No.21
No.21
大剣から太刀に変化した百地を構える。
今度は『脇構え』ではなく。『正眼の構え』となった。
シンの構えからも先程とは違った攻撃が来ると判断した導師・Tは、自然体の構えではなく。無手で行う武道の『中段の構え』をとった。
「動きからして察していましたが、Tさんは立ち技を基本とする武道を嗜んでおられるのですね」
「ん? ああ! うん! そう! 私に技を教えてくれた先生から学んだんだよ!」
「それは良い方だったのでしょうね」
対戦の最中とは言え、屈託のない笑顔に毒気を抜かれそうになるシンは、試すことはこれからと自身を奮起させ。心を引き締める。
「Tさんこれからが本番となります。今暫くは私達の試しにお付き合いください」
「うん! いつでも!」
「ではーーー」
と、言葉を告げ。一呼吸の間を取り。始動の動きを見せず動き出すシン。
『無拍子』と呼ばれる相手にリズムを読ませない動きをするも、導師・Tは顔色を変えずこれに対応。
しかし迫り来る刃に対して受け流そうと触れようとした瞬間、導師・Tが眉を潜めた。
そして今まで紙一重で躱していた導師・Tが、大きく避けるようにシンの攻撃を躱した。
導師・Tのその様子にその場に居た誰もが訝しんだ。
「Tさん?」
「……今その子に触れようとしたら、嫌な感じがした……」
「百地さんに? 百地さん?」
『あん? 俺様は何にもしてねえぞ?』
どう言うことだ? んーあっ!? これか! 嫌な感じはこれのせいか!
「ん? なに? どうしたの?」
「Tさん?」
『なんだあの姉ちゃん。独り言か?』
「いえどちらかと言うと、誰かと会話しているような感じですが……」
『っても俺様達以外誰もいねぇぞ』
「ですね」
独り言を喋る導師・Tに戸惑う二人。
「あ、ごめんね放っておいて。ええっとね。さっきまでの百地ちゃんと違って、今の百地ちゃんが嫌な感じがした理由を話すね」
『俺様を『ちゃん』付けかよ!?』
「百地さん。今は黙ってお聞きしましょう」
憤慨する百地に宥めるシン。
「今の百地ちゃんはさっきまでと違って何か『特攻効果』が付いてるでしょう?」
「はい。現在の百地さんの形状『鬼切』は、『鬼系モンスターに対して二・五倍の攻撃力を持つ』と言う説明文にはありましたが、それが?」
「んーとねぇ。私は人間族と鬼人族のハーフなの。だから『二・五倍の攻撃力はなくとも、倍くらいのダメージを与えることくらいはできる』って言うことらしいの」
『らしいって、おい……』
「Tさんに幾ら鬼人族の血が流れていようとも、Tさんはモンスターではないと思われますが?」
「『便宜上モンスターと銘を打っているだけで、それが人にも効かないのはおかしいと思わないのか?』だって。うん? だってはいらない?」
「それは、確かにその通りだと思いますが、何故その様な説明文を?」
「『現地人達にも攻撃が通じると知れば、それを試そうとするものが必ず現れる』」
「それは分からなくもないですが、PKプレイヤーと呼ばれる方達なら試そうとするのでは?」
「『現地人もただ黙って殺られる訳じゃない。そんなことをするものが要れば、その者は相応の報いを受けることになる。それはゲーム内であれ。現実であれ。変わらないはずだ』」
「……常識を持つ人であっても、それが出来ると知れば、誘発されないとは限らない。ふとした『魔が差す』、と言う行為は誰しもにも起こり得ることですからね。なるほど。知らなければそうした考えも思い浮かびませんか」
シンは今の説明だけで納得したようで。
「こちらのご質問に答えて頂き有り難う御座います。導師のお方」
くっ……。完全に今の言葉が導師・Tではなく。自分の言葉だと言うのを理解されたか。口調も違うし。そらまあ分かるか。フゥ、また出過ぎたようだ。控えないと。
「となると、これ以上の試しは不要ですね」
シンは鬼切の性能を試したかっために訓練所に来ている。
故にそれが知れれば問題がないと言うように百地を納めようとするーーーが。
「なんで? まだ私は受けしかやってないよ?」
おい! こら! 何を考えてる!?
「ですがTさんには、鬼切状態の百地さんでは危ないのでは?」
「大丈夫」
導師・Tが全く問題ないと、自身の拳を握り込みながら気炎を上げる。
いや、実際に導師・Tの拳からは炎が立ち上がり。拳から肘に掛けて炎を模した紋様が浮かび上がる。
『ありゃあ……もしかして『鬼紋闘法術』かッ!?』
「知っているのですか? 百地さん」
いやそこはライ○ンでじゃないのか?
『俺様も噂程度でしか聞いたことがねえから、本物かどうかはわからねえ。それでも言いか?』
「ええ」
『人が使う術の中に肉体強化の術がある。その中でも最高峰と呼ばれている術が、鬼紋闘法術だ。
内容としては至ったシンプルだ。自分の精力を一切外に出さず。爆発的に高めて行き、制御する。ただそれだけだ。
だがその爆発的に高めていくと言うのが肝であり。難点でもあるのがこの術の特徴だ』
「難点?」
『おうよ。他の術は大概リミッターが働くように術式を組む。だが鬼紋闘法術はそのリミッターがねえ』
「それでは」
『おう。際限無く。どこまでも高められる。ただその術者の体が持てばの話しだがな』
「それでは維持できるところで留めれば良いのでは?」
『おい相棒。よく考えろよ。常に爆発的なエネルギーが体ん中に渦まいてんだぞ。一瞬でも気ぃ抜けば自分にダメージがいく諸刃の術なんだよ。こいつは』
「そんな危険なモノをTさんが使って要るのですか!?」
『ようやく俺様もあの姉ちゃんが尋常じゃねえ相手だと理解したぜ』
百地の説明で概ね間違いない。
補足と言うか、もう少し分かりやすく言うと、鬼紋闘法術は界○拳や裏○華と言った方が分かるだろう。
どちらも身体能力を爆発的に上げ。自分の限界を越えて使えば、手痛いしっぺを食らうと言うのは同じだからだ。って違う! こら! 術や技は駄目だって言っただろう!
「さあやろう! これなら百地ちゃんの刃も問題ない!」
ダメだ。もう聞こえてねぇ。ハァ、導師・Tの悪い癖が出た。
彼女は闘いに快楽を見いだす方ではなく。純粋に闘いを楽しむタイプの戦闘狂だ。快楽の方も要るがそいつはいずれ登場するだろう。覚えていたら覚えておいてくれ。あいつはあいつで厄介なんだよなぁ。ハァ……。
シンとの練習でシンのポテンシャルが以外に高いことを知った導師・T。それが導師・Tの闘いの琴線に触れてしまった。
『おいどうする相棒。あの姉ちゃん完全にやる気だぞ』
「そこまではないと思われますが……やれますか?」
『はん! 誰に物言ってやがる! この俺様は逃げも隠れも臆しもしねえ! 相手が誰であろうと俺様を扱う奴が逃げねえなら、共に戦うのが俺様よ!』
「そうですかーーーでは」
『おうさ!』
「じゃあ!」
百地を構え直すシン。
拳から炎を噴き上げる導師・T。
「「『再戦と行きましょう(再戦とシャレこもうか)(もっとやろう)!』」」
互いに言った言葉が始まりのように、今度はどちらも様子見ではなく。ほぼ全力で闘い始めた。
ほぼと言うのは導師・Tの方が、また奥の手や切り札を隠し持っているからだ。
シンの方は現在持ち得る全ての技量を出し尽くして、導師・Tと相対している。
この対戦を描写したいのだが、とてつもない文字数になる上。高速戦闘を行っているため、解説するだけで二手三手どころか。十手くらい先に進行しているので勘弁して貰いたい。
どうしてもと言うなら、ドラ○ンボールの様な殴り合いでもしていると思って頂ければ分かりやすいだろう。
「にゃ~ん?」(お仕事サボり?)
違います。語りたくても、その技術がないだけです。
「うにゃ~ん」(もっと精進するの~)
……はい。ガンバります。
☆★☆★☆
「……ええっと、あれは……」
「お気にさらないで下さい」
導師・Tとの模擬戦。あれを模擬戦って言いのかなぁ? それが済み。ギルド受付へで会計を済ませようとしていたシンは、受付へと行く扉を出ると。そこにはシンの説明案内をしたギルド職員の女性が微笑みながら怒ると言う器用な表情をしながら、仁王立ちをしてシン達を待っていた。
模擬戦を満足げに済ませ。シンと共に受付へと行った導師・Tは、その女性の般若のような笑みを表情をみると。
「ひにゃあ!?」
と、奇妙な声を上げ。ギルドから飛び出ていくように逃げようとしたが、敢えなく他のギルド職員に捕まり。ギルドの隅の方で正座をさせられ。
『私は私的利用で施設を無断使用した悪い子です』
と、書かれた木札を首からぶら下げていたのであった。
ギルドにいた渡界者達は物珍しそうに導師・Tを見つめ。時にはスクリーンショットを撮影していたりした。
勿論撮る場合は許可を得てだが。ただその許可の相手が撮る本人ではなく。ギルドの職員にと言うのが、またなんとも言えなかった。
まあ今回は自業自得だから自分も擁護しないがな。反省しておくんだぞ。
「ふにゅん……」
「ふにゃ~ん……」
妙な鳴き声を上げ。正座させられた導師・Tの膝には、丁度良い昼寝場所と言うように賢獣の虎次郎が丸くなって欠伸を欠いていた。
「シンさま。今回はウチのギルド長が、大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
魔人族の女性が深々とシンに頭を下げ謝罪している。
シンはそれに戸惑いを覚えつつも、何の被害も受けていないと説明した。
「シンさまに利益が出たとしても、今後も同じことを繰り返さないとも限りません。罰は罰として与えなければいけません」
そう言われてしまえばシンも引き下がるしかなかった。
そして料金問題に関しては。
「今回はギルド長の責任となりますので、シンさまにご負担される金額はございません」
「そうですか。私と致しましても、悪乗りした部分も無きに在らずと言ったところなので、構わなかったのですが」
『良いんじゃねえか相棒。あのやたらと強ぇ姉ちゃんのおごりと思えば。ったくよ。俺様達が本気でやっても、その底すら見せねぇんだから、大した姉ちゃんだぜ』
参ったお手上げだと、上げる手がない百地だが、導師・Tの技能の高さには脱帽していた。
「お陰で百地さんとの連携の仕方を学べました。そう言った意味ではお支払すべきなのでしょうが……」
にっこりと怖い笑みを浮かべながら導師・Tに説教をしているギルド職員の女性を見る。
「あちらの言い分を聞いておいた方が、Tさんのお説教は短くなるような気がしますね」
ここでシンが支払うなどと言い出したら、余計に導師・Tに被害が行くと踏んだシンは、黙って今回の提案を飲んだのであった。
「ああそうだ。導師・Tさんにご質問があるのですが、宜しいでしょうか?」
むっ? ここ言い方、自分に何か聞きたいことがあるのか? だがこれ以上役割を越えての行為はしたくはないんだがなぁ……。
ギルド職員の女性もシンが導師・Tに話があると言うことで説教を一時止め。会話が出来るように一歩後ろへと下がった。
「なに?」
説教が終わったことでほっとした表情を見せ。シンに何が聞きたいのか、小首を傾げる尋ねる。
「私は職業選択で術師の系統の職業となりましたが、私としましては討滅者や守護者でしたか、と言ったものの方が性に合っているようでして」
「転職するの? ならある程度までレベルが上がれば変更できるよ」
『おいおい相棒!? もう俺様とお別れか!?』
「百地さん。Tさんも誤解するような言い方で申し訳ありませんでした。私が言いたいのは、今のままの職業のままで、そうした職業のように立ち回りたいのです。そして今回Tさんとの手合わせで、その道筋が少し見えたので」
なるほど。鬼門闘法術か……。そうなるとこちらで答えても大丈夫な質問ではあるが、丁度良い。適任者がいる。その人に先生役をして貰おう。
「ふんふん……」
『またこの姉ちゃん独り言してんな……』
「何方かと連絡を取っておられるんでしょう」
『どなたかって誰だよ?』
「さあ? それは分かりませんが、きっと許可を取らねばお答えできない質問だったのかもしれませんね」
導師・Tの独り言を待つシン達。
そして待つこと暫し。
「うんわかった。じゃあ先生のところへ連れていけばいいんだね」
導師・Tは会話が済み。シンをとある場所へと案内するよう指示された。なので導師・Tはこの場を離れても良いかと言うように受付の女性を見る。
女性はため息を吐き。どうぞと言うように手で示唆した。
それを見た導師・Tは虎次郎を抱え。嬉しそうに立ち上がり。
「こっちだよー! 案内してあげる!」
ギルドの出入り口に向かって走っていった。
『おいおい。案内するって言ってるわりには置いてっちまったぞ!?』
「外で待ってくれているでしょう。それでは私はこれで失礼させて頂きます」
「またのご利用をお待ちしています」
苦笑している受付の女性に挨拶を済ませ。自身も導師・Tを追って外へと向かっていった。
次回の更新は2月10日となります。




