No.26
No.26
ゴロゴロ ゴロゴロ
数台の馬車が街道を緩やかに進んでいく。
馬車の周りには馬車を護衛するように、馬に乗った者達が追随していた。
その中にシンの姿は居ない。
ではシンは何処に居るのかと言えば、馬車の方である。
しかも頑丈な鉄格子が組まれた中の馬車にである。
「良いお天気で良かったですね。絶好のお掃除日和と言う感じですね」
「「「「………………」」」」
「罰則内容が『お掃除』と聞いていて、町中での掃除とばかりだと思っていましたが、外に出るとは。一体何処で掃除をするのでしょうか?」
「「「「……………」」」」
「ああ、申し遅れました。私渡界者のシンと言います。暫しのお付き合いとなるとは思われますが、よろしくお願い致します」
「「「「……………」」」」
『おいおい。景気に話せなんて言うつもりはないが、人が話を振ってんだから。『うん』でも『はい』でも相づちを返すもんが礼儀だろうが』
「百地さん。もしかしたら人見知りの方達なのかもしれませんよ」
『カアッ~! どいつもこいつも一癖も二癖もありそうな奴らが人見知り? 顔だって何処の強面連中だよって奴らだぜおい!』
「人の外見と内面が必ずしも一致するとは限りませんよ。各言う私も「独り言がうるさいぞ! 囚人!」
百地と話をしていたシン。
しかしその会話は他の者達には聞こえない。
よってシンが独り言を喋っているように聞こえたのだろう。
そしてその声を黙らせるように檻の鉄棒を強く叩く者がいた。
世界観的に何処からその服を持ってきた? と言いたいぐらいの。何処かの国の軍服を着た女性。いやどう見ても十二、三の魔人族の少女であった。
「申し訳ありません。看守さんで宜しいんでしょうか?」
「黙っていろと言ったぞ! 囚人!」
シンは軍服を着た少女に質問をする。
少女はシンの言葉に己の力を誇示するように再び鉄棒を叩いた。
それにシンは口許に人差し指を持っていき。静かにしていますと言うジェスチャーをしたのであった。
『人の話を聞こうともしない奴だな』
「意思疎通は出来るのに話が通じない。そう言った方達も多々いらっしゃいますから」
シンは少女に聞こえないように小声で百地と会話をする。
『しかしあれだな相棒。俺様思うんだが、これはどう考えても相棒が受ける罰じゃねぇだろう?』
「そうですか? 係りの人はこの馬車だと指示されたのですが」
『本当にあの時言ってたのは、この馬車だったのか?』
「その筈ですよ。まあ、間違っていたらその時は連絡などがあるでしょう。いやぁそれにしてもこうした雰囲気は懐かしいですね。若い頃中東の方へ行っていた事があったのですが。丁度その時国軍とゲリラ軍の戦闘に巻き込まれたことがあったんですよ。その時に運悪くゲリラ軍に捕まってしまい。少し過激な尋問を受けましてね。いやはや。あの時は参りました。まあ紆余曲折あって、ゲリラの方と共闘して国を脱出したんですが「二度も言わせるな! 囚人!! 『魔境』に着く前に、そのうるさい首を私が捻り切るぞ! ……(静かにしています)」
昔を思い出して、子供のように興奮し。少し大きな声になってしまったシン。
二度目の忠告に今度は三猿の『言わざる』のように口に手をやり黙り込むシンであった。
さて、本来は町の中での掃除で在った筈に。どうしてこの様な状況になっているのか?
それはシン達がアコルの町から出る、ほんの少し前まで遡る。
☆★☆★☆
「今日は昨日のカムイさんから言われた罰則を受けなければ往けません」
『おうそうだな。で、どこで受けるんだ?』
「南正門ですね。あちらです。行きましょうか」
『掃除ってたな。んじゃ俺様の出番はねぇな』
言葉は退屈そうではあるが、それはそれ。と言うようにどこか愉快そうに喋る百地である。
「申し訳ありません百地さん。罰則が早く終わるようでしたら、何かしらの事をしましょうか?」
『なに。たまには鞘に入って落ち着いているのも良いもんだ。最も俺様はあんまり鞘に入ってっと落ち着きなく暴れだすがな! あっはっはっはっ!』
「暴れる前に言ってくださいね。周りの皆さんにご迷惑になりますか」
『おうよ。わかってるぜ! 相棒!』
そん時は言ってやるよ! と、言っている百地であるが。暴れる時はシンに言う間もなく暴れだすことだろうと思っていたシンである。
そして南正門に到着。すぐさま係りの者を探す。
『相棒。アイツじゃねぇか?』
シンの目を通して見ていた百地がそれらしき人物を発見した。
百地が示す方向を向くと。昨日カムイ達が着ていた革鎧と同じ形の鎧を着た。カバの獣頭人族が他の騎士達に指示を出していた。
シンはその様子から間違いないであろうと、そのカバの下へ行く。
「もし。お仕事中申し訳在りませんが、少し宜しいでしょうか?」
「ズズゥー。あんだ? なんがごまるごとが? ヘックショーイ!」
鼻声で。鼻水を滴。目から涙を流し。盛大なくしゃみをするカバ。
その飛んでくる唾をスッと避けるシン。
カバは申し訳ないと、持っていたティッシュで鼻を噛む。
「お風邪ですか?」
「んにゃ。この時期になんと目やら鼻やらこんなになんだ。ヘックショーイ! ヘックショーイ! ヘックショーイ! 辛くて辛くてよ」
「それは花粉症かもしれませんね。マスク等をされる事をお奨め致しますよ。少しは違いが有ると思われますから」
「ぞうが? んならあとでだめじでみんよ。ぞんでなんだ?」
また段々と鼻が垂れ。聞き取り辛らくなっていく。
「私渡界者のシンと申します。カムイさんに言われ。こちらで罰則を受けるよう言われたのですが、集まりはこちらで宜しいのでしょうか?」
「おおっ!? ガムイが言っでだりぢぎなどがいじゃって言うのば、アンダだったが! あんがどよ。アンダのおがげで、悪ざじだどがいじゃをづがまえるごどがでぎだよ」
「いえいえ。お役に立てて何よりです」
『……相棒。よくコイツの言ってることがわかるな』
自分にはさっぱりだと。同じ言葉なのに未知の言語に聞こえてくると言う百地であった。
「アンダはジンだったな」
「はい」
「そんならーーー」
カバは探すようにしてからある一角を指す。そこには少なからず人が集まっていた。
「あぞごにいるだんどうじゃに自分の名前をづげで指示を貰ってぐれ」
そしてシンがカバが指し示した方を確認すると。そこには馬車が数台停まっており。馬車の荷には檻があり。その中には強面の男達が手枷をされ。押し込まれていた。
「わかりました。お大事にしてください」
シンはカバに礼を言い。体調を気遣い。指示された場所へと行き。そこの担当者らしき人物を探すのであった。
そして探す中で軍服を着た少女が、一番地位の高い人物であると言うのを見抜いたシンは、少女へと話しかける。
「お忙しい中申し訳有りません。少し宜しいのでしょうか?」
「ん? 何だ貴様は? いま我々は囚人の護送準備中だ。くだらん用事であれば帰れ」
「私渡界者シンと申します。こちらの担当者の方に、私が受ける罰則の指示を貰うようにと言われまして」
少女はシンの言葉に訝しみ。すぐに部下に囚人の漏れが無いかどうかの確認を取らせた。
そこで『渡界者シン』と言う名前は見つからなかったが。『渡界者ジン』と言う名前は見つかった。
ここで『シン』と『ジン』。名前は似ているが現地人の場合、日本語表記で文字が表されているわけではない。
例えるなら『shin』と『jin』と言う感じになる。
なので本来なら間違える事はまず無い。
しかしながら確認を取らせた部下が新人な上に、先程ちょっとした文字の記入を間違えたりとしていた。
そこで少女は同じような間違いをここでもしたのであろうと、その部下に罵倒をして。シンを自ら出頭してきた犯罪者であると判断した。
「己の罪を自ら償いに来るとは良い心掛けだ犯罪者。貴様を拘束し檻へと入れる。むっ! 貴様は渡界者だったな。貴様が持っている持ち物に関しては本来的没収するのだが。渡界者は何処からともなく持ってくるらしいからな。いま持っている持ち物に関しては没収はせん。その代わりに貴様が何か問題を起こした場合は刑期が長くなると思えよ」
「わかりました。それではどれくらいの期間となるかはわかりませんが、お世話になります」
シンは少女にお縄になりますと言うように両手を差し出した。
木の手枷をさせられたシンは檻の中へと入れられる。
檻の中に入っていた者達はシンが入ってきたことで、シンを一瞬睨むように見るが。誰一人としてそれ以上の行動を取ろうと言う者はいなかった。
それはいまここで動けば周りを取り囲んでいる騎士達に檻の外から串刺しにされる可能性の方が高いと知っているからだ。
だから彼らは今は大人しくしていた。
例えこれから行く先が地獄の底であろうとも。自分達が生きられる可能性があるならば、じっと堪えると言うように。
「皆様本日は宜しくお願い致します」
そんな彼らの中。シンは彼らの耐える精神をぶち破る様に挨拶を交わしていた。
「大人しく座っていろ犯罪者! いいや! 貴様は最早囚人と成り果てた! 己の罪を私の言葉に従っていろ囚人!」
少女は鉄の棒で檻を叩き。シンを注意したのであった。
少女の言葉にシンはわかりましたと答え。先に居た者達に失礼しますと、少しスペースがある場所に腰を下ろしたのである。
そしてシンが座ると。それを待っていたかのように馬車は動き出した。
馬車が動き出したあと。その影に隠れていたひとつの一団からはこんな声が聞こえてくる。
「ええーお集まりの皆さん。本日は町の『ゴミの清掃』となります。お渡しした指定区域内のゴミ拾いを行って貰い。同じくお渡しした籠が一杯になりましたらこちらに戻っていただき。終了となります。それではお願いします」
それぞれが各担当区域に行くのを見送ると。
「今回の罰則者はこれで全員だな?」
「お待ちください。ええ……いえ。一人抜けています」
「なに? 軽い罰則だぞ!? これを無視すれば重くなると言うのに。いったい誰だ? そんな愚かなことをする奴は?」
「『渡界者シン』と言う七番組のカムイ隊長からの指示があった人物です」
「ああ。マナーの悪い渡界者を捕まえるために、恩赦が適応されるにも関わらず。罰則を受けてくれ渡界者か。……うむ。遅れているだけかもしれないな。もう少しだけ様子を見よう」
「はい」
そうしてそれぞれが己の仕事を片付け。それぞれの報告をあのカバの騎士にする時に。
「そっちの『清掃』担当はどうだ? 問題はないか?」
シンのマスクをしてみるのはどうだと言われ。早速マスクを着けてみたカバ。
目から涙はまだ出るが、鼻とくしゃみは大分収まって、言葉が気気取りやすくなっていた。
「はい。こちらの罰則者は素直に罰則を受けています。ただひとり今日罰則を受ける者がまだ来ていません」
「ん? 今回やりきれば罰が無くなるのにか? 誰が来ていない?」
「『渡界者シン』。例の罰則者です」
「まて? シンが来ていない? そんな筈はないぞ!? 彼は私と話をしてそちらに行くよう指示をした」
「いえしかし!? 件の人物はこちらには来ていませんが!?」
カバがシンには会っていると言うと、慌てる『清掃』担当者。
ほんの少しの距離。道に迷うなどと言うレベルではない。忽然とその場から消えたと言われたに等しい話だ。
いったいどうなっているんだと、シンの行方を探し始める騎士達。
そんな彼らがシンが護送準備の為に停車した。『凶悪犯輸送車』の馬車に乗り込んでしまったことを知るのは、今から三日後のことであった。
ん? 今日のナレーションに茶々がない? 真面目にやれって昨日しこたま怒られたんだよ!
誰に? ……そんなのは、察してくれ。思い出すだけでも、オソロシイ……。ヤメロ! そんな毒物を自分に食わせるな!? ヒィイイイ!




