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AIに意識を移植されたのでちょっと異世界行ってきます  作者: 鉛風船
二章 世の中思い通りに行く方がおかしいのです
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行動開始

 夜陰に紛れる影が二つ。昼間の熱風と打って変わって、月の照らす砂漠には霜が降りるほど気温が下がっていた。二人は、喧騒(かまびす)しく酒に溺れる若者たちの背後を、影に忍びながら迂回し曲折を経て行く。

 この地域の機構は少々特殊であり、昼間の風は大陸側から吹き下ろす灼熱の熱風だが、日が落ちると今度は海からの湿った冷たい風が吹き上る。風が運ぶ上流の肥沃な土が海に溶け出し、多種多様の魚の餌場になることでこの付近の町は発展してきた。

 更に言うなれば、この地域の人々は昼夜逆転したような生活を送っている。貴族はそうもいかないが、一般庶民は暑い昼に寝て、気温の下がる夜に活動するのだ。俗にこれを適応進化と言うのだろう。

 そんなことはさておき、二人の隠者は屋敷へ向かって疾駆していた。熱風にも負けない丈夫な煉瓦屋根を飛び越え、さながら忍者であった。

 一人はエリシャ、もう一人は俺だ。エリシャは俺の人体改造術を受けて、ロール人の身体能力を軽く凌駕ししているので、俺と同じように跳び跳ねることが出来るが、このような芸当は黒の一族でもないと不可能であろう。

 昼間に情報を収集し終えた俺は、その情報を元に作戦を練った。我が子蜘蛛たちの活躍により、存分に情報を収集することに成功したのだ。これを元に立てられた計画なのだから失敗しようがない。ばらまいた子蜘蛛たちはそのまま潜伏させ、万が一の時に備えさせており、必要ならば魔法のしようも許可してある。

 門から玄関、あらゆる部屋に忍び込み――勿論風呂や個人の部屋の中にも忍ばせた――監視してもらっている。もし、中にいる人物が奇想天外な行動を起こしてもそれに対応できる算段もある。

 タイムリミットはキキョウが懲罰室に連れていかれるまでだ。明確な時刻を言及する場面を捉えられなかったため、憶測ではあるが深夜三時位だと予想する。この予想は我が非凡なるブレインである機巧核さんが算出した時刻であるために、大きな差はないはずだ。

 住宅街を抜け、フォーカス邸に通じる大きな一本道に着いた。ここは今日の昼間にエリシャがダウンした場所に程近い。


「エリシャ! 陽動は頼んだぞ!」


「任せて! 久しぶりに私の本気を見せてあげるわ」


 親指を立てるエリシャを残して、俺は屋敷の裏側へ回るべく鳥に姿を変えると、昼間に確認したキキョウの部屋の窓の縁に止まった。彼女の部屋は二階にある。何でもこの地域では地下深くにある部屋ほど高貴な人が住まう部屋らしい。使用人である彼女にはふさわしい部屋なのであった。

 エリシャには俺が合図を出したら思いきり暴れてもらうように指示を出した。怪我をしてしまわないか心配だが、それを彼女に言ったところ頭を叩かれた。馬鹿にしないで、と怒られてしまった。故に、俺は彼女には最低限のナノマシンを忍ばせるに留めた。

 現在の時刻は午後十一時を回った。キキョウはあちこちに動き回っている。(ちな)みにフィロとクリアのお見合いは既に終わり、今は各々が自由な時間を過ごしていた。フィロは町へ繰り出して町娘をナンパし、男爵は自身の書斎に籠り仕事を片付けている。キキョウを始めとした従者たちも、掃除に洗濯にと忙しそうにしていた。

 事態が動いたのは深夜も二時を回った頃であった。俺はキキョウが部屋に戻ってくるのを察知すると、エリシャに準備するようにナノマシンの通信機能を用いて伝えた。


「対象がこちらへ接近。接触した後に合図を送る。それまで待機だ」


「わかったわ」


 キキョウが扉を開けて部屋に入ってきた。彼女は俺の姿に気が付かず、疲れた様子で粗末なベッドに横になった。

 彼女は泣いていた。仰向けになり天井を睨み付けた彼女は、その勝ち気な瞳をこれ以上ないくらいに濡らし、萎ませ、溢れる涙を止めようともせずに、天井を睨み付けていた。

 俺は窓を(くちばし)でこつこつとつついた。最初は気が付かなかったキキョウも四度目、五度目ともなるとベッドから上体を起こし、音の出所を探った。

 俺と目があった。キキョウは吃驚(びっくり)してベッドから跳ね起き、窓に手を置いた。彼女が驚いたのは俺が窓の縁に居たためだけではない。俺が彼女の通声魔術の鉱石を咥えていたからだ。俺は前足で器用に窓を引っ掻いた。


「…………! …………!」


 キキョウが何かを叫んだ。俺には何て言っているのかはわからなかったが、何を言いたいのかは伝わった。

 俺は破壊魔法を発現させ窓を破壊すると中に入った。


「んな! と、鳥が魔法を!?」


「鳥じゃあない。覚えていないのか? ネモだよ」


「喋ったあ!?」


 これでは埒が明かないと判断し、俺は昼間の姿に戻った。キキョウはその間放心状態だった。口をぽかんと開け、俺の変身をじっと見ている。

 なんだろう。そのようにじっと見られると、何故だか恥ずかしい気持ちになってくる。


「これでわかるだろう? ネモだ」


「ほ、本当にネモ様ですか? 魔法を使えるなど、もしやネモ様は魔族なのでしょうか?」


「半分正解だ……と今はそんなことをしている場合ではない。単刀直入に言うが、今晩俺は君を助けに来た」


 俺はまだ放心状態のキキョウの手を取り、昼間返しそびれていた通声魔術の鉱石を堅く握らせる。


「こ、これは!」


「済まない。昼間、君に返しそびれたものだ」


「いけません! 私を助けるなんて思わないで下さい……私は大丈夫ですのでどうかお気になさらず――」


「それは無理な相談だな。(うち)のエリシャ嬢はとっても我が儘な性格でね。一度言ったことは完遂しないと気が済まない性質(たち)なんだ。だから無理だ」


「そんな勝手な……私のことは本当にお構い無く。大丈夫ですので放っておいてくださいませ…………今、エリシャと申しましたか?」


「ああ」


 キキョウが唾を飲み込んで後退った。


「エリシャと言いますのは、あのエリシャ様で間違いないのでしょうか? あの処刑されたエリシャ様で間違いないのでしょうか!」


「大丈夫だ。問題ない。その認識で合っている――尤も、兵士を殺したのはエリシャではなく俺だがな」


 キキョウが膝から崩れ落ちた。口を押さえ、恐怖で腰が抜けてしまったようだ。俺が手を差し伸べてもそれを掴もうとはせず、後ろに下がっていく。

 何もそんなに怖がることはないだろうに。しかし、まあ分からなくもない。目の前に魔法を使う人間が現れ、それが最近巷を騒がせた大量殺人鬼の正体だというのだから。だが――。


「そろそろ、潮時か――」


 俺はエリシャに合図を出した。直後、ワイバーンの魔力が放出され、屋敷の門が吹き飛んだ。それは、ここから花火のように見えた。舞い上がる火の粉、土石が一瞬を彩る花火になり、空へ昇っていった。


「ご、ご主人様に知らせないと……」


 健気にもキキョウは這いながら扉を開けようと手に掛けた。


「扉は開かないよ。俺が閉じておいた」


「……そんな! ――きゃっ!!」


 俺はキキョウの脇腹を抱え、ベッドに押し倒す。彼女の両手を押さえつけ、俺はメイド服を思いきり捲った。そこには昼間見た生々しい傷跡がある。


「この傷跡、治したくないか?」


 俺は耳元で囁いた。途端にキキョウの体が強ばる。


「この傷を治して、焼き印を解除したくはないか?」


「……そ、それは出来ません」


「ほお、どういうことだ?」


 キキョウは身動(みじろ)ぎ俺の束縛から逃れようともがいた。だが、俺の力の方が強く、彼女がいくら唇を食い縛り、いくら俺のことを蹴ろうとも、逃れることは出来ない。


「私はフォーカス男爵に仕える使用人の一人です。そのような脅迫に動じる訳にはいきません!」


「そうか……下劣な奴に忠誠を誓うのか」


 俺は有無も言わさず、キキョウの唇に俺の唇を重ねた。舌を入れ、掻き回す。彼女も抵抗しようと舌で抵抗するが、それは反ってお互いの舌を絡ませてしまう。彼女の目から涙が零れた。

 屋敷の外では再び大きな爆発が起こった。

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