No.14
No.14
「シン。ゲオルグへの挨拶は終わったのか?」
「はい、ゲオルグさんへの連絡は終わりました。ご依頼は完了で良いと。給金に関してはギルドで受け取ってくれと言われました」
「そうか」
ゲオルグへの報告が終わり。再び戻ってくると周囲の状況は安定したのか、結界を張っていた。
結界は『異界の門』を取り囲むように正方形の形をした結界で、薄く七色に輝いている。
見ようによっては巨大なシャボン玉にも見えた。
「結界は周囲の星力が安定した為に張った。あの状態になればもう大丈夫だ」
「そうですか。それは良かったです」
シンが心配して見ていたのが気になったのであろう。カムイがもう大丈夫だと告げる。
「よう、さっきの続きだが。『異界の門』との分断を図るなら、壁を押し寄せるようにした方が良かったんじゃないのか?」
アスラが先程での【幻術】で作り上げたものにまだ疑問を感じ。シンに質問する。
シンは確かにアスラが言うようなやり方でも良かったと言うが。
「それだと幻術。まぼろしだとバレる可能性があります。バレないように分断するようにするには一本の道のようにした方が良かったのです」
「ああ……触れれば分かるのか。それだと気づかれる可能性も出てくるか。じゃあ一本の道にした理由は?」
「それも意味合い的には少なからずありますね。複数の道よりひとつの道に。その方が判断がしやすい筈です。戦闘中に両端に突然巨大な壁が現れたら、お二人はどうされますか?」
シンはまるで謎解きをするように二人に問いかける
。
「そりゃあビックリするわな。それと何が起きたかの確認だな」
「そうだな。術式であればどんな事をされるか分かったものではない。周囲の安全状況は確認するだろう」
(大変人間らしいお答えですね。この質問の答えでお二人が知能を持った。理性的な人だと言うことが伺えます)
「地震などが起きた時、人は先ず自分の安全確認をします。ここは危険か? ここは安全か? と言うように。これは獣も同じです。
しかし獣の方はその判断が人間より早いです。少しでも危険と本能が感じ取れば即座に退避します。大きな地震の前に獣達が移動する。等と言った話を聞いたことがあると思いますが、それがそうですね。
そしてその時に何処へ逃げれば良いのか? 安全な自分の巣か? それとも安全そうだと思う別方向か?
この場合安全な巣とは『異界の門』の事です。
安全そうなとは突然の壁を作り上げた私の方ですね。
敢えて逃げる方向を二つ作った時、逃げるならどちらに逃げるかと言うことです。
お二人ならどちらです? 安全だと分かる方ですか? それとも未知の力を使った私の方ですか?」
「それは……」
「普通なら『異界の門』の方だろう」
「お二人とも合理的なお答えです。普通の方でもそうでしょう。きっと獣もそうでしょう。敢えて危険な場所に行くモノ等はいません。挑発行動をしたとは言え、あの時のゴブリンは理性や本能よりも、何か衝動的なものに駆り立てて動いていた気がします」
「衝動的なもの?」
「そんなもので動くのか?」
「動きますね。例えばですが、狂信と呼ばれる程の盲目的に何かを信じている方がいらっしゃった場合。その方の信じているものから何かを実行せよと言われた場合は、自分の命など無視してその命令を実行することがあります」
(洗脳とかもそうですね。あれも一種の狂信です。目的の事以外には一切目に入らない。私もそう言った方達と少しばかりトラブルがありまして、お相手した時がありましたが、降伏勧告は受け付けませんし。最後の一人になろうとも、その行動を止めることはありませんでした。ゾンビ映画を見たことがありますが、襲ってくるゾンビ、まさにそのものでしたね)
「つまりどう言うことなんだ?」
「そうですね、結論の前にもう少しお話を。あのまま門に帰るのであれば、モンスターは獣と同じと判断しても良いかもしれません。ですがこちらに向かって来ました。ではその向かってくる理由はなんでしょう?」
「理由?」
「はい。撤退をしない理由と言えば分かりやすいですか?」
「戦場で、引くに引けない理由があるとすれば、殿を務めるか」
「負けられねぇ戦か……」
「そうですね。どちらも仲間を守ると言う行動の先にある行為です。
しかしモンスターである彼らには、その行為はありません。何故なら仲間が死のうとも顔色を変えずがむしゃらに突っ込んできました。それこそ目の前にいる自分以外の存在を許せないと言うように」
「モンスターと言えば狂暴で、手当たり次第に暴れると言う認識しかなかったが……」
「その認識で間違いないと思いますよ。そこで先程の衝動です。戦っていて気がついたことなのですが。モンスターは目の前にいる存在に対して、衝動的に動いていると言った感じでした」
(『目の前に敵が要れば殺せ』。と考えれば、あの稚拙な戦闘も少し納得が出来るのです。
何処かの誰かにそう命令されて動いている。
幾ら数があろうとも彼我の差は明らかです。何時かは均衡が崩れます。引くべき時に引かなかったモンスターは、ただ命令されて動くだけの存在であったのではないかと、私は思うのです。
もっともこの話は、ゲーム状のプログラミングされた動きだと言われてしまえば、それまでの事なのですが。
まあこの辺の話はお二人には言わなくても良いでしょう)
「色々と難しくお話してきましたが、一本の道にしたのはモンスターがどちらに行ってもいいようにと言うことと。そしてモンスターはモンスターだったと言うことが分かった、と言うお話です」
「お、おう。なんかわかったようなわからんような……」
「事前にモンスターを門へ押し返すか。門から引き離すと説明は受けていたが。なぜそうしたのかもこの話でまあ、一応の理解はできた。しかしなぜだろうな。煙に巻かれたような気分にさせられるのは……」
「私は幻想者。人に夢や幻を見せる存在だそうですので、その辺はご容赦を」
私はお二人の狐につままれた表情に、腰から折り曲げたお辞儀をして返すのでした。
☆★☆★☆
門の中をひた走る渡界者たち。
それは後ろから迫ってくるモンスターから振り切るために。
「くそっ! やっぱり駄目だ! 設定がリアルモードで固定されてる!」
「あの鬼が現れてからだよな!? モードが固定されたの!? あの鬼から逃げ切らば切り替えができるんじゃないのか!?」
「わかんねえよそんなこと! 大体設定したモードが勝手に切り替わるなんて説明にはなかった! これデスゲームになったらわけじゃねえだろうな!?」
本来起こり得ないことに混乱して悪態をつく。
だがそれでも走ることだけは止めない。止めれば後ろから来るモンスターに殺される。
これがゲームであり。本来の肉体には何ら影響はないと頭では分かっている。
しかし都市伝説的に蔓延しているVRゲームに付き物のデスゲームの話を思い出してしまい。もしかしてと言う思いが過ってしまっている。
だから止まれなかった。
だから逃げるしかなかった。
後ろであのモンスターの犠牲になっている渡界者の叫び声が、余計にそう思えてしまってならなかったから。
「はあ、はあ、はあ、あ、あと少しで出口ーーー」
「ぎぃやあああああ!! た、たすけてえええええ!!」
一緒に走っていた仲間の一人が突然の叫び声をあげる。
そちらを見ると火だるまに成りながらも、懸命にその火を取り払おうとしていた。
助けに行きたかった。ゲームの中とは言え、共に苦楽を共にした仲間。助けに行きたかった……だけど。
「GAAAAAAAAAAA!!」
薄ぐらい洞窟の奥からあの赤黒い鬼の姿を見たとき、仲間を助けると言う思いは消えた。
在ったのは殺されたくないと言う思い。ここから逃げなければと言う、ただその思いだけであった。
仲間がいまだに助けを求めるなか。罪悪感よりも自らの生存本能が勝ち。仲間だったものを置き去りにし。駆け出していく。
「たすけて! たすけて! いやだ! 嫌だああああああーーー」
後ろから何かを咀嚼する音が聞こえる。
振り返れない。振り返って見ることが出来ない。
振り返れば今度は自分がそうなってしまうと思えたから。
「はあ、はあ、はあ、あと、すこし! あともう少しで!」
あの角を曲がり。真っ直ぐ行けば門の入り口が見える。そこから外に出ればーーー。
角を曲がり直線距離を残りの体力をすべて使っても構わないと言うように懸命に走る。
そして門の外へと出ると。その時に体に強烈な痛みが走る。これは『聖地』などで対策を取らずに入るとよくある現象。
『聖地』に存在する異常発達した星力が体へと侵入する現象。このグローリアでは【混濁状態】と呼ばれる状態異常である。
『聖地』でない場所でこれが起きたと言うことは、門の出入り口に結界が張られたと言うこと。
そして一瞬で意識が飛びそうな痛みのあと、意識は再び覚醒する。結界を抜け出たのだ。抜け出て回りを見回すとまだ幾人かが残っていた。その者達に助けを求めようと声を出す。
「たすkーーー」
しかしその言葉を塞ぐように、白髪の渡界者だろう人間が大きな声で、切羽詰まったような声を出して。
「そこから逃げないッ!!」
何を言ってるのか分からなかった。ただその意味を理解しようとする前に自分の目の前が上下に切り裂かれていく。
上下に別れた視界は真っ赤になり。そして次第に暗くなっていく。どっさりと倒れた体。急速に意識が遠くなっていくなかで、門の中で逃げてきた、あのモンスターの雄叫びが聞こえた気がした。
次回の更新は12月23日となります。




