No.28
No.28
彼岸へと渡るシン達。深く広い谷底を、鉄格子のコンテナと形容していい物の中に押し込まれ、クレーンのようなもので運ばれていく。
格子があるため、通り過ぎる時に深い谷底が見える。
但し深い谷底の底は見えず。暗い奈落のように深い暗黒が見て取れるだけであったが。
『……何か下に居やがるな』
「ですね。それが何なのか予想が出来る分だけに、余り想像したくは在りませんが」
谷底の薄暗い部分で節足動物のような存在を見つけた。
それも一匹や二匹ではない。何千何万と言う数の存在をである。
下でそんな存在が要るとわかったシンは、気持ちが悪いと言う風には言うが、その表情は全く変わっていなかった。
「天然の隔絶された土地に。その深い谷底には何やら形容したくはない生き物達。脱出するためには空からとなるでしょうが、その対策もされているでしょうね」
かつて脱出不可能と言われたアルカトラズ島の刑務所を沸騰させると、何やら嬉しそうに語るシンであった。
もう間もなく対岸と言うところでクレーンの挙動がおかしくなる。ガタガタと揺れ始め。コンテナが谷底へと落ち始めたのである。
『相棒ッ!?』
「わかっています。百地さん。私は手枷をされていて振るうことが出来ません。束を歯で咬み。百地さんを引き抜きながら外に出します。ですから」
『おう! わかったてらぁ! そん時に手枷を切れだろ!』
「よろしくお願いします」
シンは袖口に顔を押し込むようにする。
そして顔を引き戻した時には基本状態の百地の束を歯で咬み。持ち上げていた。
百地は外へと出てくると、すかさず刀身にある自分の口でシンの手枷を噛み砕く。
片方が壊れたことで自由を取り戻したシンは、コンテナに乗っていたその他の囚人の手枷も切る。
「簡潔に説明します。今より鉄格子を切り。そこから順番に対岸へと飛び移ってください。順番を守れば必ず対岸へと辿り着きます。良いですか。必ず守ってください。でなければ下にいる生き物に生きたまま喰われることに為りますよ」
それだけ伝えるとシンは即座に実行する。
鉄格子を切り。無くなったところから飛び移れと示唆する。
躊躇するものは誰も居らず。またシンの言葉に従い。対岸へと飛び移るがーーー
「ふざけんな! どけ! 俺は助かるんだ!」
シンの言葉に従わず一人の男が駆け出し。切られた鉄格子の部分から飛ぼうとするが、そのタイミング悪かったのか。対岸へと辿り着くことは出来ず。奈落へと落ちていく。
無惨にも奈落へと落ちた男の姿を自分の未来の姿と捉えた男達が、飛ぶことに躊躇しだした。
「何をしてるんです! このまま下へと落ちますよ!」
叱咤するようにシンが言うが男達は動くことが出来ない。いや出来なくなっていた。
もう間もなく対岸よりコンテナが下になる。時間は残されていない。焦りが場を支配していく。
『相棒ッ!』
百地がもうそんな奴らは捨て置けと言うように、切羽詰まった声を出す。
シンは自分は死んでも再び岸からやり直せば良いと考えていたので、一番最後に飛ぶつもりであった。
しかも自分は飛ぶ場所の直ぐ側に要る。
男達を全員飛ばすだけの時間はない。
シンは苦渋の決断を迫られる。
コンテナが対岸の地面の下を通り過ぎた。
「ーーーくッ!」
シンは振り切るようにコンテナから脱出する。
地面より下になった為、着地は出来ない。その為百地を一旦服の中に仕舞い込み。代わりに二本のクナイを取り出す。
それを崖に刺し。掴む。
コンテナはそのまま奈落へと落下していった。
そのコンテナを見送るシン。
その時、コンテナとクレーンを繋ぐ一部の器具が不自然に壊れていることに気が付く。
「まさか……誰かが意図的に!?」
重犯罪者と呼ばれていた者達を殺すため?
しかしそれなら始めから死刑として扱われていた筈だ。わざわざ輸送し。こんな大規模な場所でやる意味があるのかと、そう考えていたが、その思考を途切れさせる声が上から聞こえてきた。
「大丈夫か!?」
「……ええ。私は問題ありません。ですが、残りの方達が……」
「奴らはお前の言葉を信じられなかった。だから死んだ。それだけだ。お前はお前の出来ることをしたんだ。手を貸そう。引き上げる」
上から太くゴツい手が差し出される。シンはその手を取ると。シンの重さなど感じないと言うように、ぐっと引き上げられる。
持ち上げられ地面へと降ろされるシン。
引き上げた者を見ると王角と呼ばれる頭部に角と筋骨粒々と言った肉体を持つ。魔人族の男であった。
「助かりました。有り難う御座います。ええっと……」
「俺はキヤーナだ」
「キヤーナさん、ですか。私は渡界者のシンと申します」
互いに握りあった手で、そのまま握手を交わした。
「わいはプセマや」
「……ツークー」
「ヴェレーノだ」
「エスピオンです。助かりました。まあここだと本当に助かったのかどうかはわかりませんが……」
その他に飛び移った者達がシンに名前を告げ。軽く礼を述べた。
『……少ねぇな。あれだけ居て、飛び移れたのはこれだけかよ』
百地が生き残れた人数を見て、その少なさに溜め息を漏らした。
「……おい。シンと言ったな。さっきの剣はなんだ? 生きてるのか? 物なのか?」
そんな中、ツークーと名乗った犬科の耳と尻尾を持つ獣人族の男が、百地の存在を気になるのか。ぶっきらぼうな話し方でその正体を聞いてきた。
「はい。あの方は百地さん。私が呼び出した使役するモノです」
「召喚獣ってことなのか。いや召喚物か?」
シンはツークーの話し方に気を悪くすることなく、百地の事を話すと。ツークーはそれで納得できたのか一歩下がり。影を落とすように静かになる。
そして静かになったツークーの代わりに明るく声を掛けてきた男がいる。
「あんさんおもろい力を持っとる渡界者なんやなぁ。いやぁあんさんみたいなお人、外でお会いしたかったわ」
人の良さそうな笑みを浮かべ。独特なイントネーションで喋るタヌキの顔を持つ獣頭人族の男であった。
男は尻尾を振りながらシンに寄り添うようにして握手を求める。
シンもそれに応え。握手を交わす。
そして一方的に会話をするプセマ。シンは表情を変えることなく対応していた。
「ここに入れられたら、もう楽しい商売出来へんけど。あんさんとは仲良うしたいから、あんじょうヨロシクな」
「ええ。こちらこそ」
笑顔で手を振り離れていくプセマ。その入れ違い出来たのはエスピオンと名乗った。この世界では渡界者以外では珍しい人間族の男性であった。
人間族は他の種族と比べ特徴らしい特徴がない種族だ。
何処にでも居そうな雰囲気を持つエスピオンは改めてシンに礼を述べにやって来た。
「ありがとうございます。貴方が居なければ僕らはあのまま谷底に落ち。蟲の餌になっていました」
「いえ。礼には及びません。他にも助けられた方が要らしたのに、助けられませんでしたから」
「さっき貴方を助ける時にあっちの彼、キヤーナさんと言いましたか。が、言っていましたが貴方は貴方が出来る最大限の努力をなさった。だから僕らだけでも今回は生き残れたと言うことです。それに僕ら重犯罪者。あの蟲に食われて死ななくとも。この『魔境』で死ぬ確率は高いですから……あっははは。どっちが楽に死ねるのかわかりませんけどね」
「そう言えば先程もその様なことを。一体ここは、『魔境』とは一体どう言う所なのですか?」
シンのその言葉に全員が驚きの表情を見せる。
「し、知らないんですか!?」
「恥ずかしながら。こちらの世界の一般常識は無学なものでして」
「いえ、まあ僕もそれほど知ってはいませんけど。ここが一度入れられたら脱出が不可能と言われている。隔絶された大地『魔境』と言うところで。この『魔境』は唯一『聖地』と同じく自然豊かな場所なんです。ただ『聖地』とは違い。高濃度の星力は存在してません。でもモンスターはいます。何処かに『はぐれ異界の門』があるんじゃないかと言われてますが、『魔境』は広大な森林地帯です。その中から『はぐれ異界の門』を探すのは不可能と言われてもいます」
「広大ですか。開拓などをして見つけられそうな気もしますが?」
「ええっと、そこはちょっと。僕も知らないです……」
申し訳ないと言うように謝るエスピオンにシンはとんでもないために為りましたと礼を述べると。
「その辺の理由はわいが知っとるで」
「そうなのですか? 何故されてないんでしょうか?」
プセマはいやらしそうな表情をして、親指と人差し指で丸を作り。シンにそれを見せる。
「お金、ですか?」
「せやでぇ。情報は金になる。ここが『魔境』であろうと金になるなら得るのは当然や。どないする?」
シンは必要な情報に為るかもしれないと。袖口に手を入れ。お金を取り出そうとするが。その手が一瞬止まる。そして引き出された手にはクナイが握られていた。
「な、な、なんや!? 刃物なんか取り出して!? お、脅しか!? わいは脅しには屈指せぇへんで!」
プセマはシンの突然の行動に驚き。逃げ腰になり一歩後ろに後退する。
シンはそんなプセマに、取り出したクナイを押し出すように投げつけた。




