No.29
No.29
「ひぃいいいい……!」
袖口から取り出したクナイを押し出すようにプセマへと投げたシン。
飛んでくるクナイに怯え、ひっくり返るプセマの頭上をクナイは通り過ぎていく。
ひっくり返る前の自分の頭の上も越えて通るクナイを見て、乾いた笑いをするプセマ。
「は、はは……なんや脅かしよって、どこ狙っとんねん。ああそれよりあんさん! いきなり刃物投げつけよってからに! 慰謝料や! わいの心の傷の治療費を請求するで! さあ! さあ!」
飛び起きるようにしてシンに迫るプセマに、他の者達より一歩下がって見ていたツークーが、クナイが飛び去った方を見て。
「……お前を狙った訳じゃない。あそこに要る奴を狙ったんだ」
ツークーの言葉に二人以外気がつかなかった者達が、一斉にツークーが見つめる方角に振り返り見る。
「誰だ! 出てきやがれ!」
キヤーナもツークーに言われ漸く自分達を監視するように見つめている者に気かつき。怒気を孕ませた声を出す。
そして全員に感ずかれた事により。シン達を見つめていた者のお気楽な声が聞こえてくる。
『ウキキッ。俺っちてば、"覗き"は得意でも"戦い"は得意じゃないんでね。そんなにみんなで睨まれたら、怖くて出ていけなくなっちゃうよ』
「ぐだぐだ言ってねえで出てきやがれ!」
『出ていくからそう怒んないでくれよ。ウキキッ』
キヤーナが更に怒気を強め、隠れている者に出てくるよう促す。
するとゆっくりと、森の中から一人の男が出てきた。
「いや~覗いてて悪かったな。ちょいとおたくら達がどう言う連中かを観察してたんだ」
……出てきた男は金髪の優男であった。
「うーん。どこかの誰がが俺っちの描写を適当に済まそうとしてるなぁ。こりゃあ帰ったらまた"お仕置き"が待ってるなぁ」
だあー! こんちくしょうが! 人を脅しやがって!
森から出てきた男は金髪の優男! 頭と尻辺りに獣の、猿の耳と尻尾を着けていることから獣人族だと言うことがわかる。
それと森と言う場所を鑑みても、カッターシャツにジーンズと言う、おかしな出で立ちをして要る男だった。
「誰だてめぇは……」
「ウキキッ。そんな警戒心バリバリに出さないで欲しいな。さっきも言ったろう。俺っちはケンカは得意じゃないんだ」
キヤーナは特に警戒心を強く。現れた男を睨んでいる。同様に他の者達も金髪の男に警戒心を露にしていた。
金髪の男はそんなに警戒しなくても良いのにと言うように肩を竦める。
「先ずは互いに自己紹介、と行きたいけど。そんなに警戒されてたら名前すらも言ってくれないか。ウキキッ。なら俺っちの事から知って貰おうかな。俺っちは名はハルシオン。この『魔境』で『情報屋』をしている。おたくらを見ていたのもこの『魔境』に新たに入ってきた"新人"さんの情報を調べにさ」
金髪の男。ハルシオンと名乗った男は自分のことを簡単に話す。
しかしそれで納得しているものは少なかった。
「ウキキッ……信用されないか。まあ外で悪さしてきた奴らが、『魔境』へ来て生き延びようと考えたら、自分以外は信じられないもんな。ウキキッ。なら『情報屋』として、ここでの暮らし方ってやつを話してやるな」
信用して貰うためと言うように『魔境』内の事情を語るハルシオン。
「この広大な『魔境』の森には集落と呼ばれる。人が住める場所が四つ存在する。そして」
そして『獣の王』と呼ばれる五人の支配者とも呼べる者達が、それぞれ連携しながら各集落を治めている。
危険なモンスターが住む。ここ『魔境』に於いて、集落は犯罪者達にとっては唯一の安住の地とも言える場所である。
故に無法者の集まりと言えども集落では、そこにある法に従い暮らしている。その法と言うのが二つ存在する。そのひとつが。
「集落を崩壊させる危険がある奴は、問答無用で叩き出す」
……犯罪者とは言え。互いに共存共栄が出来ないのであれば、その場所を守ろうとする者達によって排除される。
そうなれば昼も夜も関係なく襲ってくるモンスター相手に、この『魔境』で生き残れる保証は無い。と言うことだ。
それ故に集落では各々が出来ることをして、集落に貢献しなくてはいけない。
「何でも構わないぜ。モンスターを狩ってその肉を手に要れる者。地を耕して作物を育てる者。医術で病や怪我を治す者。または俺っちの様に情報を集め。それを生かす者と、様々だ。ウキキッ」
「……従う義理はない。と言ったら」
ハルシオンの説明にツークーが関係がないと言うように言い放つ。
「ウキキッ。それならそれでも構わないさ。ただそうしたらおたくは集落には絶対には要られない。さっき叩き出されるって言ったが、それは表現を柔らかくして言った。集落にとって害悪に為る奴を集落に要る奴は叩き出す前にどうすると思う? ウキキッ」
犯罪者集団が巣作る場所だ。親切ご丁寧にそうした者を送り出すことはしないだろう。五体満足に出されるならまだマシだが。四肢の欠損などあった場合は、『魔境』で生き残るのは先ず不可能。数刻もしない内にモンスターに生きたまま喰われるのがオチである。
ツークーも『魔境』に要るモンスター相手に手間取ることはないだろうが、四六時中襲って来られてはいつかは疲弊して倒れると悟った様で。渋い表情をしながらも「……わかった」と、短く従うことを了承していた。
「そんな『獣の王』が治める集落には、ちょっと特色が在るんだぜ。ウキキッ」
ハルシオンは屈託のない。女性なら魅了されるのような笑顔をシン達に見せるが。残念ながらシン達は男なので、そんな笑顔を見ても何の反応もしなかった。
「ウキ……俺っちの笑顔が効かないとは、結構手強い」
いやお前、あれ男達だぞ? 女好きと思ってたが、お前にそんな趣味があったのか?
「ないよ、ウキキッ。ひとつはここから一番近い集落チンロンは、『武人の町』なんて呼ばれてるぜ。ウキキッ。ここの奴らは戦闘特化の奴らが多い。そしてモンスターとの戦闘を担当してるからだ。そいつらの一番上に要るのが『ナカゴ』って言う、これまた珍しい陸人族一族の奴さ」
陸人族種族。ファンタジー世界に登場する『リザードマン』と呼ばれる爬虫類型の亜人種が要るが、その姿に似ている種族だ。
「二つ目はここから一番遠いパイフーの集落だ。『技術の町』なんて呼ばれてるぜ。ウキキッ。この呼び名からわかるだろうが、様々な知識や技術がある奴が多く要る。技術者の集落だ。ここ治めているのは羊の獣人族で『タタラ』って奴だ」
ひ、ひつじ、だと……!? 大丈夫なのかその町は!?
「三つ目はここから北よりにあるショワンウーの集落。ここは作物などが育ちやすい場所柄だから『豊穣の町』なんて呼ばれているぜ。『トミテ』って言うじいさんが治めてる。ウキキッ。ひとつだけ言っておくけど。老成して大人しくしてるが、このじいさんが戦えば一番強い。ちょっと前にグランディアスが攻め込んできて、トミテのじいさんがたった一人で無傷でグランディアスを打ち倒してる」
ハルシオンの言葉にシン以外はそんな馬鹿なと言うような表情をしていた。
グランディアスとは恐竜のトリケラトプスのような姿をしているモンスターだ。
その外観は強固な鎧のような皮膚をしており。生半可な攻撃ではびくともしない防御力と。前面にある複数の大きな角を使い突進してくる攻撃は、暴走する装甲車と言ったもので。相手をするなら、相応の覚悟を持って相手をしなければいけないモンスターだ。
「ウキキッ♪ そして最後がおまちかねだ!」
最後の集落の説明に為ると途端にハルシオンのテンションが上がる。
イケメン顔だったハルシオンが溶けたバターのようにだらしなく歪んでいる。あっ、どう言う所だかわかった。
「最後の集落。『欲望の町』とも呼ばれる。この『魔境』に於いて唯一の快楽街。魅惑なお姉ちゃん達が沢山要る集落だ! あれ? 盛り上がると思ったんだけどな。ウキキ?」
エロに興味がないとは言わないが、お前みたいな性欲の塊みたいな奴はここには居ないと言うだけだ。
「人類エロ無くしては語れず。エロを無くせば人滅ぶと言うのに……ウキキ……」
哲学的なことを言っても、お前のそのエロ精神は別物だ。良いから説明を続けろ。まったく。
「はいよ。ウキキッ。チューチュエの集落を治めているのは『キシュク』って言う、もうおっぱいバイーンの。腰きゅーの。お尻どーんな、ちょー美人な姉ちゃんが治めてる。ウキキッ。俺っちもお近づきになりたいんだけどなかなかなぁ……」
お前な……一気に説明が頭悪い説明に早変わりしたぞ……。
ハルシオンが自分の体を使って、その女性の容姿を表していた。
ハルシオンの説明を聞いていた者達が何とも言えない表情をしていたのだった。
「以上がこの『魔境』で暮らすならどこかの集落に行けって話だな。ウキキッ」
最後の説明はともかく。ハルシオンはシン達に説明をし終わるが、その説明が不十分だと言う表情をしていた。
「ご質問を宜しいでしょうか?」
そんな中シンが代表してと言うようにハルシオンに問い掛ける。
「ウキキッ。なんだい兄ちゃん? 今の説明でわからないことがあったか?」
「解らないと言うよりは、幾つかご説明されていない部分が在りますね。それについては?」
「ウキキッ♪ やっぱり気がつくか。それに気がつかなきゃお人好しな犯罪者ってことになって、ここではあっと言う間に集落の外だな」
ハルシオンは愉快そうに笑う。それを不愉快と言うようにキヤーナが再び怒気を孕んだ声を出し。
「良いからとっとと喋れ。俺は騙す奴が嫌いだ。そんな奴が要ればどうなるかを教えてやろうか?」
キヤーナはその筋肉隆々な肉体を見せるようにして拳を突きだし。ハルシオンを脅す。
そんな肉体を見せつけられハルシオンは「うへぇ……」と、男の肉体を見せられてもと言うような表情を見せていた。
「ウキキッ。話すけど、俺っちが話さなかった"話し"って言うのはなんだい?」
「ああん!? てめえ話さない気か!」
煙に巻こうと言うような返し方に、キヤーナは我慢ならんと言うようにハルシオンに向かって突き進もうとする。が、それを止めた人物が要る。
「……おい。何の真似だ? いくらあの檻から助けてくれた恩人とは言え。俺の邪魔をするならただじゃおかないぞ」
「お待ちください。暴力に訴え、話を遮るよりも。彼の質問の意図を読み。それに答えた方が早いです」
キヤーナを手で制止したのはシンである。
シンはハルシオンの質問の意図が何なのかを探り。それに答え引き出した方が、より正確な情報を引き出せると踏んだのだ。
「……良いだろう。お前に任せる」
「ありがとうございます。他の皆さんも宜しいですか?」
シンが他の者達にも確認を取ると、全員が頷いた。
「ではお聞きします。この『魔境』には四つの集落が存在し。それぞれに『獣の王』と呼ばれる統括者がいる。これに間違いはありませんね?」
「ウキキッ。あってるぜ。で、それがどうかしたか?」
「では先程貴方が仰った『獣の王』は、五人要ると言いましたが、残りの一人は? また人が住める場所は四つとも仰っていましたが。人が住めないだけで、そうした場所が他にもあると言うことですか? そしてこの『魔境』で絶対に従わなければ往けない二つの法の内、残りのひとつは?」
「ウキキッ! よく聞いてるな兄ちゃんだ。俺っちが兄ちゃんに花丸をあげちゃうぜ ウキキッ!」
人を食ったような返し方にシンは呆れるでも怒るでもなく。淡々と問い質した。
「お答え頂けますか?」
「……兄ちゃん。人から面白味のない奴って言われないか?」
「はあ、先日もその様なことを言われましたが、至って普通の人間だと自負していますが?」
人をおちょっくって居たような態度から至極真剣な表情をして聞くハルシオンに、シンは何処にでも要る人間だと言う。どこにでも? どこにでもかぁ……。
「……まあいいや。質問の答えは簡単だ。いま兄ちゃんが三つした質問は全部一緒だからだ」
「一緒? つまりは『獣の王』の五人目と四つ目以降の集落は存在していて。その二つは『魔境』のルールの中に含まれていると、そう言うことですか?」
「ウキキッ。その通り」
それはこの地に流刑された犯罪者達が偶然見つけたものだった。
それが何故この場所に在るのかはわからないが、元は誰かが住んでいたのだろう。外壁を伴った朽ちた村を見つけたのだ
彼らはその村の修復し。自分達が住める集落を作り上げた。
そしてその修復している途中で、この『魔境』の地図らしきものを重複中の村の中で発見する。
その地図には東西南北中央の位置に村が存在すると言うものだった。
彼らはその村を探しに行く。
挫折と困難な探索であったが、彼らは五つの内。残りの三つの朽ちた村を発見した。
「ではまだ五つ目の集落は発見していないと?」
「いいや。それらしきものは見つけてる。だけどそこには辿り着けない。何しろそこを守る奴が要るからだ」
「それが最後の『獣の王』だと?」
「そっ。兄ちゃんは『霊獣』って知ってるかい?」
「霊獣、確か死したものが精霊化した存在だと記憶していますが」
精霊とは違った存在として語られる場合もあるが、その成り立ちが違うだけの似た存在だ。
精霊は自然現象が何らかの要因で自我を持ち。形作られた存在であり。
霊獣はシンが言うように生物が死を迎えた時に、何らかの要因によりその魂が天に向かわず変質し地に留まり。新たな存在として居続けられる存在である。
どちらも肉体を持たず霊体として存在している。その為か、彼らは依り代となる存在を必要とする。
その理由は正確には判明していない。彼ら自身も依り代が何故必要なのかもわかっていない。
ただ依り代があれば安心すると言う感覚はあるようだ。
そしてその依り代は何でも構わない。人。物。土地。様々なモノで自身が地に留まる為の"楔"にしているようにも感じられる。
「その霊獣が守る場所に集落があると思われる。何度かその場所に行くために試したみたいだが、全員返り討ち。強行突破しようとした奴なんかは、その場で霊獣に殺されたなんて話しも聞いてる。それ以降は、この『魔境』に於いて中央の集落に関しては"触れてはならない存在"として扱われてる。そこを守る霊獣を怒らせて、いま在る集落を無くすわけにはいかない。と言うのが、どの『獣の王』達の意見だからだ」
ハルシオンの言葉に霊獣が相手では人では太刀打ちできないと納得を見せる者達。
「集落を自分達で作ると言うのはしないのですか?」
「ウキキ……。作ろうとはしたんだが、モンスターがひっきりなしに襲ってくる場所での作業。その上作った先から壊されるんだ。やる気を見せていた奴らも最後には諦めた。だからいま在る集落を少しずつ拡張していく手段しか持ち合わせていないな。まあ兄ちゃんが自分で作るって言うなら止めはしないぜ。誰も手伝う奴は出てこないだろうけど」
「なるほど。そうした理由があり。開拓を断念したと」
シンの呟きが耳に入ったプセマは、余計なことをと言う表情をするも。金のなりそうな話が聞け。いやらしく笑みを浮かべていた。
「質問は終わりかな? ウキキッ」
それなら自分はこれで失礼すると言うような仕草を見せるハルシオン。
「疑問に思ったことがあったのでもうひとつ。宜しいですか?」
「ウキキ? まだあるとは思えないけど。俺っちが答えられるものなら」
どうぞ。と言うように手をシンに向ける。
「ありがとうございます。『獣の王』が五人、と仰りましだが。本当は二十八人ではありませんか?」
シンの質問にはその場にいた者達が何を言っているんだと首を傾げる。
「……兄ちゃん。俺っちは五人って言ったぜ。何故それが二十八人にも増える」
ハルシオンは改めてシンを値札見するような目で見つめる。
そんな目に臆することなくシンは。
「チンロンのナカゴ。パイフーのタタラ。ショワンウーのトミテ。チューチュエのキシュク。これらに私は聞き覚えがありまして。集落の名前は青龍。白虎。玄武。朱雀と言う幻想の獣の名になっています。更に『獣の王』達の名前は、その幻想の獣の下に付く、部下のようなものと思ってください。それは星宿と呼ばれる心宿。婁宿。虚宿。鬼宿の名に酷似しています。この星宿は二十八あり。私は『獣の王』の統括者達。中央の霊獣を除き。二十八人要るのではと、思ったのです」




