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No.31




 No.31




 「ーーーっは! 一体何が!?」


 シンは気が付くと石畳の部屋。『記録石(モノリス)』がある部屋に居た。


 「ここは『魔境』へ入る前のーーー百地さん!」

 『すまねえ相棒。俺様もわからねぇ。俺様がわかるのは相棒が見たものだけだ。見てねぇもんに関しては知りようもねぇんだ』

 「いけません! 皆さんが! 誰か! 誰か居ませんか!」


 部屋には鉄格子があり。渡界者の犯罪者が『魔境』から戻ってきた用に用意されている。

 シンはその鉄格子を掴み。夜の静寂の監視館に大きな声を出し。必死に呼び掛ける。

 シンに。彼らに一体何があったのか。

 それはハルシオンの案内で『魔境』にある四つの町。そのひとつチンロンの集落(コロニー)に向かう途中。夜の『魔境』を歩くのは困難と言うことで、夜営するため普段から使われている洞窟に案内され時に遡る。


 「入り口の狭さに比べで本当に中は広いな」

 「それに光が差し込んでいないのに明かりが、ああ術装具ですか」

 「モンスターに壊されると言っていたが、なるほど。新たに作るのは難しくとも、在るものを利用する分には問題ないのか」

 「モンスターが来んで休めるんなら、なんでもええわ」

 「確かにその通りですね。おや? こちらは?」


 それは何と形容したら良いのだろうか。軟体生物のような奇妙にうねりがある体。本体部分から触手のような手が無数に広がり。その無数の手に大小様々な目が至るところにあって。見ているだけで正気度(SAN)値がガリガリと削られていく姿をした。邪神像と言っても言いような像が置かれてあった。


 「なんやそれ!? 気持ち悪いなぁ。外へ捨てへんか」

 「何方かの忘れ物かもしれません。気分が悪いかもしれませんが、捨てずに置いておきましょう」


 こうして隠しておけば問題ありませんと。シンは物陰へ奇妙な像を隠し。出る時に元に戻しておけば良いと言う。他の者達は隠してあっても気味が悪いと言う表情をしていた。

 洞窟の中は少しでも過ごしやすく。また快適に過ごせるように幾らか工夫がされているようであった。

 シンは他の者達に見えないように自分も壁になりますからと、像を隠した場所に座る。他の者達も渋々と言う感じがあったが、腰を下ろし。休憩を取るのである。


 「火を起こして大丈夫のか? 洞窟内で死ぬのはごめんだぞ」

 「ウキキ。空気の流れが常に流れてあるから問題ないぜ。ほれそこと。そこ。それからで入り口」

 「また保存食で申し訳ありませんが、こちらで夕食と致しましょう」

 「保存食でもありがたいですよ」

 「ここへ来るときに食べられそうなものを採っておいた」

 「ふほぉ!? これは野苺やないかい!? わいこれだけでも十分や!」

 「出入り口は外からはわからないよう、隠しておいた。…まあこれだけ煙やら匂いやらを外に出せば、気づくモンスターもいかもしれないが」


 和気あいあいとは往かなくとも、それぞれが今出来ることをやり持ち寄っていた。それは犯罪者として『魔境』に押し込まれた集団とは思えない。一般人のような雰囲気があった。

 シンが取り出した保存食を食べ。一息着いたところで、ハルシオンが皆の前でこう切り出したのだ。


 「おたくらさ。外で悪さしてきた奴らじゃないだろう。匂いがそれを持つ奴らとはあんま似てないんだよな」


 ハルシオンの言葉にシン以外の者がピクリと体を震わす。それはまるで図星を突かれたような動きを。

 そして追い討ちを掛けるようにシンからも同じ言葉が出た。


 「私もそれは感じていました。皆さんからは犯罪を犯したものが持つ。独特の雰囲気を持ち合わせてません。初めはそうした雰囲気を隠しているのかと思いましたが、そう言ったものもありませんでした。明らかに一般の方が持つモノと差して代わりがありません」


 しかしある一人。ツークーの方を見て微妙な表情を見せる。

 それは犯罪者なのか一般人なのか。どちらともつかない、と言った表情であった。

 それを察したのか。ツークーが自分の正体を語る。


 「……俺は暗殺者だ」


 そう答えるツークーに周りが一瞬ざわめく。

 だがツークーの言葉には続きがあった。


 「欠陥品だがな」

 「欠陥品?」


 シンは気になるのか。ツークーにそう聞き返す。

 ツークーは自分の中に何かがあるのか。暫し考える素振りをしてから言葉にした。


 「俺に親はない。物心つく前から、とある暗殺組織で暗殺者にするため修練を積まされていた。人を殺す技術。人を殺すための方法。まあ、色々だ。そんな修練を積んでいくと、同じように修練を積んでいた奴等はどんどんと減っていく。一人。二人。三人と……」


 ただあったことを語るツークー。その言葉の中にはどれ程の物があるのだろうと考えさせられる言葉であった。

 そしてツークーの言葉に誰一人として口を挟むことなく。その言葉を聞き入っていた。


 「俺と同じ時期に育った奴は俺を含め、たった四人しか残らなかった。そして組織の奴等はその残った四人に殺し合いを命じ。生き残ったものが、組織でただ一度っきりの暗殺者として使われる」


 そう語る以上は、ツークーがその中で生き残ったと言うのは理解できた。


 「俺は生き残り。組織に命じられるまま、ある一人の男を殺した。そのあとは自分の命を断つ。それで俺は終わるはずだった」


 ツークーは何処か遠い目をする。それは何かを求める様な瞳で。


 「死なない俺に不審に思った組織は俺を殺しに来たが、それを全て返り討ちにした。と言っても俺も重症を負い。放っておけば死ぬと言う状態だっただがな」


 ここに居る以上はそうはならなかった。


 「俺は殺した男の家族に保護され。治療させられた。相手は俺の素性など聞いてくることはなかった。ただ行く当てがないならこの家に居れば良いと。そう言われた。俺は…」


 そこでの生活を思い出す様に瞳を閉じ。そして開く。


 「そこで俺は庭師として一年ほど働いたいた。感情と言うものを持たない俺から言わせて貰っても。奇妙な生活を続けていた。普通の生活と言うものを知らない俺に良くものを教えてくれた」


 確かにツークーは表情が乏しいものがある。

 しかし今の部分だけは、その表情が変わらなくとも和らいだ雰囲気を持っていた。


 「一年程と仰られましたが、その家から追い出されたとかの理由でしょうか?」


 シンの質問にツークーは首を振る。


 「いいや。きっとあの家の者達は俺のしたことを知ったも受け入れるだろう。それだけおかしな者達だった。そして俺は彼らを守りたいと思い始めていたようだ。俺はあの家族を害そうとするモノを自分の生きてきた全てを使って、そいつらを全て殺した」


 和らいでいたツークーの雰囲気が凍りつくようになくなる。


 「全てが終わったとき、俺はあの場所へ戻ることはできないと。赤く染まった拳を見てそう感じた。俺は騎士隊舎に行き。自分のしたことを話し。あとはここに居る。それだけだ」


 それ故に自分は暗殺者としてもただの人間としても何処か欠けている。欠陥品だとツークーは語った。

 シンはそれは"人"になろうとしたものが、"人"になることを諦めたものの言葉に聞こえた。

 そこに気遣いや慰めの言葉を投げ掛けることは出来なかった。

 他の者達もツークーにたいして何かを言えるものはーーー


 「そうか。お前はそうしてここへ来たのか」


 完全にお通夜ムードとなった場に、キヤーナが空気読まずに発言した。


 「俺はお前ほど壮絶さはないが、一般人ではないと言う意味では同じかもな」


 そしてなんか語りだした。


 「ある片田舎で俺は樵の仕事をしていた。生活は苦しくはあったが、好いた女と添い遂げ。信頼できる友がいて。それなりに満足できる暮らしをしていた」


 聞きようによってはこのリア充がと言いたくなる話であったが、誰一人としてそんな空気を読まない発言はせず。黙って聞き入っていた。


 「子供は居なかったが、妻とは良好な関係を築き日々を送っていた。と、あの日までの俺は思っていた」


 キヤーナの言葉が何処までも冷たくなる。


 「俺は樵としての仕事が早く終わって、普段あまり構ってやれない妻を労ってやらうと。少しずつ貯めていた金で装飾品を買って帰った。きっとこれを見たら喜ぶだろうと思ってな。だがーーー」


 冷えきったキヤーナの言葉がまるで噴火した火山のように憤怒にまみれ。殺意と怨嗟の言葉を吐き出す。


 「あの女は俺がいない間他所の男を連れ込み情緒に及んでいた! しかもその相手は俺が友と思っていた男だ! 俺はどう言うことか問いただした。ああ魔が差しただけだろうと。きっと俺が妻を構ってやれなかったことから来たものだろうと」


 キヤーナはその時のことを思いだし。腹立たしさに地面を殴る。


 「だがあの女から出た言葉まったく違ったものだった!」

 「それは?」


 止せば良いのにシンが尋ねる。


 「あははは。滑稽な話さ。俺と一緒になったのはただ単に自分達にとって都合の良い働きたが欲しかっただけだとよ。惚れた女の体が抱けたんだ。十分に満足だろうと。わかったら今まで通りに自分達の為に汗水垂らした働けとな。それだけ言うとまるで俺など目に入っていないように二人は再び情緒に及んだよ。その瞬間俺の中で何かが壊れた。気がついた時には挽き肉になった二人分の体と。真っ赤に染め上がった部屋と俺の体だった」


 キヤーナの燻りは収まりを見せるも。その内には、いまだに溶岩のようにドロドロとした感情が渦巻いているのが感じ取れた。


 「……そのあとはなんだったかな。騎士達に捕まって。尋問された気がする」


 そしてここに居ると。

 キヤーナが特に嘘や裏切りを気にするのはここにあるのだろうと。少しわかったシンである。


 「なんや。信用していた者に騙されていた者の話しかいな。アホくさ。一リーエンにもならん話やな」

 「なんだとッ!?」


 話を聞き終えたプセマが、まるでキヤーナを煽るようにする。それを聞いたキヤーナが激昂するも。だがプセマの様子がおかしいことに気がつき。その感情がなりを潜める。


 「ホンマ笑い話にもならん話やで。商売人の中には嘘や誤魔化しは日常茶飯事や。騙された方が悪い。……そう、騙された方が悪いんや」


 プセマの瞳から涙が溢れていた。


 「わいの幼い頃はそらぁ貧乏やった。毎日食うもんにも困って。野山駆けずり回ってなんとか食材集める。そんなことをしながらどうにか生きとった」


 プセマは自分の所にある野莓を摘まみ。まるで宝石のように扱う。


 「こうしたもんが食えたときは、ホンマ幸せを感じるほど飢えた毎日やったわ。それからも色々と苦労はあったけど。当代はんと出会って。商売のいろはを教えてもらい。どうにか一人立ち出来るまで育ててもろうたんや」


 感謝してもし足りないと。


 「そっから色々な商売人に揉まれなが、店は大きくなり。そこそこの商売人として名を馳せた」


 金に少々汚い商売人に成りはしたと、自嘲気味笑う。


 「そんなある日や。一人立ちしたわいの所に当代はんが来なはった。最初は何の用やろうと思った。もしかして商売を上手くやってるか親心的なもんで来たんかなぁ思ってたんや。

 そして当代はんがわいの来たのは、今個人である商売を始めてると。今のお前の力なら一緒にやってもええっと誘いに来てくれはったんや。わいは喜んだな。自意識過剰な部分はあったのはあった。当代はんが自分を買ってくれてるのはわかっとった。育てて貰った恩もある。話を聞く限り損のない話しやった」

 「だからお受けしたと。失礼ですが。一体どの様なお話しだったので?」


 プセマは今さらな話だと。

 しかしそんな今さらな話を聞きたいと言うようなシンの瞳に。プセマは口を開く。


 「なんも変わったことはない。人の住まなくなった家や土地を管理する話や。そしてまた住みたい言う者が居れば貸すか売るかをする。そう言った商売や」


 不動産の様な商売を始めたと言うことなのだろうと理解をする。

 話の途中ぶった切るようで申し訳ないが、敢えてこの世界の土地関係を説明させて貰うと。町や村に家や農地などを新たに開拓する場合。その土地の領主に報告をしなければ往けない義務がある。

 しかしプセマがやろうとしていた商売は元々在るものを管理し。商売をする。中古販売の様なものだ。それ故領主への報告は少なくすみ。また家や土地の売買のみで済んでしまうこともあるのだ。

 やろうと思えば誰でも出来るが、大金が必要な上に管理維持費等にも相当掛かるため。なかなか手を出しにくい商売でもあった。


 「当代はんは使わん家や土地を買ってくるから管理の方はわいがする。そう話が決まったんや。わいは当代はんの方が負担大きくなるけどええん? と聞いたんや。だけど当代はんは全部出すよりは楽だと言って笑っておってな。相変わらず懐でかいお人やと。引き受け。そして当代はんが持ってくる土地や家を管理したんや」


 なかなか軌道に乗りにくい商売だったが、それなりに需要はあったと苦労話を語る。


 「本業の片手間にできる商売や、時々家は痛んでないか。土地は荒れ果ててないかと使いの者を行かせて様子を見とった。なんもわいに落ち度はなかった。なかったはずやったんや……」


 プセマの言葉は暗く沈み。嗚咽を漏らすようにあったことを語る。


 「いきなりわいの店に騎士連中が押し入り。ご禁制の品の密輸所持をしてると言われてな。何を言ってるのかはじめは分からんかった。なんかの間違いやないのかと。わいは多少金に汚くあってもまっとうな商売をしてきた商人やと自負しとる。せやけど……」


 プセマが当代と共に事業始めた中古販売。その家のひとつに。法で規制されている品物が置かれていることが発覚した。

 その品物を仕入れていた者に誰に言われ。この様なことをしていたのか尋問をしたところ。この家を管理しているものに言われたと白状したと言う。

 そこからこの家の管理をしているものがプセマだと言うことがわかり。またプセマが指示していたと言う証拠が見つかり。プセマは逮捕となった。


 「そんなわけあるかいな! わいは! わいはそないなこと指示した覚えはない! だけど……あれはわいの文字やった。わいは書いた覚えはないねん!」


 プセマは誰かに嵌められたと悟った。

 そして自分を陥れ。得する人物は誰か考えるも商売敵は多く。誰もが該当するものであった。


 「本当にいらっしゃらないのですか?」


 しかしシンは心当たりがあるのではと言う雰囲気を持っていたプセマに、そう尋ねた。

 プセマはいまだに信じられないと言うように首を振っていたが。ある一人をあげる。それは。


 「……当代はんや。新たに商売始めるときに。当代はんと約束したことがある。どちらかが店から居なくなったときに、残った方がもう片方の店を譲り受けると。はじめはなに言うてんねんと思うた。だげどその時言うたんや。自分はもういい歳だ。自分の店には、あとを継げるだけの商才を持つものはおらん。せやけどお前なら。自分の店を渡しても良いと。これは半分遺言みたいなもんやと。なに気弱なこと言うてんねんと。当代はんならまだまだ現役でやっていけると言うたんや」


 その時は年老いて気弱になっただけだろうと。励ましたそうだが。後日その当代は証文を持ってプセマのところにやって来た。先日の約束を形にするために。

 プセマも当代が証文を持って来たことで本気であると。自分に全てを譲り渡しても良いと言う思いを受け取り。その証文に己の名前を書いた。

 そして事件が起き。プセマが持つ店は全て。その当代の手に渡ったと聞き及んだそうだ。


 「信じられへんのや……あの人がこないなことするはずないと。でも頭ではあの人に騙されたと。冷静に答えが出てんねん。せやけど心では、心ん中ではまだあの人のことを信じとるわいがおんねん。本当の親のように育ててくれたお人なんや。やさしいお人やねん……だけど……せやけど……」


 そこから先は言葉にならなかった。

 ただ涙を流し。自分の中の葛藤に思い悩むように首を振り続けていた。

 信じていた者の裏切り。確かにキヤーナと同じであるが、また違った裏切りであるとそう感じた。

 そこに居た者達は沈痛な面持ちで。その場に重い空気を醸し出していた。


 「元上司への疑いですね。確かにそんな事があれば疑いたくなくとも疑ってしまうと思います」


 おいまだ続けるのか? もう良いんじゃねえ? 場の雰囲気が鉛のように重いんてすけど。

 しかしナレーション(こちら)の声など聞こえようもない。プセマの話を聞き。エスピオンが自分にも覚えがあると言うように語りだした。


 「『魔境』(ここ)に入れられた以上、話しても問題ないでしょう。僕は国の秘密諜報員をしていました」


 少し礼儀正しい。何処にでも居そうな普通の人だと思っていたエスピオンが、実は秘密諜報員(スパイ)だと知ると、周りが少しざわついた。

 それは国家を裏から守る人間だからだ。そんな人間がこの重犯罪者の巣窟である『魔境』へ送られると言うことが信じられなかった。


 「僕は普通の一般庶民の子として生まれました。ツークーさんやキヤーナさん。プセマさんには申し訳ない言葉となってしまいますが、何不自由なくごく普通に育ちました。ただひとつ。普通では無かったことは、父が秘密諜報員をしていたと言うことです。この事は家族は勿論僕自身も知りませんでした。父は普通の庶民として暮らしていましたから。ただ時々数日ほど家を空けると言うことがあるくらいで。何ら変わらない。何処にでもいる父でした」


 "でした"。と、過去形で語る以上は、エスピオンの父親は既に亡くなっていると言うことなのだろう。

 そしてその通りにエスピオンの父親はモンスターに襲われ死亡したと。


 「本当は違うんですけどね。でも当時はそう聞かされて悲しみました。そして家族みんなで父の死に悼み続けることなく。前を向いて生きていきました。それから父が亡くなって数年。僕が十六の時に、ある一通の手紙が僕の下に届きました。父からの手紙です。内容は簡素に「父の死の真実が知りたいならば指定された場所へ来い」と。文章の感じはともかく。間違いなく父の手書きのものでした」


 どう言うことだと思いながらも。エスピオンは手紙に書かれた指定場所へ行った。

 そしてそこで父親の同僚と名乗る人物と出会い。父親の死の真相を知る。


 「聞かされた父の話しと。僕が知る父と結び付かなかったんです。混乱しました。でも一度だけ父が、悪漢に対してその力を振るったことを、僕は思い出しました。その事を思い出したら自然と受け入れられたんです。父が影からみんな()を守る秘密諜報員だったと言うことに」


 その後エスピオンは、唐突な誘いではあったが。その同僚と名乗る人物と共に諜報員養成所の様な場所へ行き。そこで諜報員としての技術と知識を身につける事となる。


 「もともとそう言う種の人間になるよう育てたらた訳ではありませんでしたから。秘密諜報員としての訓練は過酷なものでした」


 それでもエスピオンは父親が命をとしてまで行っていた秘密諜報員がどの様なものか知りたがった。

 そして幾人もの者達が脱落するな。エスピオンは最後まで残り。国の秘密諜報員の一員となるのである。


 「華がある職業ではありません。国が容認しているだけで、裏家業を営む者達と同じ事をしてきました」


 出来るだけ軽く話しているのだろう。しかしエスピオンから語られる話しはその軽い口調とは裏腹に。重いものが有ることが感じられた。

 それからエスピオンは表の生活をしながら秘密諜報員として裏の仕事も行っていく人生となる。

 その話の内容は語られることはなかったが、想像を越えることがあったのだろうと。話し方から察せられた。

 そしてエスピオンは表と裏の生活を数年経ったある日。エスピオに裏の仕事が言い渡される。


 「それはいつも通りに簡潔なものでした。どこどこの場所が怪しいから調べてくること、と。まあそんなような指令が下されました。ええ渡された指令は正規のものです。誰かが細工することも出来ません。不信に感じることは何ひとつありませんでした。その仕事を終える、その時までは…」


 その仕事ではエスピオン以外にも複数人の秘密諜報員達が連携してい事に当たっていた。それほど重大案件なのだろうと。エスピオン達は心を引き締め事にあたった。

 そんなエスピオン達の心意気を無視するかのように諜報活動は滞りなく進み。国が調べろと指定したものには何の怪しい観点も見受けられなかった。

 そう。その調査で秘密諜報員達が全員"白"と判断し。撤収するその時までは。

 そこにエスピオン達が居る建物内に突如として戦略級の隔離結界が施される。


 「私達が調べていた場所は廃墟とは言え。一般に使われていた施設でした。そこにモンスターの氾濫から町を守る戦略級の結界です。あり得ません」


 廃墟が実は核シェルター並みの防御力持つ建物に早変わりした。

 これは普通の廃墟ではないと判断し。直ぐ様撤退準備を始めるも。


 「外に出ることができない仕組みになっていました。ですが仲間の一人空間系の術式を扱える者が居たので、その人の力を借り。外に出ようとしたんです。ですが」


 彼らが居る建物内にモンスターと思わし気生物が、何処からともなく現れた。


 「モンスター……。あれをモンスターと形容して良いのかはわかりませんが。僕達を襲いに来た敵であることには変わりがありませんでした」


 秘密諜報員達は空間術式を扱える者を守りながら。その襲ってくる異形のモノを相手をする。


 「そいつらは倒すことは出来るんです。しかしそのモンスターは倒したあと体を分かち。新たなモンスターとして再び起き上がって襲ってくるんです」


 倒せば増え襲ってくる。しかし倒さなければ自分達の命が危うい。状況が読めない中、彼らは必死になってその異形のモンスターから逃れようとしていた。

 だが徐々に植えていくモンスターに次第に成す術がなくなっていき。一人。二人と秘密諜報員達が殺させていく。


 「はっきり言って絶望的でした。どう戦えば良いのかわからない状況でしたから」

 「ですが貴方は助かった。それは空間の術式を扱える人が何とかしたからと言うことなんですね?」

 「はい。かの、いえ。その人は何とか術式を構築し。結界の外と空間を繋いでくれたんです。ですが……」


 空間を維持するためにその場に残る必要があったこと。また脱出の際。異形のモンスターが結界の外に出ないように押さえる者も必要であった。

 その為、結界の外に出られるのは限られたものになる。


 「僕は諜報活動はともかく。戦闘では役に立たない人間でした。僕が結界の外に出ることが即決で決まりました」

 「躊躇とかしなかったのか? 仲間だろう?」


 キヤーナのその言葉にエスピオンは微妙な表情をするだけだった。

 それは苦しいような。辛いような。悔しいようなそんな表情であった。

 エスピオンは彼らの犠牲を自分が無駄にすることは出来ないと。後ろ髪引かれる思いであったが、それを振り切り一人。結界の外へと出た。


 「僕が出てすぐに術式を止め。空間は閉じられました。そして直ぐ様この事を知らせに、僕の直属の上司に連絡を着けようとしたんです」


 その廃墟から離れようとした時、エスピオンの目には信じられないものを見た。


 「建物内にその上司が居たんです」


 その上司以外にも誰かしらが居たようだが。暗がりと言うこともあり。それが誰かまでは判別できなかった。

 そしてエスピオンはここに上司が居ることに不信に思う。

 何故居るのか? 居るなら何故助けに来ないのか?

 秘密諜報員として活躍してきたエスピオンにはその答えが直ぐに導き出された。


 「僕らは上司によって嵌められた」


 何故その様なことをしたのか? それはわからない。わからないが。


 「僕が助かったことを知られるのは不味いと思いました。僕は直ぐに闇に隠れ。今回の経緯を調べるために動きました」


 秘密諜報員として活躍していたエスピオン。その能力をフルに生かして。何故上司があの様なことをしたのかを調べる。


 「上司が何かの実験をしていた。と言う情報まで漕ぎ着けたのですが。調べている途中で他の諜報員達に捕まり。何の取り調べもなく。直ぐ様ここへ」


 『魔境』へ送られたことは死刑と変わらないが。直接死体を確認できる方法ではなく。『魔境』(ここ)へと言うのが疑問に感じてはいた。


 「なぜあのような行為を行ったのか、それはもはや聞きようがありませんが……」


 残念だと言うニュアンスがある。しかしエスピオンが言う通りに真実を知るすべは最早無いのである。

 シンはエスピオンの話を最後まで聞き。何かを納得するように頷く。

 それはエスピオンにも不思議な感覚があったが故にである。

 エスピオンは確かに一般人の持つ雰囲気があった。だが同時に人を観察する目があった。

 人の動き。仕草。行動を常に気にして見る。しかしそれを相手に悟られないようにする技術的なものがあった。

 人間観察が趣味でそれによって培われたもの、と言われればそれまで故に。敢えてエスピオンは指摘しなかったのである。

 皆がエスピオンの話を聞き終えると、それぞれ思い考えさせられる話でもあった。

 エスピオンは皆が重く取らないように出来るだけ事務的に。そして客観的に物事を話していた。

 それ故に聞く者にとっては何処か嘘臭く。作り話にも聞こえ。また聞く者にとっては、それが逆に信憑性を得て。真実であると思わせるものでもあった。


 「ウキキ。なるほど兄さんの目は何処と無く俺っちと似てるなぁと思ったけど。そう言うことか」

 「やはりご同輩でしたか?」

 「ウキキッ。そいつは内緒だぜ。ただ俺っちは()()が趣味ってだけさ」


 ハルシオンはイケメンスマイルでエスピオンの質問を躱す。

 しかしエスピオンはそれが答えであるかのように微笑みを返していた。

 ハァ、ようやくこの重たい話も終わーーー


 「あとは姉ちゃんだけだな」


 終わりだと思ったところをハルシオンがヴェレーノに問い掛ける。まだ続けるのか、え!? 姉ちゃん!? 男だろう!?


 「ウキキッ! 姉ちゃんが何で男のふりをして要るかは知らないが。俺っちの()を見る目は誤魔化せないぜ」


 キラリッと歯を光らせ。ヴェレーノに微笑みを向ける。

 そんなヴェレーノはため息を吐き。


 「この格好の方が何かと楽だからしていただけよ。男っぽく話していたのは、男性に見られていると思っていたから。そのまま勘違いをさせていただけよ」


 ハルシオンのイケメン力をモノともせず。別に隠していたつもりはないと、いままでとは違い。女性らしいしゃべり方をして言う。

 うおっ!? マジで女性だ。中性的な兄ちゃんだなと思っていたけど。実はお姉ちゃんだったのか。


 「別にそう大した話じゃないわ。私は薬師。そして私が作った薬で人が殺された。それだけよ」

 「……俺っちの渾身の笑顔がまるで効かない……」


 最後の重たい話を聞くんだから。お前はもう黙ってろ。


 「お聞かせ願っても宜しいですか?」

 「全員が話して。私がここで話さない、と言うのは興ざめでしょう? まあ面白味もない話よ。そうね。私はとある村で薬師をしていた。村の周辺で取れる薬の材料を自分で採りながらね」


 薬師としてだけでなく。たまに渡界者達のようにモンスターと戦い。薬の材料を得て暮らしていたと。

 薬師としての腕はヴェレーノが住んでいた村だけでなく。近隣の村からも頼まれて作っていたりもした。


 「薬師。褐色の肌。そして少し尖った耳。もしやヴェレーノさんは、闇霊人族(ヴォイド)の方ではないですか?」


 話の途中エスピオンがヴェレーノの種族を問うた。

 エスピオンの質問にヴェレーノは一瞬嫌そうな顔をしたが、それもすぐに収まり。そうであると答える。


 「話を更に止めるようで申し訳ありません。闇霊人族(ヴォイド)とは? それとその一族に何かあるのですか?」


 すかさずシンが質問をする。

 ヴェレーノが闇霊人族(ヴォイド)一族だと知ると周りの者達の反応が少し変わったのだ。

 シンはそれに気がつき。無知ゆえに教えて欲しいと願った。おし。誰も説明せんだろう。そこのエロザル。お前が説明しろ。


 「俺っち? 俺っちは風の(あに)さんとは違うんだぜ。ウキキ」


 お前の持つ情報を公開すれば良いだろう。


 「ウキキ。それならいっか。兄ちゃんは渡界者だから知らないかもしれないけど。闇霊人族(ヴォイド)一族はちょっと有名なのさ。この世界じゃ」

 「有名、ですか?」

 「そう」


 ハルシオンは一応ヴェレーノの方を向き。話しても良いかと言う合図を送る。

 ヴェレーノは好きにすればと言うような態度をとると、ハルシオンは自分の持つ情報をシンに教えた。


 「闇霊人族(ヴォイド)一族。一言で表すと邪心崇拝者、おっと。そうおっかない顔をしないでくれよ。あくまでも呼び名だぜ。姉ちゃんまでがそうとは言ってないからな。ウキキ」


 闇霊人族(ヴォイド)の事を語ると鋭い視線をハルシオンへと送る。

 ハルシオンは自分が言ってるわけではない。世間一般の認識として言っているだけだと言うと。

 ヴェレーノはそれで納得したわけではないのだろうが目を閉じ。今度はハルシオンの説明をじっと聞くことにした。


 「邪神崇拝者ですか……」

 「そっ。彼らが本当にそれをしていたかどうかはわからない。あくまでそう言う噂が流れていた話さ。ウキキ」

 「ですが噂が流れると言うことは、それ相応の事をしていたからでは?」


 火のない所に煙は立たぬ。

 全く根拠がないのにそうした噂は立たないだろうとシンは指摘する。


 「まあこれは俺っちの知り合いから聞いた話だけど。闇霊人族(ヴォイド)一族は薬術を用いた術式を行う一族って話だ」

 「薬術ですか」

 「詳しい使い方は俺っちも知らないけど。薬を使って人の精神を高揚させたり。肉体の力を上げたり出来るらしい。これは俺っちの知り合いに薬師が要るから、それっぽいことは出来るって聞いたことがある」

 「それぐらいでしたら。私の方でもそうした技術はありますから。ですが邪神崇拝とまでには往かないと思いますが?」

 「まあ、な。これもどっから出た噂なのかはわからない。闇霊人族(ヴォイド)の一族は妙な薬を使い。怪しげな儀式をして術式を行使する一団。と言う認識が広まってんだ」

 「それでしたら」


 ハルシオンの説明途中。エスピオンが追加情報を提示した。


 「大変革後にベルスターと名乗る男がいました」


 大変革により。世界が変化し。人々の暮らしが立ち行かなくなり。人々が飢えに苦しみ。隣人を敵と見なし。親が子を殺し。子が親を殺し。今日を生きる。そんな心が壊れかけていた時代があった。

 そんな時代にベルスターは"死"こそが、自分達の安らかなる場所になると訴えた。

 勿論そんな教えは何処にもない。これはそんな時代に。ベルスターが人々の心を救うにはどうしたら良いかと、必死に考え出したものである。

 ベルスターの言葉に死ぬことで楽になるのならと、そう望むものも中にはいた。だが"死"そのものに恐怖するものも中にはいた。

 ベルスターはそんな者のために幸福感に満たされながら。痛みも苦しみもなく。安らかなる死を与える薬術を用いた。

 その効果は絶大であった。

 生きることこそが地獄だと。苦しんでいた者が、幸福に満ちた表情をし。眠るように安らかなる死を迎えたのだ。

 その後は多くの者は"安らかなる死"を求め。ベルスターの下に集まった。

 無論国の者達はこの行為を止めるべく動いた。

 必死に生きようとしていた時代。ここで民を失うことは、自分達の時代が終わることを意味していたからだ。

 だが彼らは最早「死こそが幸福なり」と。

 彼らの行為を止める処か加速させてしまったのだ。

 ベルスターの下に集まっていた民衆は国に止められるくらいならと。薬術による死ではなく。自ら命を断って死んでしまったのだ。

 その中にはベルスター本人も含まれていたと言われている。


 「それで終局を見せたこの話ですが。実はベルスター本人を神として崇める集団が少なからず生き残っていました」

 「それが邪神崇拝者達ですか? それでは少し弱い気がしますが?」

 「ええ。崇めているだけ。であれば一宗教団体として存在していた。と、済む話です」

 「そうではないと」


 邪神崇拝団体。別名ベルスター教は、ベルスターが生きていた時代。苦しみ喘ぐ民衆の心を救うための苦肉の策として用いた手段だったが。今では生きている者達を死へと迎えさせることこそが自分達の使命と。狂人なカルト集団へと変貌していったのである。

 薬を用いた暗殺。闇に生きるもの。そしてベルスターが闇霊人族(ヴォイド)一族であった事など様々な要因により。闇霊人族(ヴォイド)一族は、この世界の現地人からベルスター教の人間として思われてしまっているのである。


 「他にも謂れは在るのでしょうが。闇霊人族(ヴォイド)一族は闇霊人族(ヴォイド)一族であると言うだけで、迫害を受ける場所も存在します」


 一個人がした行いが、後々の子孫処か種族全体にまで影響を及ぼしてしまっている。その事にシンは頭が痛いと言うように額に手をやる。


 「そうしたことをして居たのなら兎も角。全く無関係のない人間にまでそうした目を向けるのは、愚かしい思想と言う他在りません」


 個人の思想が全体の思想であるとは限らない。個人はあくまでも個人なのだと。その思いが。考えが。いくつも集まりひとつの形となって、やがて全体としての形となる。故にその逆は在っては為らないとシンは言う。


 「……これは誰かが意図的に"そう言うもの"と、認識させて要るのかもしれませんね」


 シンの記憶にかつて同じようなカルト集団がいた。自分自身の考えはなく。ただひとつのものだけを達成するために行動する者達。それはまるで統率された機械のような一団であった。


 「ヴェレーノさんは自分が闇霊人族(ヴォイド)一族だと隠して過ごされていたのではないですか?」

 「そう。私は闇霊人族(ヴォイド)であることを隠して生きてきた。幸い闇霊人族(ヴォイド)と言わなければ、どこかの霊人族(エレメント)だと思われるくらいだから」

 「ですがその隠して生活していたヴェレーノさんを闇霊人族(ヴォイド)一族だと知った者が、ヴェレーノさんの作る薬を使い。誰かを殺した」

 「ええそうよ。どこの誰かはわからない。突然騎士達が私の家に乗り込んできて。普通に暮らしていた私を殺人とベルスター教の信者と言うことで捕まえて。ここへ送った。ね? つまらないお話でしょう?」


 話だけ聞けば、ヴェレーノは冤罪で『魔境』(ここ)へ送られたと言うことになる。

 シンと共に生き残った五人。重犯罪者の終の牢獄と言われる『魔境』へ送られるだけの法を犯したものが、この中に何人いるのか。

 またシン達が深い谷底を渡り、『魔境』へと行く際に。クレーンの一部が何者かによって損壊されていた件も気になるものである。

 だが現状に於いて断定出来るものはまだない。可能性の話だけをすれば幾らでもある。

 シンはそれぞれの事情を知り。より一層晶石を集め。皆でこの『魔境』を出ることを提案した。


 「俺は妻や友人を殺してる犯罪者だぜ」

 「……欠陥品とは言え。人を殺めている暗殺者だ」

 「わいは、出られるなら出たいなぁ……」

 「そうですね。僕としても真実が何なのか。知られる機会が訪れるなら」

 「今の私は誰かを信じるだけの気持ちがないの……ごめんなさい」


 五人が五人とも違う答えを述べた。


 「ウキキ。兄ちゃんそれはなんの話だい?」

 「ああそう言えばハルシオンさんは知りませんでしたね。じつはーーー」


 シンはハルシオンに看守長アルニマとの契約の事を話す。


 「ふーん。100万リーエン分の晶石ね。それって兄ちゃん達だけかい?」

 「いいえ。契約文には金額を満たしていれば、誰でもと在ります」

 「ウキキッ。それなら兄ちゃん。集落(コロニー)に行って。『獣の王(ドミナートル)』に話してみるといい。もしかしたら話を聞いてくれる奴が、一人くらいは要るかもしれないぜ。ウキキ」


 『魔境』の外へ出ると言うものも要るかもしれないが。それ以外に晶石を外の者達に売る資金源として、考える者がいるかもしれないとハルシオンは言う。


 「外へ出たいと言う方はいらっしゃらないので?」

 「ウキキ。中には要るだろうけど。今の『魔境』に居る奴らは『魔境』で育った奴らばかりだ。今さら外に出たい何て考える奴は少ないだろうよ」


 『魔境』に入れられ。そこで基盤を作った者達の二世、三世と既に世代が入れ替わっている。

 定期的送られて来る者も要るが。『魔境』の環境に適応できず。死ぬものが多いと言う。

 今回ハルシオンと出会ったシン達は実はかなり運が良い方なのである。大概は『魔境』に住む人間と会う前にモンスターに殺される事が多いからだ。


 「そうなのですか。ではハルシオンさんは『魔境』育ちで?」

 「俺っち? 俺っちは外から来たぜ。なんせこの『魔境』には絶世の美女が居るって聞いたからな。ウキキッ! 無理やり乗り込んできた会があったってもんだぜ! ウキキキッ!」


 ハルシオンの言葉に「ああ。やっぱりこいつバカだわ」と、綺麗に心が一緒になった瞬間であった。

 はい。オチが着いたところで次回に続く!

















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