第8.5話 帰り道
「本当にすごかったよ、恒哉!」
地下鉄のホームで俺の横に立つ凌平はさっきからずっと今日の俺を絶賛してくれてる。
「まだまだだよ。2試合目なんて6点しか取れなかったし…」
「でもやっぱりすごいってあんなにリバウンドもバシバシ取ってたし。木村先輩に何本もアシストしてたしさ。」
「…あれは木村先輩がすごいだけだよ。」
そう言いながら一緒にコートに立っていた木村先輩のプレーを思い出す。
今日の2試合で両方とも30点越え…本当にあの人の得点力はすごいしかもパターンも豊富だ。そう、俺にはできないことをさらりとやっていた。
そして普段なら…他の人には絶対に芽生えない気持ちが強くなっていく…
木村先輩より活躍できるようになりたい!
そしてその理由もハッキリしてる。
「本当にそうだよな。あんな簡単そうに点を決めまくってさ。」
凌平も木村先輩のプレーを思い返してるのか興奮気味だ。
土曜日の午後5時の混雑する地下鉄に2人で乗り込み吊り革に並んで掴まる。
そして最寄駅に着いて地上に出たタイミングで凌平が言い出した。
「せっかくだからこの前作ったグループチャットに勝ったって報告しようぜ!」
俺は少し心拍数が上がった気がした。
「でも多分、もう知ってるだろ…俺たちも女子も順当に勝ったこともう知ってるし。」
「そうかもだけどせっかくだから盛り上がるためにもさ!」
「あ、ああ…」
俺と凌平がほぼ同時にスマホを取り出すとタイミングよくそのグループチャットからの通知が鳴る。
【匠海から聞いたよー。圧勝だったみたいじゃん!しかも!谷ぐっちゃんは大活躍だったんでしょ?一年なのに大したもんだよ。おねーさんは惚れ直したよぉ♡】
東内先輩がいつものテンションでそう送ってきてくれた…
「凌平、俺ちょっと走って帰るわ。」
「えっ?お、おう…おつかれ」
俺は結構全力で家まで走った。
そして部屋に入るなりベッドにうつ伏せに倒れ込みスマホの画面を見つめる。
凌平や山内さん、先輩たちはなんだか盛り上がってるようだ。
あらためて自分が木村先輩に勝ちたいと思う理由がいかに幼稚かつ無意味なことだと思い返しつつ、思わず一人で呟いてしまった。
「なに東内先輩のこと好きになってんだよ!俺は…」




