No.24
No.24
「私は、出来れば両方を教えて頂きたいと思います」
シンの欲張りとも取れる答えに、ティグリスはその目を細めた。
「……ほぅ、両方習得したいと言う気概は買うが。いくらお前さんが渡界者とは言え、一朝一夕には習得出来るものではないぞ。嬢ちゃんですら死線の先で形が見え。そこから何年、何十年も掛け。やっと習得したものだ」
「心得ています。あれほどの技を見せて頂いて、私如きではその一部すら満足に修めることは出来ないかもしれません」
「それがわかっていながら両方を望むか。何故だ?」
ティグリスはシンの答え如何によっては、習得方法は教えないと言うように剣呑とした態度をとる。
「出来うることは可能な限り。例えそれが中途半端に終わってしまったと致しましても、その経験が無駄に終わる訳ではないと理解しているからです。Tさんが積み上げてきたもの。その一端でも私の血肉とさせて頂きたいと心から思えたからです」
シンはティグリスのそんな言葉に真摯に答える。
そんなシンの答えに導師・Tが口を挟む。
「先生。私はこの子に教えても良いと思う。私の『武』は誰にも託してこなかったから」
導師・Tは自分が積み上げてきたものをシンに渡しても良いと告げる。
ティグリスは剣呑とした態度を軟化させ。
「……お前らがここへ連れてきた以上は、お前のものを教えても良いと言う思いがあったからだろう。精々俺ができることは散々難癖を付け。こいつが俺から教わる気など無いと言わせることぐらいだ」
「……先生……」
導師・Tはティグリスの言葉に意地が悪いと言う。
ティグリスの言葉にシンは自分はどうすれば良いかと、悩むような表情をしていた。
「安心しろ。ここまで話した以上は帰れとは言わん。今までの質問も、お前さんが鬼紋闘法術を扱えるだけの資質と心構えがあるかの確認だ。悪く思うな。それだけお前さんが欲する術は危険が伴う術だと言うことだ。おいそれとは教えられん」
「私の時は簡単に教えてくれた気がするけど?」
「嬢ちゃんの場合は基礎を教え。それをあのバカ二号が苦もなく鬼紋闘法術へと持って行ったからだ」
導師・Tとティグリスのみに伝わる話をしている最中、我慢が出来なくなったのは百地であった。
『おいおい。身内話も良いが、相棒に教えてくれるって話はどうなるんだ?』
「きちんと教えるさ。ただ渡界者の力を持ってしても、モノになるかどうかはわからない。こればかりは本人の資質と努力次第だと言うことだけは肝に命じておいてくれ」
「勿論です」
シンの力強い頷きにティグリスは満足そうに頷く。
「そうか。なら散々勿興味のない話を聞かされ。早く教えろと言いたいところだろう」
「いえそんなことは」
『あん? 俺様としては教えるなら早く教えろってところだぞ』
「百地さん!?」
「あっははは。そっちの百地の方が素直だな」
ティグリスはシンに向け。指を四本突き立てる。
「嬢ちゃんの新式鬼紋闘法術は俺や他の奴らがその術式を見て解析している。故にその解析からも判断して。渡界者であるお前さんに必要だと思われる力は四つだ。
ひとつ。【精力操作】。こいつは旧式の鬼紋闘法術にも必要になる上に、術者としても必ず持ち合わせておいて損のないものだ。取得したら常日頃から精力の操作の感覚を無意識でも行えるように修練に励め」
「はい」
シンはティグリスの言葉を聞き逃すまいと真剣に聞きに入った。
「ふたつ。【星力操作】。こいつは元術士として必要なものだ。お前は術者だそうだから既に星力の素養はあるだろう。その自分の中にある星力をどう扱いたいかを、こちらも常日頃から考えろ。そうすることで内にある星力の力を外に出したとき、よりその力が明確に形作られ発揮する」
「イメージを大事にしろと言うことですか?」
「そうだ。霊術の術文とは違い。元術は何より自身のイメージが大事になる」
「わかりました」
「みつつ。【術式操作】だ。今元術はイメージが大事になると言ったが、自分の想像力を細部に至るまでイメージ出来る奴などそうはいない。それを補うためのものだと思え。もちろんそれ以外にも術を行使するときに安定した術を構築することも出来るようになる」
『一石二鳥と言うやつだな』
「そして最後だ。これを取得しなければ鬼紋闘法術へ至るまでの道のりが大幅に遅れるものになるものだ」
「それは一体?」
この最後のモノが鬼紋闘法術の肝となるものだと言い放つ。
そして若干の溜めの後、思いもしなかった言葉が出てきた。
「そいつはーーー【気功術】だ」
「気功術、ですか……?」
『なんだそりゃあ? 聞いたことがねえぞ?』
シンは何故魔法的な術の話で気功術が出てくるのか不思議に思い。百地に至っては気功術と言う言葉すら聞いたことがない様子であった。
「その様子からするとお前さんの方は【気功術】が何であるかを知っていそうだな」
「はい一応は、人体の生命エネルギー。もしくは万物に宿るエネルギーを循環させ。身体を活性化させたりすると言われていますが」
『なんだそりゃあ!? まんま精術や鬼紋闘法術じゃねか!?』
百地に言われ確かに似ていると思うシン。
シンは何か関係があるのかとティグリスを見る。
「晶術の話をしたときに、そっちの百地が名前が違うが、確かに存在したと言っていたのを覚えているか?」
「ええはい」
『おう確かに言ったな』
「今呼ばれている精力や鬼紋闘法術もかつては別の呼び方がさせていた。しかしそれがいつの頃からか今の呼びなとなった。
精力は『気』と呼ばれ。それこそ今の術式のようなものはなく。ただ単純に『気』を相手に対して撃ち出していた。なんて言う記録がある。そして鬼紋闘法術だが、今ある全ての術の大元。根っこの部分を作り出したひとつの流派だったと言われている」
遥か昔にあった流派。今はその流派の形は影もなく。今はその名前だけが辛うじて残っているだけであった。
その流派の名前は、と尋ねる。
『気功闘法術』ーーーと、シンに告げたのであった。
☆★☆★☆
全ての説明を終え。シンは早速ティグリスに教えて貰ったスキルを習得するため『高殿の搭』へと向かっていった。
シンは帰り際までティグリスに礼を延べていたが、ティグリスの方がさっさと帰れと言うように、シン達を追い払った。
「……まったく。七面倒臭いことをさせやがって。ふぁあああ……」
やっと肩の荷が下りたと言うように呟くと。眠くなってきたと言うように欠伸をするティグリス。
そして横になり。その瞳を閉じる。
「………………で、他の連中が帰ったのにいつまで居るつもりだ、お前は」
誰もいない空間に向け言葉を発すると、その方向から若い男の声だけが聞こえてくる。
「いやぁお茶していたらさぁ。いつの間にか自分要らない子になってて」
どうしたら良いだろうと、なんとも情けない声が聞こえてきた。
「知るか。まったく人の家の物を散々飲み食いしやがって」
ぶつくさと文句を言うティグリスだが、当の相手は全く堪えている様子はなかった。
「それと。あの『大変革』って言うのはなんだ。あれを面白おかしく脚色して、俺達を笑い者にしたいのか?」
「自分に言うなよ。あの話の筋を大元を考えたのはあいつだぞ」
「あの……バカが……! 何を考えてやがるんだ!」
「面白おかしくみんなが遊べるなら、自分達のやったことを提供するのは吝かじゃないと言っていたな」
「ッ!? あのバカを一旦俺のところへ連れてこい!」
「来てないのか?」
「……今の俺達の現状を記した手紙を寄越したきりで、その後は何の音沙汰もない」
一旦沸騰しかかったティグリスであったが、その本人が自分達に会いに来ないと言うことに落胆を見せていた。
「……手紙の最後には、まだ全てが終わってないからみんなとは会わないと。まったくあいつは昔からそうだ。変にこうと決めたらテコでも動こうとしない……」
文句を垂れるティグリス。しかしその顔はどこか懐かしそうな顔をしていた。
「色々とその辺で遊び回ってるようだからな。もしあれだったら首に縄付けてでも連れてくるぞ?」
「いいさ。今の俺達は所詮は影だ。あいつと会うのは本物の俺達に任せるさ」
そして暫く沈黙が流れ。ティグリスは今回ここへ連れてきたシンの事を尋ねた。
「あいつがお前らが見つけた可能性か?」
「うーん。正確にはその一人かな」
「なんだ? そんなに見つけたのか?」
「そりぁあもう。なんせ何万人もの渡界者達が着々と準備をしていてくれてるからな」
「なんだそれは!? おい! お前らは一体この作った世界で何をしようとしてるんだ!?」
「それはヒミツです。ってやつだ」
「ふざけてるのかお前は!」
「あっははは。悪いな。まだこっちも準備段階なんだ。自分達が計画していることが出来るかどうかも、彼が適合者かどうかに掛かってるんだ。その時が来るまで、この世界を満喫していてくれ」
「おい! こら! きちんと話していけ! くそッ! 居なくなりやがったか!」
ティグリスは起き上がり。声の主を探すも。声の主はティグリスが知覚できない範囲に消えていってしまった。
「……ハァ、何がこの世界を満喫しろだ。まったく……」
それをさせてくれそうもない奴に言われても説得力がないとため息を吐き。不貞腐れるように再び横になるティグリスであった。
☆★☆★☆
『取れたかの?』
「ええ。ティグリスさんに教えて頂いたスキルは全て習得できました。ですがポイントが足らず。トイ・ボーイさんのお奨めスキルは習得できませんでしたね」
『そいつは仕方ねぇんじゃねぇか。全部が全部上手く行くとは限らねぇよ』
「ですね」
『それで習得した感想はどうよ?』
「漠然とではありますが、使い方が分かりますね。何と言うかこうすれば良いんだ、と言った感じに」
『習熟度が低いからだろ。なに。あの兄ちゃんも言っていたじゃねえか。常日頃からやってろってな』
「はい。時間は限られていますが、出来うる限りは致しましょう」
おっと居た居た。シンは『高殿の搭』にある。『記録石』で己のステータス更新と、新たなスキルをEXPを使い取得したようである。
「ですが、私もそろそろ向こう側へと戻らなければ行けない時間になってきています」
『そうなのか? また来るんだろう?』
「……ええ。そうですね。曜日的には次の日となりますが」
『? ならその間は休眠事になるのか』
シンの若干の戸惑いの返事に疑問を感じた百地であったが、シンが言わない以上は大したことではないと判断し。返事を返したのであった。
因みにこのグローリアでは幾ら時間が過ぎようとも、現実と同じ日数で進む。まあこの辺はゲームですわな。
(往けませんね……。なまじこちらの世界の人達のから"意思"と言うものを感じるせいか。罪悪感に似たものが上がってきます)
七日以降はどうするか、真剣にその事を考えておこうとするシンであった。
『もう帰んのか?』
「いえ、あと騎士隊舎に寄り。私の受ける罰則を聞いてこないと往けません」
シンは騎士隊舎へと向かうと。
「おお! シン! ようやく来たか。もう少し待って来なければ、呼び出しをしていたところだったぞ」
「申し訳ありませんカムイさん。色々と所用を済ませていたら遅くなっていました」
『実際は忘れてた上に、後回しの後回しをしていただけだけどな』
そんな百地の突っ込みに苦笑しつつ。シンは自分が受ける罰の内容をカムイに尋ねる。
「うむ。シンが受ける罰則は『ゴミ掃除』だ」
「ゴミ掃除ですか? もっと重いモノだと思っていましたが」
「昨日も言ったが、本来は恩赦が適応される。それをわざわざシンが罰則を受けてくれるのだからな、重罪にもならん」
「そうですか。ありがとうございます。それで場所は?」
「ああ。南門正門。あちらの方角だ。の前に朝の第九の鐘が鳴るまでに集合してくれ。当日私は所用で居ないが、管理担当者が要るので、その者に聞けばわかるだろう」
「わかりました。それでは明朝より、償いの為の清掃をさせて頂きます」
▼▼▼▼▼▼▼▼▼《罪状内容》▼▼▼▼▼▼▼▼▼
〇ゴミ掃除。[開始期限:明日より]
違反した渡界者に罪を償わせるため。恩赦適応のシンも罰則を受ける事となる。
指定された範囲の清掃が終わらない限り罪を灌がれることはない。
場所:アコルの町南正門に明日朝第九の音が鳴るまでに集合。
[状態]罪人の証
※この状態は渡界者からは認識できず。またその罪状が清算されるまで、決して解けることのない。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
「はははっ。終わればシンの罪は灌がれるからな、しっかりとやってくれ」
「はい。では失礼致します」
シンは丁寧にカムイに頭を下げ。その場をあとにした。
「これで用件も全て終わりました」
『おう。またな、だ。相棒』
「はい。また明日お会いしましょう。百地さん」
百地を休眠状態へとすると、百地はグローリアの世界からその姿を消した。
そしてシンもグローリアからログアウトするとシンの姿も消えて居なくなった。
☆★☆★☆
「……ふぅ、中々貴重な体験をさせて頂きましたね」
現実へと戻ってきたシンヤ。
ヘッドディスプレイを机へ置き。一息つく。するとシンヤの帰りを待っていたかのように、仕事用の携帯に着信音が鳴る。確認すると、クライアントからであった。
「はい。こちら『万屋東條』です」
『キツネさん! ありがとう! お陰で限定アイテムが手に入ったわ!』
電話に出ると開口一番に美弥の大きな声がシンヤの耳に突き刺さった。
「……美弥さん。声は聞こえていますので、もう少し小さめでお願い致します」
『ごめんね。あまりにも嬉しくて、つい』
「いえ。ご依頼者の方に喜んで頂けたのなら、こちらのとしも幸いです」
『なーんか、当たり障りのない受け答えね。グローリアじゃ楽しそうに騒いでいたみたいだけど。何かあったの。キツネさん?』
「何時も通りの受け答えだと思いますが? お近くに要らしたんですか?」
『ふーん。沈んでる、とはちょっと違うわね。なにか悩んでるって感じね。近くにはいないわよ。グローリアの掲示板に『キツネさん』と言うのがあったからね。覗いて見てみたら、あ、これキツネさんだと思ったのよ』
「そんな話題が。普段通りにしていたのですが? それ程に話題に為るような事など在りましたか?」
『あら。話題を一個隠したわね。なに知られたくないってこと?』
「そう言う訳ではないのですが、自分の中でどう答えを見つければ良いのか、少し迷っていますね」
『あらあら。そうなの。少し迷ってるってことは、キツネさんの中では既に解決の糸口が見えているのね。でもその踏ん切りが着かないって感じかしら?』
「そうですね。その様な感じです。流石カウンセラー兼占い師でもある美弥さんですね」
「占い師は副業よ。人が悩んでいる時、カウンセラーに行くか。占い師に行くか。その違いなだけね。私はその悩みを聞く扉を少し大きくしてるだけ。キツネさんが自分で解決するのが難しいなら、キツネさんの周りの人にでも、それこそ町行く赤の他人にでも話してみなさい。自分で見つける解決策より。思わぬ解決策が出るときもあるわよ」
「町行く人に行きなり話しかけるのはご迷惑になりますが、そうですね。誰かしらに話を聞いて貰うのは良いことかもしれません」
『ちなみに私はお金取るわよ』
「そこは『タダで聞く』。と言うところでは?」
『だってそれが私のお仕事じゃない。キツネさんも私の話を『仕事』だから聞いたんでしょう?』
「それは、確かにその通りですね。『親しき仲にも礼儀あり』。その線引きは必要ですね」
『そう言うこと。だから、もしどうしても誰もキツネさんの話を聞いてくれる人がいなかったら、私のところへ来なさい。きちんとキツネさんの話を聞いてあげるから』
「はい。その時はよろしくお願い致します」
そのあと美弥と数度言葉を交わすと、再びグローリアにログインするからと美弥は電話を切った。
そして携帯の時刻見ると、次の仕事に行く時間となっていることに気がつく。
スケジュールで次の仕事を確認すると、発掘調査場でのアルバイトと書いてあった。
「思ったより長電話をしてしまいましたね。急がなくては」
シンヤは仕事の準備をして、部屋を出ていこうとする。
その時、ふと、グローリアでの一日目の晩に導き者・Dに言われた言葉が過った。
「……心配する人が要るですか。確かにその通りですね」
そしてシンヤ以外には誰も居なく。物が少ない。殺風景な部屋の扉を閉め。仕事場へと向かおうとすると、シンヤの腹の虫が鳴る。
いつもであればそのまま無視をして、仕事場へと向かうのであるが。
「……その前にコンビニで食事を買って行きましょう。また倒れる訳には往きませんからね」
シンヤの口許が少し上がり。
キツネ顔と言われるその表情がより柔和な微笑みとなっていたのであった。
次回の更新は3月3日となります。




