No.36
楽しみにしてる方大分お待たせいたしました。一話だけですが書き上がったのでどうぞ。壁|*´・ω・)っ旦スッ
No.36
『魔境』。そこは一度歩けば、ひきりなしと言った具合にモンスターが現れ襲い掛かってくる場所だ。
しかしそれも堅牢に作られた集落であれば安全に暮らしていける。勿論絶対ではないが、それでも終始モンスターに襲われるかもしれないと言う緊張を保ち続けているよりはずっと安心だ。その為集落に住む者の中には、集落から一度も出ず生涯を終える者もいる。
そんな『魔境』には四つの集落が存在し。人々はその内の何処かの集落に身を寄せ暮らしている。
四つの集落にはそれぞれ特色があるが、何も暮らすもの全員がその特色に染まっているわけではない。全員がそれしか出来なければ暮らしていくのには不便だからだ。だから自分に出来ることをしながら暮らしていく。
そしてここ、チンロンの集落は『武人の町』などと呼ばれている。言われる由縁はチンロンが一番『外』、外縁に近い場所にあると言うのがひとつの理由だ。どうもこの『魔境』は犯罪を犯した者の流刑の地として扱われているようだ。それ故にならず者が多いと言うのがあるな。まったく、この『魔境』は厄介者を追い払う場所ではないと言うのに。
『魔境』に放り出された者の中でも運良くチンロンに辿り着いた者は、猛々しく自分が集落の長となるようなことを言うが、誰も彼もがその器に相応しいものはいない。酷いものに至っては成人前の子供にさえ負ける実力しか持たないものが要るくらいだ。
良くあの実力で『魔境』を歩き、このチンロンまで辿り着いたと首を傾げる始末だ。まあ、運だけは良いのだろう、ああ言った者は。
『…………』
火の色を見てここと言う場所で焼べられていた鉄を取り出し。熱せられている内に鎚を使い叩いていく。それを何度か繰り返していると。
『ーーーん! さん! ガルドさん!』
自分を呼ぶ声が耳に届き。振り返ると来客が居たようだった。
『すまん。鍛冶に集中していて気がつかなかった』
『こちらこそ仕事中にすみません。実はまた……』
その言葉でやれやれと嘆息を吐いた。
どうやらまた、自己主張が激しい奴が、このチンロンまで運良く辿り着いたようだ。
『……ここ最近は特に多いな』
『『外』の奴らはそこまで酷いってことですかね?』
『『外』の事は知らないが、ここを流刑の場所にされるのは、住むものとしてはあまり良い気分ではないがな』
知らせてくれた者に場所を聞き。その自己主張の激しい奴の場所に行くと。
『今日からここは俺様が支配してやる。ありがたく思え!』
思わず溜め息が出た。
どうして『外』から来た奴は皆同じようなことしか言わないのか? 全員兄弟か何かか?
件の自己主張の激しい者だが、頭には確か、王角と呼ばれる角が生えている魔人族と言う一族だったか、筋骨隆々の自分と同じくらいの背丈の男だった。
『ああ、そこの男。このチンロンの『獣の王』になりたいと言うのなら、儀式を受けて貰わなければならん』
『あぁん? 誰だテメェは?』
『このチンロンの『獣の王』をさせて貰っている、ガルドと言うものだ』
『あっはっはっはっ! テメェのようなヒョロくせい奴がここの頭だと!?』
男は大笑いをしたあとニヤリと笑い。拳を振り上げ。
『ーーーじゃあ、死ね!』
こちらに向かって拳を振り下ろしてきた。
……ハァ、本当にこの手の手合いはまるでなぞったかのように同じ行動をする。
『心気造偶・捲土重来』
襲ってくる相手に自分の中にある知識から、ひとつの武具の作成過程を想い描き。それを己が精力により形作って行く。
この『魔境』の集落には『記録石』と呼ばれる、全ての者がそれを知ることが出来ると言うわけではないが、自分の内にある力を知ることが出来る碑石がある。
そしてそれは年に一度、選定の儀と呼ばれる『記録石』に触れ。次の集落の『獣の王』となるものが、選ばれたかどうかの確認をする儀式でもある。
その儀式で俺は『獣の王』になる十年前に『刀剣鍛冶師』と言う継承固有スキルを得た。この力は過去の鍛冶師が打ち上げた刀剣の知識を持ち。その知識から擬似的にその刀剣を造り出す力のようだ。擬似的に造り出す故にそれは長くは存在して置けず。どんなに長くても半日が良いところだ。それでも『魔境』に狩りに出る者達からは羨ましがられるが、はっきり言って自分としては愕然と気落ちさせられる気分となったぐらいだ。
何故か? 当たり前じゃないか。それが一時の幻であったとしても、自分の造り出すものより昔の鍛冶師が造り上げた刀剣の方が素晴らしく出来が良いのだ。鍛冶師として今も未熟であると言うのは重々承知しているが、やはり悔しいと言う気持ちが先立ってしまう。その事を翁、ヨーグ爺に『獣の王』となる前に話したことがある。
『ほっほっほっ。焦る気持ちはわかるがのう。しかし御主は運が良いと思った方がよいぞ』
『運が良い? 何故ですか?』
翁は気さくな人だ。自分の集落を治めなくてはいけないのに。こうして他の集落にまで足を伸ばし。そこに居る者達の話を聞いてくれる。のは、ありがたいが。そろそろ年齢も年齢だ。いい加減落ち着いて自分の集落だけに居て貰いたい。翁が『魔境』でモンスターにやられ亡くなった、などと聞けば、全ての集落に住む者達が悲しむことだろう。だが本人にその事を言っても、ちっとも聞いてくれない。おっと話が反れたな。
『御主のその力は過去の鍛冶師達の最高の一振りの知識や技術が引き出せる。それはつまり良きお手本があると言うことじゃ。そしてその力を受け継いだ御主は、その者達の知識や技術を上回る役目がある。のではと儂は思をておる』
その話を聞いたとき、自分は目から鱗が落ちる思いだった。
それ以降自分は過去の鍛冶師の知識技術を自分の中に昇華させ。更に発展したものを作り上げようと邁進していった。しかしその歩みは遅々遅延として、自分の才の無さに嘆く毎日だった。
『焦るでない。焦るでない』
『しかし翁。こうも伸びがないものだと、本当に自分はこの力を受け継ぐに足りるものだったのかと疑問に思ってしまう』
『その歩みが遅かろうと、ふとその歩んできた道を振り返れば、確実に進んでおるもんじゃ』
翁は数ヵ月前に打ったものと今の物を見比べてみろと言う。確かに違いはある。しかし過去の鍛冶師達の物にはまだ足下にも及びもしない。
『やれやれ。真面目な男じゃのう。もっと力を抜いてやればええと言うのに』
こればかりは性分だ。まあ翁の言い分としてはもっと肩の力を抜け。と言う意味なのだろうが。しかしだからと言って、時には鍛冶から離れてみるのも良いものだと言う理由で、人を集落から連れ出し。『魔境』の森を生まれてこの方出て歩いたこともない自分を、他所の集落に連れていくのはどうかと思う。
しかも連れられて行った先は『魔境』にある四つの集落のうち。『欲望の町』と言われているチューチュエだ。
『お、翁…! こんな所に連れて来られても自分では帰ることも』
『安心せい。きちんと帰りも送るからのう。それよりこの集落を見て回ると良い。今の御主に必要なものがあるかもしれんぞ?』
『必要なもの、と言われても…』
自分の住むチンロンも『外』から来る者が多く。色々な知識技術が発展している町でもあるが、この集落は物や人で溢れ返っていて、雑多と喧騒に満ちた場所だと言うのが印象深い。
目まぐるしすぎて、何処をどう見れば良いのか全くわからなかった。
そんな時に通りの道で少しばかり騒ぎが起こる。
だがその騒ぎは喧嘩や争いの類いではなく。祭りの時の歓声にも似た騒ぎだった。
『おや? 御主運が良いぞ。どうやら誰かしらの道中ようじゃな』
『道中?』
一体どう言うことだと聞き返そうとしたところ、人盛りが左右に分かれ。その先に美しく着飾った女性を中心に多くの人を引き連れやって来る一団があった。
『おお、あれはコチョウじゃのう。ガルドや。あれがこのチューチュエの『獣の王』じゃ』
『あの方が『タスキ』さま。…小さいお方だったのですね』
『ほっほっほっ。種族的な特徴ゆえに老成はせず。幼い容姿のままなんじゃ。本人はそれを気にしておるからのう。本人の前で言うでないぞ。あれは存外気性の激しい女じゃ』
自分達も通りの邪魔をしては行けないと、道の端に寄る。するとその一行は自分達の真横で止まり。黒地に蒼や翠と言った蝶のような紋様柄が染められている着物を着た幼き女性。チューチュエの『獣の王』タスキさまがこちらを見つめる。
『迎えに来ましたよ。翁』
鈴が転がるような美しき声を発する。
『何じゃ? いつもは会いに行っても門前払いをすると言うのに、一体どう言う風の吹き回しじゃ?』
『夢を、見ました。幼き二匹の獣が、古き獣の側に寄り添う様にいる姿の夢を…』
『うむ…なるほどのう。連れが居るが良いかのう?』
『ええ。そちらの方も、どうぞご一緒に』
そう言われ翁と共に連れられて行かれた場所は、何とも凄い場所だった。
『お、おきな。ここは…!?』
『ほっほっほっ。このチューチュエが誇る遊戯館。御伽の館じゃよ。ほれ、そんなところで立っておると通行の邪魔になるからのう。建物に入るんじゃ』
自分は鍛冶師故に、建築に関しては素人同然だからなんとも言えないが。それでもわかることくらいはある。目の前の建物は増築に次ぐ増築を重ねたような巨大な建物だ。城。と言うのを聞いたことがあるが、まさに目の前の建物は木造で出来た木の城。と形容して良いものだった。
圧巻されている間に翁達は建物に入っていく。自分も慌ててそれに続くが。建物は外観だけでなく。中身も凄かった。
『……異界、と言うやつなのか……!?』
入った御伽の館と呼ばれる場所は、集落の中に在るものだ。しかしここは。この建物の中は、建物の中に町があるのだ。
自分で何を言っているんだと言いたくなるが、そうとしか言えないものがこの建物の中にはある。
大きく吹き抜けた建物。その建物の各階層に店のようなものが多く見受けられ。ここを利用している者達だろう。それぞれが、思い思いに立ち寄り。その場所を利用していた。
『ほれ、ガルドや。ボケッとしておると置いて行くぞ』
翁の声で慌ててその後を着いて行き。ひとつの小部屋へと皆入ると。
『上に参ります。少し揺れますのでご注意ください』
小部屋の中には居たものが、壁から突き出るようにある棒を上に動かす。すると小部屋が少し振動をすると小部屋がそのまま揺れ動いた。
『な、な…ッ!?』
『落ち着かんか。これは昇降機と言う、階段の代わりに登り降りするためのものじゃ』
不思議な感覚に慌てふためく自分に、翁がそんなことを言う。周りを見ると自分以外では慌てているものは居らず。少し恥ずかしい思いをする。
『こちらの小窓から外を見ることもできますよ』
『…本当だ、部屋が上がっている…!?』
一緒に乗ってた一人にそう言われ、備えてある小窓から外を覗き見る。自分の視界が地から離れていくのが良くわかるものだった。鳥とはこんな気分なのかと呟いたら、翁に『どちらかと言えば飛ぶではなくて、感覚的には跳び跳ねるほうじゃがのう。ほっほっほっ』と、笑っていた。
『翁、これは一体どう言う原理で動いているんだ?』
その翁にこのカラクリはどう言うものか尋ねる。
何しろこれ程のもの、自分が受け継いだ鍛冶師達の知識にはなかったのだから。
『さてのう。儂は細かなことはよくわからんが、井戸に釣瓶を取り付けたことがあったじゃろう?』
『ああ。知識の中にあったからな。あれは皆に喜ばれた』
『それと似たようなものじゃ』
『似たもの……だがあれは人力だ。これだけの人数を持ち上げするとなると、相当な人数が必要になるはずだか?』
そんな人数を随時待機させているのかと勘ぐるが。
『こちらの昇降機を上げ下げしているのは人ではなくて水の力なんですよ』
『水?』
そんな自分の疑問に答えたのは、タスキさまと一緒に着いてきている。人に近い姿でその肌の所々に鱗を持つ。角も翼もまだ小さい竜人族の幼き娘だった。
『飲み水用に引かれている川の水を滝の様に落差を出して、歯車を回しているんです。その回った歯車の力が、この御伽の館に行き渡るようになっているんです』
『そ、そうなのか…?』
自分も過去の鍛冶師達の知識のお陰でそれなりの知識を持っている。その上でこの幼子の話からどうやってこの小部屋が動いているかはわかったが、その構造仕組みが想像できないでいた。
『ロンニャン。身に付けた知識を誰かに披露したいのはわかりますが、私達は芸を魅せるもの。披露するなら芸になさい』
『……はい。コチョウさま』
『お連れのお方にも申し訳ありませんでした。この子は知識欲はあるのですが、まだ芸の者としては未熟でして、何卒ご容赦を』
『いえ! とんでもない! さすが『獣の王』のお付きとなる子だと、感心していたところです』
『獣の王』であるタスキさまに頭を下げられる。そんな行動をされるとこちらの方が恐縮してしまう。
タスキさまはロンニャンと呼んでいた少女を再度嗜めている。その姿に師弟と言うよりは、どちらかと言えば姉妹、のように見えた。
タスキさまは妖精族。方や少女は竜人族。種族が違っても何かしらの事情があり。家族となるものは多いのは確かだ。…無粋な考えだな。今目に見えるものが全てだ。
師弟であっても家族のように接する絆もある。そう考え。この上に上がっていく昇降機の窓より外を眺めていた。
そして随分と高く上がると昇降機が止まった。
『目的地の階であります。どうぞ、お足元にお気をつけてお降りください』
昇降機を降りると目の前には蝶の紋様が描かれた扉があった。
『珍しいのう。自分の部屋へいきなり通すとは』
『ここなら、余人を交えず話すことも出来ますから。さあ、どうぞお部屋へ』
翁とタスキさまとのその様な会話が聞こえてくる。
『普通は段階を経てこの部屋へ来るんです。この部屋は中の音が漏れにくい構造をしていますから、その、気に入ったお客様しかお通ししないきまりなんです』
『? そうなのか?』
何でそんなことをと思うが、集落によってはそんな決まり事があるのだろうと納得をする。
翁とタスキさまが部屋に入り。自分もそれに続くが、昇降機で着いてきた女性達はそのまま昇降機に戻っていく。一緒に来ないのかと疑問に感じているとロンニャンがまた教えてくれる。
『ここはコチョウさまのお部屋です。私達のようなお側つけは、コチョウさまからのお呼びが掛からない限りは、お部屋に入れない決まりなのです。ですからここから先はお客様達とコチョウさまの三人だけになります』
ロンニャンがごゆるりとお過ごしくださいと頭を下げ。昇降機へと入っていく。扉が閉められ昇降機が下がっていくと、そこにはぽかりと空間が出来上がっていた。
『……『獣の王』二人を、自分が相手にするのか……?』
気さくな翁はまだ慣れがあるから良いが、問題は今日初めてあったタスキさまだ。本来お二人とも天上人と変わらない扱いを受けてもいい相手なのだ。そんな人物の側に凡人の自分一人だけ、はっきり言って胃が痛くなる思いだ。
『……帰ってはダメだろうか……』
考えただけで胃がキリキリと痛み出したような気がする。
『何をしておるんじゃガルド。早く入ってこんか』
『…ああ、いや、翁。自分はここを見て回っては駄目だろうか?』
苦しい言い訳だが、この場から退散できるのであればと口にした。
『なんじゃ遠慮せずに入れば、ああなるほどのう。ここには色々なものがあるからのう。刺激を受けたか。良いぞ。コチョウは儂が相手をしておくからのう。御主は好きなだけこの中を見て回れば良かろう。なに道に迷ったら、そこらを歩いている女中に声を掛け。ここに案内をして貰えば良いじゃろう』
翁に許可を貰い。この場を退散させて貰った。
翁に頼み昇降機を再び呼ぶと、その中にはロンニャンがいた。
『お客様、どうされました?』
『おお娘さんや、ちょうど良かった。こやつをこの中の案内して欲しいんじゃが。誰か手隙の者が居たら申し訳ないんじゃが、案内を頼めんかのう?』
『はいわかりました。それでしたら私がご案内いたします』
『すまんのう。ガルド。この娘さんにきちんと着いてくんじゃぞ。迷子にならんようにな』
『自分は子供ではないぞ翁…』
『儂にとってみれば皆子供のようなもんじゃ。儂はここに居るからのう。気が済んだら戻ってくるんじゃぞ』
翁はそう言って部屋の中へと入っていく。その場に残った自分とロンニャン。
『個人のお部屋は無理ですが、大概の場所なら案内ができますよ。どの様な場所が良いですか?』
『…実を言うとあの場所に居る勇気が持てずに、何か適当な理由をつけて出てきただけなのだ。だからどんな場所と言われても、そもそもここに来たこと自体初めてだ。もし面倒なら適当に時間を潰しているから、自分の仕事をしていて構わないぞ?』
自分がそう言うとロンニャンは驚いた顔をしてから可笑しそうに笑い。
『私もお客様のお相手をしてれば、他の仕事をしなくて済むのでお相子です』
会った当初から思っていたが、この娘は中々強かな娘のようだ。
こうした手合いの者はあまり相性は良くないのだが。何処と無くあの飄々とした翁と似た雰囲気を持つ。一人で歩き回るよりは案内がいた方が良いのは当然。他の者に頼むよりはこの娘に頼む方が気疲れはしないで済むかもしれない。ならばと。
『そうか。ならお前の好きなところで構わないから、案内を頼めるか?』
『はい』
年相応の笑顔を見せるロンニャン。
自分とロンニャンの長い付き合いはここから始まったのは確かだった。




