No.22
No.22
「ふふ~ん♪」
「にゃ~ん♪」
鼻唄を歌いながら元気よく行進していく導師・T。
それに釣られるようにして頭の上にいる虎次郎もご機嫌よく鳴くのであった。
「Tさん。先程先生と仰っていましたが」
「うん! 私の先生! 本人じゃないけど」
「本人ではない?」
「ええっとね……」
余計なことは言わんでよろしい。渡界者達が楽しく遊んで要られればそれで良いんだから。
自分が止めたことで言い淀む導師・T。そこに何かしらの事情があるのだろうと察したシンは、それ以上話を振っては来なかった。
そして彼らの歩みは段々と住宅街の地区へと向かっていく。
「こちらはまた随分と様変わりしますね」
がらりと町の風景が変わっていく。
シンが配達していた区域が都会の町並みとするのであれば、こちらはのどかな田舎の風景と言ったところであろうか。
そして石造りの家が立ち並ぶなか、木造の作りの平屋の近くに来た時に、その平屋から元気な声とやる気の無さそうな声が聞こえてきた。
「「「「先生ーありがとうございました!」」」」
「だから俺を先生と呼ぶんじゃねえよ……ハァ、もういいから気を付けて帰れよ」
そのあと子供達が元気に飛び出してくる。
導師・Tは飛び出てきた子供達を笑顔で見送ると、子供達も手を振って別れた。
「お知り合いですか?」
「ううん。知らない子達」
『そのわりにゃ知り合いって感じがしたけどな?』
「人見知りの無い子供だとあんなものですよ」
『そうなのか? 俺様はそう言ったことは知られねからな。相棒が言うんじゃそうなのかもな』
そんな会話をしていると導師・Tがその平屋へと入っていく。
シンはここが目的地なのだろうと一緒に入る。
「先生~こんにちは~」
「うにゃ~ん」
「ったく。今度は誰だ? ……嬢ちゃん達か……」
軒先に独特な民族装束を身に付けた、褐色の肌に薄緑の髪。アジア系の顔をした。眠そうな目をした男が、なんとも迷惑そうな表情をしてこちらを見た。
「ハァ、次から次へと休める暇がないな。帰れって言っても無駄なんだろうな」
「よいしょっと」と言って男は客のいる前で縁側で横になる。
「で、こんな影に何のようだ?」
「ええっとね、用件があるのはこっちの……」
「渡界者のシンと申します。何やらお休みのところを無理をして訪ねたようで申し訳ありません」
導師・Tの紹介を自ら言葉を述べた。
シンの態度に好感が持てたように男は「気にしてない」と言って、シンに訪ねてきた理由を問う。
「はい。Tさんから鬼紋闘法術を教わろうとしたのですが、貴方の方がより詳しく教えを乞えると言うことで、Tさんには無理を言って連れてきて頂いたのですが、もし日が悪ければ後日お伺いさせて頂きますが?」
「馬鹿丁寧な奴だな。まったく。極大バカ二人組にも見習って欲しい対応だ」
男は嘆息を吐きならがシンに聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。
「偽名だが、俺はティグリスだ。そう呼んでくれ」
『偽名なのかよ!?』
「ティグリス、さんですか」
「さんは必要ない。ただのティグリスだ」
ティグリスと名乗った男は欠伸を欠きながら近寄ってきた虎次郎を撫でている。
「で、鬼紋闘法術だったな。そこの嬢ちゃんが扱えるのを知っているなら、俺に聞きに来る必要はないんじゃないか?」
こちらの方を見て言うティグリスに。
導師・Tさん。シンに鬼紋闘法術の扱い方の説明をしてあげなさい。
「うにゅう? ええっとね。こう体をギュッとしてバーン! ってすると使えるよ」
「……ああなるほど。よく理解した」
擬音の上に理論もへったくれもない導師・Tの説明と、こちらの事情も察してくれたようだ。
「……ハァ、めんどくさい。影まで作って働かせて、なに考えてんだよお前は……」
おーい。項垂れてないで頼むよ。あとその言葉は大っぴらに言わないでくれよ。
「本当にご都合が悪ければ本当に日を改めますが?」
「さっきから気を使わせて悪いな。大丈夫だ。俺はこう言う星の下に生まれているらしくてな。まあ、説明くらいならしてやるよ」
それからティグリスはシン達を正式に招き入れた。
シン達はティグリスの勧めで縁側へと腰を下ろす。
「さて、鬼紋闘法術を教えてやる前にお前はどれだけ術に対して知識がある?」
「この世界には特殊な系統を除いて、精術。霊術。元術。晶術の四系統の術式が存在していて、それぞれ精力と呼ばれる力を用いて術を行使すると、聞き及んでいますが」
「その様子だと基礎的な知識は持っていると思って良いな」
ティグリスはシンの説明になるほどと頷いた。
「私からも質問を宜しいでしょうか?」
「なんだ? 面倒臭い質問なら願い下げなんだが……」
「いえ確認の為のご質問です。私は鬼紋闘法術を教えを乞いに来たのですが、今のご質問に何か関わりが?」
「なんだお前。鬼紋闘法術と言うのがなんだか理解してないのか? もしかして嬢ちゃんの術の凄さに驚いて、ただそれだけで覚えたいなんて言った口か?」
それなら止めておけと言って、それなら俺の説明はこれで無しだと寝に入ろうとしたディグリス。
それにシンは。
「ご不快を与えたようで申し訳ありません。確かにTさんの技の冴えに驚き。私自身も覚えられればと思い。教授を願い出たことは確かです」
「あれは危険な術だ。憧れや見てくれだけで覚えようとする術じゃない」
にべもなくこの話はもう終わりだと目蓋を閉じ寝に入ったディグリス。
シンはこれは一旦帰った方が良いかと思い悩んだ時に百地から。
『おい相棒。きちんとこの兄ちゃんに説明した方がいいんじゃないか? じゃねえと二度手間三度手間になんぞ』
「……ですかね」
七日間だけのゲームなれど。出来うることはすべきだと、今一度ディグリスの説得を試みる。
そして包み隠さず全てディグリスへと話した。
ディグリスはそんなシンの話を目蓋を閉じたまま黙って聞き。シンの話が終わったあと。ディグリスは徐に一言放った。
「……なるほどな。少し勘違いをしてるか」
ディグリスは寝ていた体を起こし。眠そうな瞳を開け。シンへと話す。
「先ずお前さんの勘違いを正してやろう。それは鬼紋闘法術は誰であろうと、精力さえあれば、それこそ闘士だろうが、料理人だろうが扱うことは出来る」
『何でそのチョイスだ?』
「特殊な術だとお聞きしましたが?」
「特殊と言えば特殊だ。だがやり方さえ知って要れば誰でも出来る。しかしその反面、術として効果を期待するとなると、今度は素質がモノを言う術だ」
ディグリスは導師・Tに実演して見せろと指示する。
「先ず第一だ。自らの内に在る精力を意識下に置く」
ディグリスの指示で立ち。シンの目の前で実演する導師・T。
「第二。意識下に置いた精力を体の中にある、精道と呼ばれる精力が通る道に流す」
導師・Tの体がうっすらと輝き出す。
「第三。その状態のまま精力の質と量を徐々に増していき。精道から漏れ出さないように維持する」
うっすらと輝いていたものが一瞬だけ強い光を放ち。その後は導師・Tと対峙した時に見た。鬼紋闘法術の形となっていた。
「これは術士にとって精力を扱うための基本のやり方だ。ただそれだけをやればいい。だがこのそれだけが、途方もないほどの果てにある」
「極めた者だけが使える術だと……?」
「そうだ。この術は弛まぬ努力と、一握りの素質の有る者だけがたどり着く事の出来る。極致の術だ」
話を聞いたあと。それでは七日間しかゲームをしない自分では扱うまでには行かないであろうと。別の道を探した方が良いかと、諦めかけたその時。
「ーーーと、本来なら言い放つんだがな」
ディグリスはため息を吐き。シンにお前は何者だと問う。
「何者、と言われましても……渡界者でしょうか?」
シンの答えにディグリスはニヤリと笑う。
「わかってるじゃないか。そうだ。お前らは渡界者だ。渡界者と言うのはこの世界の人間にはない力を持っている」
「力……ですか?」
「おいおい。自分の事だろう。わからないのか?」
「はあ、申し訳ありません。何分私はこの世界に来て間もないもので」
やれやれと肩を竦め。シンにこの世界に来た時に持っていたものがあるだろうと問うと。
「持っていたもの、と言うと、ユニークカードぐらいでしょうか?」
シンは自分のユニークカードを取り出して見せる。
「そうだ。ユニークカードだ。ユニークカードだけは今のこの世界の住人は持っていない。お前達だけの力だ」
ディグリスに言われるがいまだピンと来ないシン。
そんな不思議そうな顔をしているシンに懇切丁寧に説明しないとわからないかと、少々落胆した。いやあれはどっちかと言うと、更に面倒臭い説明をしなくてはいけないと言うため息だな。
「長く説明するのは俺が面倒臭い。簡潔に説明するぞ。良いな?」
「はい。お教え頂けるのな」
「お前は素直で良いな。あのバカ供は、いやこれは今は関係ない話か」
ディグリスは咳払いをして話を戻す。
「お前達の持つユニークカードは、お前達の仮の体、分身体と言ったか。そのアバターの持つ魂魄にまで影響を及ぼす事の出来る。一種の装置だ」
「装置……」
「まあ言葉は何でもいい。こちらに来て間もないと言っても、お前はもうその力を体験してるんじゃないのか? そのユニークカードを使って、本来なら長い時間を掛けて成長していく筈のものが、一瞬で爆発的に力を得ることが出来る感覚を」
ディグリスに言われ思い当たることか在る。
それは『高殿の搭』でユニークカードの更新をした際。体の内から何かが沸き上がる様な感覚を一瞬覚えたことを。
「そしてユニークカードの力は身体能力だけじゃない筈だ。本来努力をしなければ得られない技術。才能が無ければ伸びることもない力。そうしたものがユニークカードの力で一瞬で手に入る」
渡界者と言う視点から見ているせいか、こうしたものはゲームでは当たり前の機能であるとしか思っていなかった。
しかし現地人であるディグリスから言われ、この世界の住人からすれば、こうした能力は『チート能力』であると言うことを理解した。
「ではユニークカードの力を使って『鬼紋闘法術』のスキルを取得すればーーー」
「扱った瞬間にお前さんの体の内側で高密度に高められた精力を制御できず。爆散する可能性があるな」
シンの表情から「では一体どうすれば?」と言った、困惑したものが見えた。
「早合点したお前への注意だ」
「早合点ですか? 一体何処がでしょうか?」
「鬼紋闘法術は基礎を積み上げていった先に出来上がるものだと言ったろう。いきなり完成形を持っていったらどうなるかは、わかるだろう?」
なるほどとシンは頷く。
以前話した戦闘にはモードがあり。シンは『リアル』モードが選択されている。
このモードは身体へのアシストはなく。純粋な自身のプレイヤースキルがモノを言う。
しかしながら術に対しては補助機能が作動している。
それはきちんと術文を唱えると自動的に精力が制御され。使用した術文の術式が成り立ち。術が発動すると言うものだ。
ここでディグリスの言ういきなり完成形を持っていったら、と言う意味合いを理解出来なかった方が要るかもしれないので説明をしておこう。
それは鬼紋闘法術のような術の最高峰と呼ばれるものを、今のレベルのシンが扱えば爆散はしなくとも。精力の枯渇状態となり。死亡する恐れがある。
それは何故か?
術のアシスト機能は『きちんと術文を唱えると自動的に精力が制御され。使用した術文の術式が成り立ち。術が発動する』である。
これは誰であれ、その術式を唱えたら最高の状態で発動しようとするである。
例えて言うと、『ド○キーはギ○を唱えた。しかしMPが足りない』となるところを。
『ド○キーはギ○を唱えた。しかしMPが足りなかったが、その命を使って魔法を完成させた』と言う風になってしまうのだ。
この例から言うと。昨日『はぐれ異界の門』より現れたモンスターとの戦闘の際。シンが幻術を使い。モンスターを惑わした場面があるが、実は結構ギリギリだったのである。もしあの時に休みなく。シンが立て続けに幻術や幻想召喚を使っていれば、シンは間違いなく『死亡』となっていた。
また他の渡界者であればレベルが上がり。いつかはたどり着くであろうモノを。シンは一足飛びどころではないモノで覚えようとしている。
そうした理由があり。その辺りの知識を知って貰いたかったので、ディグリスを紹介したと言うのがひとつある。
「私は術士としての才を持ち得ていても、まだ知識も技術もまったく無いと言うことだったのですね」
「そうだな。だから俺は一番最初に術者としての基礎的な知識があるかどうかの確認をした」
「そうだったのですか。不勉強な身で申し訳ありません」
シンには間違いを起こす前に知ったのだから問題はないと言う。
「それで先程このユニークカードはこの世界の人達は、今は持っていないと仰っていましたが、その理由は? あの、どうかされましたか?」
シンの何気ない質問に、ディグリスは物凄く嫌そうな顔をしていた。
「俺に、その説明まで求めるのか……」
「あ! いえ! ご面倒でしたら自分で調べますので、無理にとは……」
ディグリスがチラリとこちらを見てくる。
あまりこっちを見て欲しくないんだがなぁ……。まあついでで、かる~く説明してあげてくださいな。先生。
「ったく。俺を先生と呼ぶな」
「あの、どうかされましたか?」
何やら不機嫌となったディグリスに声を掛けるシン。
それに対してディグリスは何でもないと手で制止。
「……ハァ、どっちにしろ二つの鬼紋闘法術の話をするとなると、この話は避けて通れないか」
盛大なため息を吐きながら面倒臭いと悪態も吐くディグリスである。
「これか話すことはちょっとした歴史の話だ。術者としてだけでなく。鬼紋闘法術を扱いたいと言うのであれば、聞いておいた方が損はない話だ。少し長くて、面倒臭い話となるが、良く聞いておけ」
「はい。お願い致します」
と言うわけでまだまだ説明回は続きます。
「虎次郎。みんな難しいお話ししているね」
「にゃ~ん」
「そうだね。みんなのためにお茶でも用意しようか」
勝手知ったるなんとやら。導師・Tはその場を離れお茶の用意をし出した。
あっお茶請けもあったらそれも出しなさい。なるべく高くて良いものをな。
「はーい」
「……お前ら、人の家で自由過ぎるぞ……」
次回の更新は2月17日となります。




