうやって一等地に屋敷を構えることが出来たのかと言うと――これもまた至極単純な話なのだ。俺が貴族の爵位を金で買ったのである。貨幣経済が浸透している世界ならば、存在するものすべてが商品になる。ましてや貴族の爵位などは言わずもがな。調べてみれば、この世界にも元商人の貴族は一定数いた。
俺は名の知れた商人でもなんでもないので、あわよくばと思い、ダメ元で連合国の北に位置するクィント王国まで出向き、凋落した貴族を訪ねたら、諸手を上げて売ってくれたのだ。
こうして俺たちは貴族の、それも伯爵の地位を手に入れた。名字も手に入れた。ネモ・アルク・モンテローネ伯爵だ。因みに、アルクはエリシャの家名を拝借している。
これに伴い、エリシャもエリシャ・アルク・モンテローネに改名することになった。続柄は俺の娘である。これは貴族社会での立場を演出するためのことであり、別段意味はない。キキョウも俺のお付きの召し使いとしてある。本来ならばこのようなことはしたくないのだが、貴族社会に溶け込むことが必須な以上、どうしても避けられぬことなのだ。
――こんなものだろうか。うん、俺の話しておきたいことも話終わった。この辺りでお開きにしておこう。それに、明日にはいよいよ議会が始まるから、それに向けての準備もしなくてはならない。
では、また。




